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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第五章 渦巻く双眸
37/48

36:「灰色烏」




 私は黒い帽子を脱いだ。


 「美季。貴方の見たものを私も知っているよ」


 長久保美季は頼りなさげな笑顔を見せた。彼女の瞳が私の瞳を見る。


 美季。「瞳の色、どうしたの?」


 私の瞳。ヘテロクロミア。本来の瞳の色とは違う。


 私の応え。「複雑なんだ。色々あってね」


 そう答えながら、思った。未来の事。未来を見る瞳。ワカラナイノカ?


 「美季の瞳は全てを見通すのだと思っていた」


 「何も見えないの。わたしの知っているリンクスとどこか違うアナタがここに現れてから」


 見えない未来。多世界の一つとなったココでは美季の瞳は未来は見ないのか?


 「わたしが知っているリンクスは…。そう。もう少し若い感じなのよ」


 「そうだな。私は八年ほど本来よりも年経ている」


 私は美季の傍まで歩いてく。椅子に縛り付けられた美季。


 縄を解いた。


 私がコノ時に来た理由。多世界での未来。美季の瞳。


 美季の瞳は何も見えない。それでも。良かった。




 その瞬間。


 誰かの視線。




 背筋が凍る。ナニかが引き剥がされていく予感。


 冷たい殺気。鋭く研ぎ澄まされている。


 直感。咄嗟に身体を動かす。


 美季を庇うように。




 私の記憶。八年前。記憶の中の美季。死ぬ間際の彼女の言葉。


 『わたしは自分で言った言葉を違えたりしないのよ…』


 フラッシュバック。『アナタの為なら命さえ投げ出しても良い』




 自分の身体で美季を覆い尽くした。


 私の眼に映る美季の姿。血が溢れ出ている。胸部に突き刺さった大きなナイフ。


 冷たくなっていく。何もかも。


 私の心。美季の身体。


 頬を伝い落ちていく涙。美季の涙。私の涙。


 誰かの声が背後から聞こえる。「残念。少しだけ反応が遅かったな」


 背後を振り返る。


 視線の先。灰色。灰色のコート。灰色の帽子。


 ヤツの挨拶。「全身黒尽くめ。まるで烏だな、リンクス」


 ヤツの眼。金色と銀色。ヘテロクロミア。ウロボロスの起動カラー。


 灰色の帽子を脱ぐ。金色の髪、金色の髭。フィノ・コールヴォが笑っている。


 フィノ・コールヴォの死に際の言葉。『またお前の前に現れるぞ』


 フィノの声。「ここは二度目だが、面白いものだな。同じ時、同じ場所でも起こる事が違う。死臭を嗅ぎ付けて上がって来てみれば、この惨状だ」


 ヤツの両眼が私を見ている。


 フィノ・コールヴォ。「いや、同じかな。お前がここにいる以外はな」


 私の声。「私が殺したはずだ、フィノ・コールヴォ」


 ヤツの表情に驚きの色。フィノの瞳が煌く。ウロボロスの煌き。


 フィノは笑う。「本来の時で俺を殺したのか。良いことを聞かせてもらった」


 ヤツの言葉の意味。ヤツはあの時のフィノではない。私が殺す前のフィノ・コールヴォ。八年前の殺人事件を再現する為にウロボロスの力で過去に来ている。忠実な再現を行う為の当時の現場状況の把握。殺しの手口の目撃。


 フィノ・コールヴォの笑い声が谺する。


 「俺は抜け目が無い。本来の時の流れでお前が殺せたはずの俺の事は忘れろよ」


 幾つもの笑い声。フィノの笑い声が重なる。


 その重なりが増していく。


 ヤツの後ろに煌く幾つもの双眸。金色と銀色。ウロボロスの煌き。


 ウロボロスが吐き出し。ウロボロスが呑み込む。


 フィノの高らかな声が響く。「俺は無限の存在であり、死さえも超越出来る」


 幾つもの自分。同じ時間に複数存在する自分。


 可能性の問題。ウロボロス・システムを使えば可能な事。


 私は何人もの自分を殺した。しかし、私は生きている。


 死の意味。


 美季を殺したヤツが笑っている。





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