25:「増え続ける世界」
死んでいる自分。殺してしまった自分。子供の頃の自分。
懐かしの道に花が咲く。赤い血の花。
即死。心臓を貫く銃弾。死んだ事さえ知らぬ自分。
緑の野原に真紅が広がる。緑の下の大地に赤が染み込む。
動かなくなった小さな身体。溢れ続ける鮮血。
高鳴る鼓動。
死。
自分の息遣いがとても大きく聞こえている。
辺りは静まり返っていた。
生き残った自分。
興奮。
消えていない自分。
冷めた心。
独白。「世界に呑み込まれはしなかった」
私は死に、私は存在している。
私は存在しない存在。しかし、存在している。
小さな子供の亡骸を見つめた。
これが本当に私の姿であろうか。過去の自分を殺す事など有り得るのだろうか。過去の私に似た赤の他人ではなかろうか。何の罪もない子供を殺しただけではないのか。
私の中で声が響く。
これはボクだよ。キミが殺したんだ。
心の裏側。漆黒の闇。ニヤリと笑う唇が浮かぶ。
ボクハシンデイル。
多世界の存在を確かめる。より多くを確かめねばならない。
私はさきほどの凶行に及ぶ二分前の『波』から計測した目標点に飛ぶ事にした。
頭の中。どこかが麻痺している感覚。
さきほどの転移で感じた耐えがたい苦痛。今度はそれほど感じない。
全身に激痛が走る。知らない誰かの痛みのよう。
二分前の世界。二十四年前の世界。私の中では流れ続けている時。
転移する地点をずらしておいた。
子供の頃の私。子供の頃の私を眺めている二分前の私。そして、今の私。
間違いなく私だ。間違いなく俺だ。間違いなく。
さきほど自分の目で見た光景が繰り返される。
後頭部。二分前の私に狙いを定めた。
二分前の私が八歳の頃の私に銃口を向けた時、私は引き金を引いた。
間違いなく私が死んだ。死んでいた。
二分前の私。彼が右手に構えていた拳銃は、目の前の光景に驚愕している八歳の少年の足下へと転がり落ちる。
転がり落ちる拳銃。足下に転がっている拳銃。
何度も何度も。激痛、苦痛が身体を襲う。
引き裂かれる。何度も何度も。
私の中の誰かが悲鳴を上げている。もう止めろと叫んでいる。
ウロボロスは私を呑み込み、私を吐き出す。
何度も何度も。過去へと戻る。新しい過去へと戻る。
自分を殺し続ける。何度も何度も。
これが多世界なのだろうか。
過去へ戻る度に世界は増え続けていくのだろうか。
私の視界に映るもの。
ウロボロスのスクリーン。
二十四年前の懐かしき世界。
緑豊かな土地。
桔梗の花。
八歳の頃の私。
拳銃を構えようとしている無数の自分。
拳銃を構えようとしている自分を狙う無数の自分。




