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皇子たちの饗宴 番外編  作者: 碧檎
「闇の眼 光の手」番外編
3/32

【第2部番外】夜と朝の間に/スピカ

第2部のラストシーン+α。第2部読了後にお読みください。


 キスの雨が降る。

 胸が疼いて、息が出来なくなる。

 彼がふれる場所が、触れたとたんに熱を持つ。それは全身にじわりじわりと広がり、あたしの頭を溶かして行く。


「スピカ……嫌じゃない?」

 シリウスがあたしの体から顔を上げると心配そうに問う。満月の光が窓から斜めに差し込み、彼の右頬を明るく照らす。


 今更何を言うの。嫌な訳、ない。そんな事聞かないでほしい。そんなこと、分かりきってる。

 あたしは問に答える代わりに彼の首に腕をまわした。耳元で低くささやく。


「嫌だと言ったら、やめてくれるの」


 彼は息をのむ。そして眉を寄せすごく困ったような顔をする。


「……止められない」

「なら、聞かないで」

 シリウスは素直に頷いたが、一瞬の間の後、躊躇ったように尋ねる。

「…………君は止めても平気?」

 その言葉に瞠目する。思わぬ反撃だった。意地悪をされてる気がした。でも彼は別に駆け引きをしようという様子ではない。本気であたしの気持ちが分からないようだった。ただひたむきに問いを続けた。

「僕に抱かれたいって思わない? 僕だけが、君が欲しいってそう思ってる?」

「……嫌だったらそう言うわ」

 あたしは焦れてイライラしだしてた。いつもは強引なくせに、なんで今日に限ってこんなに。

「僕だって、君に求められたい」

「……」

「君の口からそう聞きたい」

 シリウスは子供のころに戻ったかのように、言い募る。すねているような様子があった。

 そこでようやく思い当たる。

 もしかしてこれは……この間のお返しなのかしら。

「スピカばかりずるい」

「……」

 少し頬を膨らませるシリウスは、ほんとに子供の頃に戻ったみたい。そう思ってあたしは吹き出しそうになる。

「この間言ったのに」

「聞いてない」

 夢だとは思ってたみたいだけど、聞いてたくせに。

「言ったもの」あたしが再び言うと、「聞いてない。あれは夢だ」

 頑固にシリウスはそう言った。

 堪えきれずに吹き出す。部屋の中からは甘い雰囲気がとうとう消えてしまった。

「シリウスったら、子供みたい。……そういうときは、自分から言えば良いのに。あなたが言えば、あたしも言うわ」

 シリウスは一瞬黙り込む。

「なんだか……やっぱり、スピカはずるい」

 可愛いなんて思うのはおかしいのかもしれない。でも、どうしてもその様子が可愛くて、ついからかいたくなってしまう。

「聞きたくないの?」

 一瞬の間の後、彼は口を開く。その顔はやっぱり真剣で、言い慣れないがためにぎこちない。

「あいしてる」

 あたしは彼の瞳を見つめたままにっこりと笑った。期待を込めてあたしをじっと見つめる彼としばし見つめ合う。それはまるでえさを待つ子犬のよう。

「……スピカ?」

 シリウスはあたしがそのまま黙り込むと、その顔色を変えむくれた。

「また僕にだけ言わせて……」

 拗ねるシリウスの耳元に口づけると、そっと彼の欲しがる言葉をささやく。

 まわされた腕に一気に力がこもる。そして折れそうなくらいに強く抱きしめられた。

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