表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第四章 無限の世界
31/48

30:「リンクス」




 私の中。深い底。ウズクマル、俺。


 私は粉々になった俺を踏み躙る。


 クダラナイ。


 そんな事で壊れるココロなど私はイラナイ。


 私は私の中で粉々にする。俺を噛み砕く。踏み躙る。


 俺。思い出し、深く後悔し、深く悲しんでいる。


 クダラナイ。


 私は思う。こんなヤツが私なのだろうか。俺という存在は本当に私なのだろうか。


 私は言う。『お前は左利きか?』


 俺の左手を踏み砕く。『ヤメテクレ!俺のキキウデを潰さないでくれ!』


 無様な。


 私は右利き。アレは誰の記憶だ。私の記憶ではない。


 私の記憶力はずば抜けている。


 リンクスの結論。『お前は私ではない』


 粉々にしたヤツを冷たく見下ろす。『ヤメテクレ!俺を殺さないでくれ!』


 私の中の私たちが恐れ戦く。冷酷な私に。心が凍る。


 こいつらの心が私の記憶を掻き乱すのだ。


 たくさんの私たち。どれだけの私が本当の私なのか。


 私は言う。『さきほどはお前のおかげで生き延びられたのかもしれない。お前が私らしく生まれ変わったら、その時はお前を受け容れよう』


 幾度も繰り返されてきた行為。生と死を繰り返す。




 ウロボロスが私を吐き出す。再構築される私。


 二十一年前の世界。とても寒い季節。


 私は全てを記憶している。


 リンクスという名を付けた母親のいる家が見える。


 家と私の間。雪の道。


 黒髪の女性が立っている。若い女性。


 私の声。「美季。何故、こんな所にいるんだ?」


 美季の声。「アナタが見るべきでないものを見ようとしているから」


 私が見るべきでないもの?俺という名の私が見たがっていたものか。


 美季の静かな声。「確かめたいナニカ」


 私の記憶。この時の記憶。母親との記憶。


 確かめる必要もない。私は覚えている。


 優しげな声。「心配ない。私はあの家には入らないよ」


 頷く美季。「思い出しても仕方ないのよ」


 胸の傷が疼く。刃物で抉られた深い傷跡。


 母親の記憶。母親に付けられた傷跡。


 私は美季の瞳を見つめる。美しかった黒く澄んだ瞳はそこにない。


 ヘテロクロミア。金色の右眼。銀色の左眼。


 無限の可能性。何もかも有り得る世界。ウロボロスの力。


 私の質問。「ウロボロスを手に入れたのか?」


 美季からの応え。「そう。アナタがくれたのよ、リンクス」


 私の記憶にはない。「もし、そうだとしても、それはこの私ではないよ」


 そして、彼女も私の知る美季ではない。私の記憶にない存在。


 互いに知らない存在。知っているが、知らない存在。




 熟考。


 多世界とはこのようなものなのか。


 私の考え。深く照らし合わせる。




 美季の言葉。「良かった」


 彼女がウロボロスを起動させた。転移の準備が始まる。


 不思議な発言。何が良かったのだろうか。


 何処へ行くのだろう。


 ウロボロスが彼女の身体を吸収し、転移していく。


 私の記憶は正確だ。記憶の符合。


 美季という女性についての記憶。美季との記憶。


 何故、今まではっきりと思い出せなかったのか。


 美季。


 長久保美季。


 八年前、私が彼女を殺したのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ