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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第一章 殺しの売人
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3:「奇妙な標的」




 人通りの多いビルの中を歩く。


 ビルの通路。ビルの道。ビルとビルを繋ぐ渡り道。


 中層域には居住用の地区が多い。そこに住む人々が利用出来るコンビニエンスストア、ファミリーレストラン、スーパーマーケット。


 ビルの中に作られた緑多き公園。


 人は安らぎを求める。造られた自然の中で安らぎを味わう。




 居住地区。標的の住む部屋。


 表札に刻まれた名前、グリフ・ヘルツ。ドイツ系の日本人。殺される男。


 会社に行かない会社員。何日も観察していたが一度も出かける事は無かった。


 そこを訪れる者もいない。見放された男。


 標的の部屋のドアを調べる。


 デジタルロック式のクローム色のドア。単純な仕掛け。無用心な会社員。


 開錠用のキーカードを取り出す。


 自分の家に帰って来たかのような気分で、キーカードをドアの認証機の溝へと滑らせる。


 キーカード認証のランプが点る。


 ドアは静かに横へとスライドして、私を玄関の中へと招き入れてくれた。


 玄関はとても静かだ。


 私は奥の部屋へと音も無く向かう。




 エレベーターの中で読んだ2ページを思い出す。


 私の中。


 深い底。


 たくさんの自分。イメージに合う自分を引き上げる。


 頭が軽くなったような感覚。そして、沈む。




 会社員の居間。


 大きなTVスクリーン。


 ソファの上にうずくまりながらTVを見ている男。グリフ・ヘルツ。


 私も彼の背後からTVスクリーンを眺めた。


 自然の映像。湖と草原。環境ビデオだろうか。


 映像だけ。BGMもなく、小鳥のさえずりも聞こえない。


 音を消しているのか。安らぎを得られる映像。


 静寂を破る声。「誰だ!」


 ヘルツは慌しく頭を左右に動かした。そして、後ろを振り向く。


 グリフの驚愕の表情。困惑の表情。


 多少の驚き。私の声。俺の声。「驚いた!まさか気付かれるとは思わなかったね!」


 異常な勘の鋭さ。私の気配を察知されるとは思わなかった。


 怯えるグリフ。「誰なんだ!泥棒か?強盗か?」


 俺の声。「強盗か。それもいいよな。お兄さん、大金でも隠し持ってんの?」


 グリフは怯えた表情のまま、首を横に振った。


 標的としては不適切な推測。こいつは狙われている事を知らない。


 グリフ・ヘルツは部屋の中をきょろきょろと見回した。奇妙な行動。


 「誰だ。他にも誰かいるのか?」


 「何言ってんの?この部屋には俺とあんたしかいねぇよ」


 はっと息を呑むグリフ。「僕が狙われている?」


 奇妙な標的。奇妙な言動。奇妙な錯乱。


 苛立つ俺の声。「もういいや。あんたは俺に殺されちまうんだよ」


 拳銃を抜き、グリフ・ヘルツに銃口を向ける。


 軽やかな銃声。


 放たれた銃弾。




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