39:「ジ・エンド」
時が迫る。一秒。また、一秒。
赤い光。光は収縮する。撃ち合う。互いの銃撃。
激しい衝撃音。激しい振動。クリムズンスターの床が階下から撃ち抜かれた。
視界を遮る粉塵。フィノ・コールヴォの近くに開いた直径2メートルほどの穴が見え隠れする。ヤツの事はわかっている。ヤツはニヤリと笑って、床に開いた穴から階下へと飛び降りた。ヤツに代わって現れたのはバズーカを背負った異形のフィノ。
一秒。また、一秒。時は迫る。
私は異形のフィノを見つめたまま、私の後ろの窓ガラスを黒い拳銃で撃ち抜く。馬鹿でかい銃声と共に大きな窓ガラスは粉々に砕け散った。
異形のフィノがバズーカを構える。爆弾の事など見えてはいない。
時が来る。爆弾の赤い明滅が終わりを告げる。
私。渾身の力を込めて、後方へ飛び退く。
窓ガラスの向こう側へ。クリムズンスターの外側へ。
クリムズンスターの外。落ちていく身体。すぐ下の階の様子が見えた。
作り出された冬景色の中、ヤツがウロボロスに呑み込まれている。ヤツの笑い声が聞こえた気がした。
訪れた時間。全てが止まる。白い閃光が全てを包む。白く大きな閃光。
音が消える。全てが歪む。収縮する。膨張する。
凄まじい爆発。クリムズンスターが頂点から爆砕していく。
窓ガラスが消える。床が消える。柱が消える。たくさんの死体が消える。
落ちる。遥か下界の地面へと。砕け散ったクリムズンスター。
落ちていく。私の身体。
身体中が悲鳴を上げている。激しい痛み。
超高層ビル群の外壁。偽りの夜空を映すその外壁に私の身体が映っている。
砕け散ったクリムズンスターの破片がビルの外壁を破壊していく。
重力に引き寄せられる。凄まじい風の音。
黒い拳銃を捨て、左手で薬物を取り出した。薬物を身体に打ち込む。
身体中を襲う激痛が幾分和らいでいく。
私は全てを見る。ヤツの視覚。フィノ・コールヴォの記憶。
ヤツの操作するウロボロスのスクリーン。
フィノの逃げた先。目標点。時間。場所。
目を閉じる。暗い視界の中にウロボロスの光が浮かぶ。
視界の中のメニューを開いていく。
ウロボロスの操作。目標点設定。空間転移を開始。
超高層ビル群の中層域の辺りでウロボロスは私の身体を呑み込んだ。
雨が降る。
あまり強くない雨。
たくさんの枝、たくさんの葉が重なり合う木々の下で雨宿りをする。
重なり合う天然の屋根。その隙間を抜けて来た雨粒が私の身体を打つ。地面を覆う落ち葉を濡らす。木陰から離れた大地は雨に打たれ、濡れている。
薄暗い空を見つめる。灰色の空。不思議と心が落ち着く。
風が吹く。心地良い風。
頭上から葉に溜まった雨水がこぼれ落ちて来る。
木々が冷たい風に吹かれ、その巨体を微かに震わせる。その度に雨水が地面と私に振り落とされた。
雨は徐々に強さを増して行く。
私の目の前に小さな物体が現れる。二つの小さな物体。ウロボロス。
自らの尾を噛んで環となる蛇。無限の可能性を叶える事の出来るモノ。
ウロボロスがヤツを吐き出す。フィノ・コールヴォの身体が再構築されていく。
肉。血。眼。口。血管。金色の髪。全てが渦巻き、完成されていく。
全てが完成する前に私は左手を伸ばす。左手の指でフィノの両眼の辺りを掬う。
フィノ・コールヴォが悲鳴を上げる。
私の左手の中にはフィノのウロボロスがあった。
再構築が完了する前にウロボロスを失ったフィノは苦痛に身悶える。
私は言う。「フィノ・コールヴォ。もう逃げられない」
観念したフィノ。「ああ…。もう、俺は逃げられないな…」
私の問い掛け。「本来の時の流れ。あの時は私はオマエの目的を聞かないまま殺した。オマエの目的とはなんだ?」
乾いた笑い声。「俺は強く在りたい自分を殺してしまった…」
フィノ・コールヴォの言葉は続く。
「逃げ続けていた時、あの声に救われた気がした。自分を取り戻せる気がした…」
「あの声…?」
フィノの虚ろな声。「どこかで聞いた声…。俺はあの声に囚われてしまっただけなのかもしれないな…」
どこかで聞いた声。どこかの記憶。頭の中が軋む。
フィノ・コールヴォが黒い拳銃を抜く。驚くほど俊敏な動作。
ヤツの声。「終わりだ」
フィノの左人差し指が引き金を引いていた。馬鹿でかい銃声。
自らの頭部を撃ち抜いたフィノ・コールヴォ。
ヤツの最後。
ダス・エンデ。ジ・エンド。




