7:「シリアルマーダー」
下層域の酒場ブラッドサッカー。
赤い灯火が照らしている。
店内を。客を。依頼主を。私を。
鈍く。暗く。
皮の書類ケースからプリントアウトされた資料を取り出す。
取り出しながら、私は依頼主を無言で見ていた。
「関係があるか不明な事件まで含めてある」
封筒型の書類ケースから資料と共に一枚のディスクが出てくる。
小型のROM。小さく綺麗な円盤。
依頼主からの説明。「全てのデータが入れておいた。手がかりが少なければ、そのディスクの中から犯人の痕跡を辿ってくれ」
プリントアウトされた資料。
いくつかの凶悪事件の情報が記されている。
凶悪事件。猟奇的。無差別。残虐。
手口も状況も異なるそれぞれの事件。
私の中がざわついている。
落ち着いた私の声。「これらが何故、同じ犯人の仕業だと?」
回想。記憶の一致。確かな記憶。
長久保。「それら八年前の事件と似たような事件がまた発生しているのだよ」
頭の中の叫び声。
疑問。怒り。嘲笑。
冷静な私の声。「手口に関連性が無いように見えますね」
長久保義弘。「八年前と似た手口、似た状況。そして、それらがほぼ同じ順序で起きているのだよ」
幾つもの声。
激しい鼓動。
冷めた思考。そういう事か。
悲しい眼をした依頼主。
憎悪の対象を発見したかもしれないという期待。悲しく哀れな希望。
失った者は戻って来ない。
八年前の事件の犯人と今起きている事件の犯人は別人だという可能性。
長久保義弘はその可能性を無視している。意識的に。或いは無意識に。
似たような手口と状況。同じ順序。今起きているという事件。連続殺人事件。それらの犯人は同一の犯人。若しくは同一の犯行グループだろう。過去の出来事を知る事は可能なのだ。それを模倣、繋ぎ合わせる事は不可能ではない。
長久保義弘。「今また連続殺人事件を起こしている犯人を始末する事が出来るのならば、私は命さえ投げ出すつもりだ」
聞き覚えのある台詞。命さえ投げ出す覚悟。この世に未練は無い。
私の中で嘲りが谺する。「現在、連続殺人事件が起きている。その連続殺人犯を始末する。複数犯の場合はその全てを。それで宜しいですか?」
依頼主が頷く。契約成立。
誰だ。
静かな怒り。犯人は誰か。
ふざけた犯人。物真似の連続殺人犯。
この依頼がなかったとしても見つけ出す。必ず。
長久保の言葉は真実も語っていた。8年前の連続殺人事件。
無作為な手口。無作為な殺し。
何故だ。
八年前。犯人は単独犯だ。
何故、同一人物の行った殺しだけを真似ているのか。
何故、それだけを真似る事が出来るのか?
悲しい眼をした依頼主。憎悪の対象を探す父親。
憎悪の対象。本当の対象。
殺しの売人。
八年前、長久保義弘の娘を殺したのは私だ。