24:「子供の頃」
二十四年前。
辿り着いた時。紡ぎ直される意識。
再構築された肉体。感覚。激痛。狂おしい吐き気。
引いていく痛み。世界の色が見えてくる。
懐かしい色。懐かしい記憶。風景。
これは夢か。幻覚か。
ウロボロスのスクリーンは『波』の変動を示している。私が目標点として定めた時代。そこに私が転移した事によって生まれた『波』の歪みなのだろうか?
私の目、私の感覚で確かめよう。この時が本当に過去の時であるかどうか。
懐かしの道を歩く。
日の光に輝く草花に包まれた道。
鮮やかな青紫。桔梗の花が咲いている。
我が家の近く、野原に続く道。
近所の野原。八歳の頃の私がそこにいた。
眩い太陽の光を浴びながら、元気に近所の友達らと一緒にはしゃいでいる。
私の心。あれが子供の頃の私?
子供の頃の自分。金髪の少年。明るい笑顔。楽しそうな声。
あんな時もあったのかもしれない。朧げな懐かしさが心の中に広がる。
長閑な一時。野原で遊ぶ子供達を眺める。
ジュラルミンケースを足下に置き、ケースを開く。鍵は開いていた。中にはヤツらが用意した拳銃や組み立て式のライフル。それらを手に取り、異常がないか確かめていく。
まずは子供の頃の自分を殺す。
これで私の存在が即座に消滅すれば、多世界などというものは存在しない事になる。世界の矛盾は世界そのものが呑み込んでしまうという事だろう。消滅しなければ、計画通りに少しずつ前の時間に戻り続け、自分を殺し続ける。これが可能ならば、ザウバーの主張する多世界とやらが実在する証拠という訳か。
友達と別れ、家に帰ろうとする八歳の私。
どこか寂しげな表情。下手な口笛を吹きながら、こちらへと歩いてくる。
私は道の真ん中に立ち、歩いてくる私を見つめていた。
風が吹き、緑の草や青紫の花が揺らめく。
小さな私がこちらに気付く。
人見知りをしない子供。私に向かって明るい笑顔を見せている。
私から私への挨拶。「こんにちは」
八歳の私。「こんにちは!」
少しだけ首を傾げて、こちらを見つめている子供。
「おじさん、どこかで会った事あるよね?」
「いいや。君とは初めて会ったはずだよ」
懐に右手を差し入れ、ホルスターから拳銃をゆっくりと抜く。
少年の目に私の右手の拳銃が映った。
驚きの声を上げる少年。恐怖の声ではなく、驚嘆の声。
物怖じしない少年。「凄い!かっこいいガンだね!」
頭の中で何かが軋む。軋むような音が聞こえる。
聞き覚えのある言葉。
ごく自然に銃口を少年に向ける。「そんなに凄い銃じゃないんだよ」
記憶がブレる。
これはデジャビュか?
昔、聞いた事のある声。私の声。
これもデジャビュというのか?
好奇心で目を輝かせている少年の私。
「ねぇねぇ。それって、もしかして本物?」
遠い記憶?『ねぇねぇ、それってもしかして本物なの?』
自分を殺す。冷徹な心で引き金を引いた。
銃声が轟く。
遠い記憶。似た記憶。混乱した記憶。
コレはオレの記憶か?
自分に向かって飛んで来る銃弾が見えたような気がした。




