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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第一章 殺しの売人
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5:「依頼主」

 薄暗い部屋。


 飾り気の無い広い部屋。


 東京の下層域。私が住処とする場所の一つ。


 冷たい空気。冷たい床。冷たい壁。


 TVからニュースキャスターの声が流れる。


 『…被害者はグリフ・ヘルツ、二十六歳。ニ週間前から会社を欠勤し始め、親しい友人とも連絡を絶っていたそうです』


 身体を動かす。


 身体の隅々まで可能な限り。


 器具は使わない。柔軟さが失われる。己の身体のみ。


 筋肉の酷使。己を研ぎ澄ましている感覚。


 『一昨日の午後八時頃、自宅で亡くなっている所を発見されました』


 激しい運動。汗が滴り落ちる。


 ステップを踏み、拳を繰り出す。


 ジャブ。ストレート。


 昨日の電話。「確認した。報酬は送っておいた」


 架空の標的を拳で叩く。


 右ストレート。左フック。右アッパー。


 張り詰める意識。呼吸。拳は骨をも砕く。


 顔もわからぬ仲介人。「次の仕事だ。依頼主が直接会って依頼したいそうだ。可能かね?」


 右フック。左ストレート。右ストレート。左フック。


 素早いステップ。何発もの拳の打撃。


 ステップを緩めていく。


 足を踏ん張り、架空の標的を拳で打ち抜く。


 呼吸を整える。


 拳銃を手に取り、部屋のあちこちに設置された的を撃ち抜いていく。


 次々と。正確に。的を粉砕する。




 シャワーを浴びる。


 依頼主が直接会いたいと言う。


 次の仕事に興味を引かれていた私はそれを承諾した。




 待ち合わせの場所。


 下層域。アメリカ風の酒場「ブラッドサッカー」。


 店内は広く、席も多い。


 やかましい音楽。カウンターで酒を呑む男と女。やかましい話し声。


 店の奥には簡素な衝立に囲まれた席がいくつもある。


 私は仲介人から指示された席へと向かって歩いていく。


 薄暗い店内。鈍く光る赤い照明。


 幾つものテーブルから煙草の煙が立ち上っている。


 衝立に囲まれた席。


 この騒々しさの中では隣に会話を聞かれる事もない。


 相手は先に席についていた。


 向かい合わせに配された毛皮のソファー。


 壁側の席についているコートを着た男。目深に帽子を被っている。


 こちらに気付いたコートの男が声を発した。「君がそうかね?」


 綺麗な日本語。整った発音。重い声。


 「ええ。リンクスと申します」


 私は軽くお辞儀をした。


 相手は軽く驚いた表情を浮かべながら私を見つめる。


 私も相手の顔を見つめた。


 「長久保義弘だ。よろしく頼む」


 大物の依頼主。純粋な日本人。




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