26:「知らない自分」
何度も繰り返す。
一体、何人の自分を殺したのだろう?
何度も繰り返してきた。
一体、幾つの生命を奪ってきたのだろう?
幾重にも重なる世界。多世界。
見えない世界。無限に広がる。無限の可能性。
同じ世界。同じ時。幾つも存在する同一の存在。
私の中。幾つも存在するたくさんの私。同一の存在。
心を襲う消失感。空しさが広がる。限り無く広がっていく。
ここに存在する全ての私。
私。今のこの私。それ以外の私。何を思い死んでいくのか。
ただ自分に殺されるだけの哀れな存在。たくさんの私。
死んだ私はどこへ行くのか。
機械的に動く右腕。右手。
数分前の自分に向けられる銃口。
気配。
背後に感じる。
振り向く。
背後には転移してきたウロボロス・システムがあった。
ウロボロスから吐き出され、再構築されていく存在。
おぞましい光景。肉が、血が、眼が、口が渦巻いている。
完成される肉体。金髪の自分の姿。
向かい合ったヘテロクロミア。右眼は金色。左眼は銀色。
「振り向いたのはキミが初めてだな」
彼は私に冷たく微笑みかけていた。
ウロボロス・システムの測定。今の私と向かい合っている彼の肉体年齢を比べる。比較される数値。ウロボロスの判定。
今の私よりも彼の方が肉体年齢が僅かに上。
知らない自分。数分間だけ未来の自分。
「何を驚く?今までキミも行ってきた事だろう?」
私は死ぬのか。今度は私が死ぬ番なのか?
可能性。何でも有り得る。狂った世界。世界の規則など無意味。
無意味。何もかも有り得る。存在など無意味。生命など無意味。
全て無意味。
死を覚悟した。私。私の中のたくさんの私。
彼の声。「己への約束だ。私は自分で放った言葉を違えたりはしない」
その通りだ。そうでなければならない。
私が私の中に沈んでいく。たくさんの私が深い底へと沈んでいく。
私の身体が震えている。
私の中の誰かの呟き。
己への約束は破れない。彼に殺されるべきだ。
ハハハハハハ。
私の中の誰かが笑った。
死ぬのが怖いのか。
私の中の誰かが答える。
死ぬ事など恐ろしくない。
多世界の中では私たちはどこにでも存在し得るのだ。
誰の声だろうか。どこかで聞いた台詞。
炎。燃え上がる。
私の中の誰かの怒り。
それは他人の言葉だ。他人の言葉で語るんじゃねぇよ。
炎。焼き尽くされる私の中の誰か。
震える。身体が震える。
怒りの震え。
死の宣告。「己への約束を違えず、大人しく死ね」
彼は懐に右手を差し入れた。ゆっくりと拳銃を抜く動作が見える。
俺の声。「俺の言葉とは思えねぇな」
俺の右手の指が引き金を引いている。
無意識。銃口は素早く彼に向けられていた。
何度も放たれる銃弾。
何度も轟く銃声。
銃弾は拳銃を抜こうとしていた彼の身体を次々と貫いていった。
俺の怒りの声。「約束とかに拘ってねぇで、実力で殺すべきだろうが」
血を噴きながら仰向けに倒れる彼。
俺は彼を見下ろす。彼が息を引き取るのを眺めていた。
「臨機応変ってやつだ。自分の事だからよく知ってるはずなんだがな」




