32:「クリムズンスター」
八年前に吐き出された私。当時の住処へ向かう。
超高層ビル群に覆い尽くされた異形の都、東京。
雑多な人種が住まう雑多な色の空間。巨大な機械仕掛けの都市。
全てを知る私。記憶を辿り、設定した時間はアノ時の十二時間前。
当時の私と鉢合わせる可能性もある。無用な危険。可能性は最小限に。
私の住処。東京の下層域。治安も悪く、空気も澱んでいる。中層域より上の人々が快適に暮らす為に汗水を流して働く者達の場所。純粋な日本人はまずココにはいない。労働をしなければ生きる事の出来ない多くの者達。多くの者達が生きる為に必要な場所。
殺しの売人の隠れ家。訓練場と武器庫。情報収集用端末機器。
アノ場所へ行く前の準備を整える。
記憶の再生。鮮明に浮かぶ記憶。
アノ場所。アノ時。アノ連中。
ヤツらには梃子摺らされた。連続誘拐犯。男。女。男。
銃器を選ぶ。弾丸を選ぶ。爆薬を選ぶ。
あのような連中がいるとは予想外だった。可能性の問題という事。頭は臨機応変に。
刃物を選ぶ。光学機器を選ぶ。薬物を選ぶ。
何があるかわからないのだ。多世界では何もかもが有り得ない事ではない。
当時の私の記憶を利用して大量の現金を用意した。
特殊鋼繊維製のコートを羽織り、帽子を被る。黒いコートと黒い帽子。
真夜中の東京。エレベーターで上層域へと向かう。
作り物の夜空が超高層ビル群の外壁に映し出されている。
暗闇に滴り落ちる鮮血。真紅の星。
クリムズンスター。
上層域に存在する異質な建造物。
植物と大樹、機械の融合体。機械に浸食した植物。大樹に浸食した機械。
機械に覆われた大都市東京に緑の恵みを。
クリムズンスター。赤き星。変わり果てた日の丸。
新たな日本の姿か?
純潔の日本人種専用。日本人種の為の娯楽施設。
「和」をイメージした幻想的な空間。
桜が舞い、粉雪が降り、陽炎が浮かび、鮮やかな紅葉に包まれる。
日本の四季を人工的に作り出す環境設備。様々なホログラフィ装置。
清涼な川の流れ。凛とした空気が漂う竹林。
趣深い京都の街並み。古の平安京。日本古来の神社や寺。
全ては見せ掛け。失われた空間。日本人種の安らぎの場所。
夜の闇に不気味に輝く真紅の灯火。
正式な名称はなんというのかは知らない。
純粋な日本人以外の者達はクリムズンスターと呼ぶ。
アノ時は朝だった。
当時の私はこの場所を探す為に必死になっている頃であろう。
記憶を辿る。
当時の私と同じルートで侵入する。
私は知る。クリムズンスターで働く従業員。その日本人が見るもの、知るもの。
全てを知り、全てを観る。
クリムズンスターの内部。
春の回廊。桜並木、桜吹雪。
美しい。偽りと知っていても美しい光景。
四季を通り過ぎていく。春。夏。秋。冬。
アノ場所。
真紅の星の裏側。
足を踏み入れた。
アノ連中。ヤツらの話し声が聞こえる。




