【第2部番外】夜と朝の間に/スピカ
第2部のラストシーン+α。第2部読了後にお読みください。
キスの雨が降る。
胸が疼いて、息が出来なくなる。
彼がふれる場所が、触れたとたんに熱を持つ。それは全身にじわりじわりと広がり、あたしの頭を溶かして行く。
「スピカ……嫌じゃない?」
シリウスがあたしの体から顔を上げると心配そうに問う。満月の光が窓から斜めに差し込み、彼の右頬を明るく照らす。
今更何を言うの。嫌な訳、ない。そんな事聞かないでほしい。そんなこと、分かりきってる。
あたしは問に答える代わりに彼の首に腕をまわした。耳元で低くささやく。
「嫌だと言ったら、やめてくれるの」
彼は息をのむ。そして眉を寄せすごく困ったような顔をする。
「……止められない」
「なら、聞かないで」
シリウスは素直に頷いたが、一瞬の間の後、躊躇ったように尋ねる。
「…………君は止めても平気?」
その言葉に瞠目する。思わぬ反撃だった。意地悪をされてる気がした。でも彼は別に駆け引きをしようという様子ではない。本気であたしの気持ちが分からないようだった。ただひたむきに問いを続けた。
「僕に抱かれたいって思わない? 僕だけが、君が欲しいってそう思ってる?」
「……嫌だったらそう言うわ」
あたしは焦れてイライラしだしてた。いつもは強引なくせに、なんで今日に限ってこんなに。
「僕だって、君に求められたい」
「……」
「君の口からそう聞きたい」
シリウスは子供のころに戻ったかのように、言い募る。すねているような様子があった。
そこでようやく思い当たる。
もしかしてこれは……この間のお返しなのかしら。
「スピカばかりずるい」
「……」
少し頬を膨らませるシリウスは、ほんとに子供の頃に戻ったみたい。そう思ってあたしは吹き出しそうになる。
「この間言ったのに」
「聞いてない」
夢だとは思ってたみたいだけど、聞いてたくせに。
「言ったもの」あたしが再び言うと、「聞いてない。あれは夢だ」
頑固にシリウスはそう言った。
堪えきれずに吹き出す。部屋の中からは甘い雰囲気がとうとう消えてしまった。
「シリウスったら、子供みたい。……そういうときは、自分から言えば良いのに。あなたが言えば、あたしも言うわ」
シリウスは一瞬黙り込む。
「なんだか……やっぱり、スピカはずるい」
可愛いなんて思うのはおかしいのかもしれない。でも、どうしてもその様子が可愛くて、ついからかいたくなってしまう。
「聞きたくないの?」
一瞬の間の後、彼は口を開く。その顔はやっぱり真剣で、言い慣れないがためにぎこちない。
「あいしてる」
あたしは彼の瞳を見つめたままにっこりと笑った。期待を込めてあたしをじっと見つめる彼としばし見つめ合う。それはまるでえさを待つ子犬のよう。
「……スピカ?」
シリウスはあたしがそのまま黙り込むと、その顔色を変えむくれた。
「また僕にだけ言わせて……」
拗ねるシリウスの耳元に口づけると、そっと彼の欲しがる言葉をささやく。
まわされた腕に一気に力がこもる。そして折れそうなくらいに強く抱きしめられた。