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皇子たちの饗宴 番外編  作者: 碧檎
「涸れ川に、流れる花」以降の番外編
29/32

【番外編】真夜中の来訪者 1

涸れ川に、流れる花 の「27 お姫様には騎士が必要」でルティが協力を求めて来訪したのはここでした。



「ルキア、眠ったわ」

 隣室の扉から現れたスピカが、こちらを向いてにこりと笑った。

 うつらうつらとしていた僕が起き上がると「あ、ごめんなさい、起こしちゃった?」とスピカは眉を寄せる。

「……起こしてって言ってただろう?」

 僕が寝入っていたらまた起こさなかったのかもしれない。いつも起こしてくれといっているのに、彼女が言うことを聞いたためしがなかった。

 翌朝問いつめると、ぐっすり眠っているのに可哀相だったから――彼女はそう言うけれど、起こされずに欲求を溜めてしまう僕の方がよっぽど可哀相だ。そういうところでは未だ子供扱いなのかもしれない。腐る僕を、しかし、スピカは相変わらず母のような顔でなだめるのだ。自覚が無いから困ってしまうのだけれど。

「疲れてるんでしょう。久々の長旅だったもの」

「今回は船だったし疲れてないよ。それに到着は昨日だ。もう疲れもとれたよ」

 アウストラリスに着いて二日目。口では強がるものの、何度訪れてもこの乾いた空気には未だ慣れない。一日の終わりには全身が砂と埃だらけになり、風呂に入りたくなった。

 メイサが僕たちを気遣って、ジョイア式の風呂を用意してくれていたが、水の無い土地だということを知っているだけに、水を使うことをどうしても遠慮してしまう。完全に寛ぐことは出来なかった。

 それでも、ここにはまず双子のエアルとリトスがいない。ルキアだけはメイサのぜひという希望もあって連れて来たのだけれど、さすがに生まれて五ヶ月ほどの乳児を二人も連れて来るのは難しいと思って、断念したのだ。彼女達はジョイアでサディラや大叔母、両祖父達とお留守番だった。


 僕が空いた隣をぽんぽんと叩くと、スピカは苦笑いを浮かべながらそこに滑り込んだ。

 羽織っていたガウンを脱ぐのを手伝う。ついでに夜着の結び目を解こうとすると、スピカが僕の手首を掴んで阻んだ。

「シリウス、駄目よ」

 思わぬ拒絶に僕は目を見開く。

「なんで? せっかく久々に二人きりになれたのに」

 最近ようやくルキアから取り返したと思っていたら、その後は双子にスピカを奪われっぱなしだった。だからこそ、この旅行で得られる夫婦の時間を僕は随分楽しみにしていた。スピカもきっとそうだと信じている。

「よそのお家だもの」

 僕たちの王都エラセドでの滞在先は城下町にあるシトゥラの別宅だった。今回の滞在のために特別に手を入れたらしく、内装が真新しい。

「今さら誰も気にしないよ」

「でも……め、メイサはこの間来た時は、遠慮してあたしの部屋にいたじゃない」

 遠慮? それは違う。そう思いながら反論する。

「宮ではそうだったかもしれないけど……別宅ではそうじゃなかったと思うけど」

 報告を受けたオリオーヌ別宅でのことを含めて言うと、スピカは瞬く間に赤くなった。報告には「屋外の風呂から女の悲鳴が聞こえる」と周辺住民から通報があったと書かれていたのだ。事件じゃないとの説明が大変だったとも聞いた。

「彼らと同じだよ。ここ、王宮じゃなくて別宅だし」

 そう言って一押しするが、スピカは別の逃げ道を探した。

「で、でも、隣にはシュルマがいるもの。壁、そんなに厚くないわ」

「……気にしないよ、きっと」

 いや、シュルマなら聞き耳くらいは立てるかもしれないな、そんなことを考えるけれど、思考よりも先に手が動いていた。

 拒んでいるといっても、押せば落ちる程度のもの。そのくらいはさすがに分かるようになった。口では妥協案で説得しながら、指で彼女が欲しくなるように仕向けるのも……多分上手くなったと思う。

 スピカは僕のキスを避けて俯いている。その分無防備になっている白い肩に軽く噛み付くと、スピカが慌てて顔を上げる。

「痕、つけたら、や――」

 隙のできた唇を確実に捕らえて、寝台に押し付ける。邪魔な夜着を取り除きながら、指を這わせ、熱の在処を探る。胸を押して抵抗していた腕の力が緩むのを待って、唇を浮かすと瞳を覗き込んだ。

「いい?」

 敢えて尋ねる。

 スピカが目を伏せて赤くなったのを合図に、僕は彼女の体に身を伏せた――まさにその時だった。

「殿下」

「………………」

「殿下。お休みのところ申し訳ありませんが」

 こういったところで必ず邪魔が入るのは一体何の呪いだろう。扉の向こうの声に僕が返事をしないと、スピカがどことなく気の毒そうに「返事しなくていいの?」と促す。

「開けますが、お召し物は大丈夫ですか」

 どうやら来訪者は問答無用で踏み込むつもりらしい。僕は渋々スピカの夜着を元に戻し、枕元に置いていたガウンを着せる。

 それを見計らったように扉が開き、声の主、イェッドが現れた。

「一体なんなんだ」

「お邪魔でしたか」

「邪魔に決まってる。で、なに?」

 忙しいんだと睨むが、全く気にせずにイェッドは飄々と口を開いた。

「殿下にお客様です」

「こんな夜中に?」

「火急の用件だそうで……」

 イェッドの後ろから大きな影が現れ、僕は目を見張った。後ろでスピカも息を呑んでいる。

 彼は赤い髪を鬱陶しそうにかき上げると、僕らを見て大きく溜息をついた。

「お楽しみのところ、邪魔して悪いが……スピカ、どうしてもお前の力が必要だ。――手伝ってくれないか」


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