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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第四章 無限の世界
29/48

28:「マインドフィールド」




 黒髪の女性。金髪の少年。


 二人が歩き去る。その後ろ姿を見送る。


 何かが虚ろとなる。空虚な何か。


 生き残った奴と俺の対話。


 「私はお前を殺す理由を持たない」


 「俺もお前を殺す理由は特別ないな」


 色褪せた空。時は移ろう。雲は流れる。


 沈む太陽。冷ややかな風が吹く。


 奴が微笑む。「臨機応変ってやつでいこう。お前も私もそれで生き残ったんだ」


 俺が頷く。私も頷く。


 奴はウロボロスを起動させた。新たな目標点への転移。


 俺の質問。「どこへ行く?」


 「ここではない所。確かめたい事がある」


 その言葉を言い終わった瞬間、奴の身体にウロボロスが浸透していく。


 膨れ上がる毛細血管。肌の色が目まぐるしく変化する。


 肉体が波打つ。溶けた金属のような質感。振動と波紋。


 全てが収縮され、ウロボロスに吸収されていく。血と肉の色をした渦。


 ウロボロス・システムが転移を始めた。


 灯火が尾を曳いて廻る。灯火の先端は尾を呑み込む。


 尾の光は薄れゆく。頭の光は尾の光を食らい続ける。


 消えぬように。光を絶やさぬように。


 渦巻く光の蛇はやがて消えていった。




 確かめたい事。


 疑問。抱えたまま。道を往く。


 懐かしき家路。月明かりに照らされる。


 蒼黒い夜空。空を流れる雲の河。星の煌き。


 道は暗闇の中。伸びていく。


 歩いていく。野原の道。


 風が身体を撫でる。草木がざわめく。


 記憶。思い出せない。心。


 誰かの。私の。俺の。


 長い。長い道。


 こんなにも遠かっただろうか。


 果てしない道のり。


 自分の心の中を延々と歩き続ける。


 本当の自分。心の平原。その向こう側。


 家の明りが見える。


 暖かい存在。遠い過去の存在。




 金髪の少年は家の外で飼い犬と戯れていた。


 美季。黒髪の女の姿はない。


 思い出せない記憶。


 ナニガ?


 家の中から声がする。少年の名を呼ぶ、母親の声。


 少年は飼い犬の頭を撫で、家の中へと入っていく。


 洗い物の音が聞こえる。食器を洗う音。


 少年の声。「母さん、今日は凄く変な夢を見たんだ」


 母親の優しい声。「夢って、昨晩見た夢の話?」


 戸惑いの声。「違うよ。今日、広場から帰ってくる時に見たんだ」


 押し黙る母親。違和感。奇妙な沈黙。


 少年は話を続ける。「同じ顔の人が何人も何人もいてさ。ガンを撃ち合って、撃ちまくって、殺し合ってたんだよ」


 母親の冷たい声。「またそんな事を言って。もうそんな事言わないでよ」


 腹を立てる少年。「前のとは全然違う夢だよ!」


 母親の声が震える。「なんでもいいから止めて。耳を塞いでも聞こえてくる声とかそういう話は、母さんにも他の誰にもしないでちょうだい」


 洗い物の音が大きくなる。水道の蛇口から水が勢い良く流れ出す音。


 俺の記憶。そこにはない会話。


 何かが引っ掛かる感覚。


 母親の記憶。微かな記憶。小さな点。何かが見える気がした。


 朧げな記憶の糸を手繰る。十一歳の頃。冬。この場所。


 確かめたいナニカ。




 ウロボロスを操作する。新たな目標点を設定。


 これより三年後。元の時代から二十一年前。


 転移開始。


 もう、痛みは感じなかった。





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