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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第二章 迷宮の奥へ
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8:「デジャビュ」




 私は住処の一つに戻り、渡された資料に目を通した。


 長久保の言葉。「今起きている連続殺人事件の情報も君に届けさせる」


 情報の漏洩。組織の大物。警察関係者。


 警察には捕まえられない連続殺人犯。


 八年前の私の仕事をなぞっていく謎の犯人。


 長久保の資料に記されている八年前の未解決事件。それは膨大な数だ。この膨大な事件の全てを捜査対象とするのは難しいだろう。しかし、今行われている連続殺人がなぞる事件は全て私の行った仕事。私が犯人に最も近い場所にいる。正体の知れぬ犯人に。


 類似点。手口。状況。標的。


 相違点。場所。時間。


 事件は順序正しく再現されていく。


 私は次にどの事件が再現されるかを知っている。


 次の殺しの対象さえ特定できれば、それを狙いに来る模倣犯を捉えられる。


 だが、一体どうやって次に行われる殺しの対象を見つければいいのか?




 資料を読み漁る。


 八年前の資料。現在の資料。


 思考を広げる。手がかりを見つけ出せ。


 頭の中の笑い声。くだらねえ。真似されたのがむかつくか。プライド?


 冷静な思考。引き受けた仕事だ。


 頭の中の怒りの声。くそったれ。舐めた野郎だ。後悔させてやる。


 好奇心。何故、こんなマネが出来るんだ?ヤツの目的は何だ?


 侮蔑の声。依頼主が本当に始末したいのはオマエだ。




 ヤツは標的に対してもこだわりを持っている。


 八年前に私に殺された連続誘拐犯。三週間前にヤツに殺された連続誘拐犯。


 八年前に私に殺された刑事。一週間前にヤツに殺された刑事。


 ヤツは同じような標的を探し出し、殺している。


 私がこなした仕事の標的は千差万別。


 次の標的を特定する事は不可能に近い。


 次にヤツが狙う標的。八年前、私が始末したのは連続殺人犯。


 殺された女性の遺族から引き受けた仕事。


 その犯人を特定する為に、私は数人の女性を見殺しにした。


 今、ヤツも八年前の私と同じ事をしているのだろうか。




 下層域の車庫から車を出す。仕事用の車。


 WiS。ヴォルフ・イム・シャーフスペルツ。


 漆黒のWiSを走らせ、東京の超高層ビル群を離れる。


 奇妙な色に滲んだ雲。灰色の空。


 厚い雲に空は覆われて、地上は薄暗く澱んでいる。


 所々、綻んだ雲の隙間から強烈な太陽の光が注がれていた。




 隣の車線を銀色のオープンカーが走っている。


 左側に黒髪の日本人男性。右側に黒髪の日本人女性。


 自動運転モード。ドイツ製のヴァンダーファルケ。


 黒髪、優しい笑顔の好青年。


 黒髪、溌剌とした可愛らしい娘。


 青年は娘を自分の方に引き寄せた。


 娘は突然の行動に驚くが、幸せな表情を浮かべながら青年の胸に頭を寄せる。


 青年は左手で娘の髪を優しく撫でた。


 青年の瞳は遥か彼方、灰色の空を見つめている。


 優しい瞳。冷たい瞳。




 私はかつてこの光景を見た事がある。


 既視感。デジャビュ。


 似たような記憶。あやふやな記憶。




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