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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第五章 渦巻く双眸
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34:「異質な力」




 美季と目が合う。


 美季の呟き。「リンクス…?」


 比嘉暁美の鮮血を浴びた甲斐葉司がその呟きを聞いていた。


 「知り合いか」


 甲斐はテーブルに置いてあった拳銃を手に取り、美季の頭部に銃口を向けた。


 「そこの男、動くなよ!動いたらこの女の頭を吹き飛ばす!」


 凄まじい怒りの声を発した甲斐葉司。凄まじい形相。


 アノ時と同じ台詞、同じ行動。死ぬ順序が違うだけ。


 訝しげな表情を浮かべる美季。


 彼女が知っているリンクスとは何かが違う。そう考えている表情。




 アノ時の記憶。


 美季の声。『色々あったのよ』


 俺の声。『またその台詞を言うんだな』




 長田龍哉の雄叫びが轟く。甲斐と同じく凄まじい形相。


 次の瞬間に長田龍哉の姿が忽然と消える。


 アノ時は知らなかった事。長田龍哉の異質はコレか?


 背後に突如現れた気配。


 鋭い殺気。同時に引き金を引く音が聞こえた。


 轟く銃声。立て続けに二発。


 背中を至近距離から撃たれ、凄まじい衝撃によって床に倒れる。


 長田の大声。「クソ野郎が!俺達は特別なんだよ!」


 唾を吐き捨て、甲斐と美季の方へと歩いていく長田。


 長田龍哉の声が震えている。「ヨージ。アケミ、アケミが…」


 私の身体に激しい痛みが疼いている。


 至近距離からの銃弾。特殊鋼繊維製のコートの上からでなければ死んでいたかもしれない。長田龍哉もやはり厄介な相手と言う訳か。


 肋骨に亀裂が入ったか。痛みは無視しなければならない。


 意識を束ね、肉体を鋼とする。


 瞬時に立ち上がり、拳銃を構えて、引き金を引く。


 甲斐葉司の驚愕の声。「タツヤ、まだ生きてるぞ!」


 轟音。私の拳銃から巻き起こる銃声。


 狙うは甲斐葉司の右腕。美季に向けた拳銃を持つ腕。


 こちらを振り向く長田龍哉の横をすり抜けていく銃弾。


 血、肉と骨が飛び散る。砕け散った赤と白。


 床に転がる甲斐葉司の右腕。肘から先。拳銃を握ったままの右手。


 甲斐が絶叫する。のた打ち回る。


 アノ時と同じ轍は踏まない。


 長田龍哉。「野郎!次は頭を撃ち抜いてやる!」


 私はヤツの頭部に向けて銃弾を放つ。


 銃口から放たれた弾丸が長田の頭部に届く直前、ヤツは再び忽然と消えた。


 意識を周囲に広げる。感覚を鋭敏に。


 甲斐のすぐ傍に現れた長田。


 「ヨージ、しっかりしろ!お前の力を自分に使ってみるんだ!」


 なるほど。長田龍哉、意外に機転が利く男だ。


 甲斐葉司の異質な力。人間の感覚に働きかけ、幻を見せる。人間の知覚能力に偽りの情報を与える。居ない人間を居るように見せる事が出来る。聞こえない声を聞いたように錯覚させる事が出来る。痛覚に偽りの情報を与えて、痛みを操作する事も可能であろう。


 長田龍哉が私を睨み付ける。そして、姿を消す。




 ココロを広げる。


 私の中。たくさんの私を引き上げ、多くを観る。


 たくさんのココロ。無数のココロ。ヤツのココロを探す。


 誰かの声。ココロの声。


 聞こえる。『あのクソ野郎の右!頭を吹き飛ばす!』




 瞬間の勝負。


 右。拳銃を構えて引き金を引く。


 私の右側に現れた長田龍哉。ヤツも拳銃を構え、引き金を引いていた。


 重なり合う銃声。火薬の薫り。


 真紅が飛び散る。ココロが消える。


 長田の拳銃から放たれた銃弾。首筋をかすめて飛んで行き、窓ガラスを粉砕した。


 長田龍哉は頭部を失い、自分が倒れた床に血の海を作っていた。





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