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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第一章 殺しの売人
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2:「エレベーター」




 エレベーターの中。


 透明な外壁。ガラスではない。耐久性に優れる強靱な材質。


 エレベーターは遥か下の階へと向かって動いていた。


 日差しがエレベーターの中を照らしている。


 眩い太陽。




 私は皮の鞄から本を取り出す。


 分厚い小説。日本語で書かれた物語。


 現在、日本国籍で日本語を読めない者も数多く存在している。


 無造作に本を開く。


 開いたページ。私にもゆっくりとなら読む事が出来る文章。




 次第に視界から空が消えていく。


 周りのビルによって本物の空は閉ざされていく。


 代わりにビルの外壁に映る偽物の空。


 青と白。鮮明過ぎる不自然な空。


 見せ掛け。本物の空を隠してしまった償い。


 都心を覆い尽くす超高層ビル群。それを支えるのは驚異の耐震性を誇る巨大で広大な機械仕掛けの土台。その信頼性は技術者たちの言葉を鵜呑みにするしかない曖昧な代物。増え過ぎた人間を生活させる為の歪んだ大都市。




 開いたページをゆっくりと読む。


 左右2ページのみ。


 いくつかのキーワード。


 コンサート。地下。興奮する観客。眩い照明。


 登場人物は若く陽気な男。軽薄な言葉使い。


 今度の仕事の仕掛け。




 今度の標的。


 平凡な会社員。


 この東京の中層で生活する男。


 何故、殺されなければならないのかは知らない。


 標的が狙われる理由に興味を持つ事もあるが、全く興味を引かれない場合の方が多いと言える。


 気まぐれ。私は気まぐれで動く。


 気分次第で依頼主を殺す事もある。勿論、その依頼主から引き受けた仕事を完璧に果たした後でだ。仕事は仕事。己の感情は己の感情。




 エレベーターの中。


 階数を示す深緑色の数字が四方の壁に浮かんでいる。


 中層域に入ると、エレベーターの利用者の数も多くなってきた。


 若者、老人、主婦、子供。


 私のように透明な外壁から外の景色を眺める者もいれば、ベンチに座ってゆっくりとしている者もいる。自動販売機でコーヒーやジュースを買って飲む者も多い。


 標的のいる階層まで降りて来た。


 本を皮の鞄の中へ戻す。


 私は適当な階でエレベーターから出る事にした。




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