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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第三章 次元実験体
22/48

21:「タイムウェイヴ」




 情緒の漂う音楽。ロシア語の歌。


 透き通った歌声の女性。


 良い音楽だ。


 ザウバー技術主任の声。「我々は多世界の『波』を観測する技術を発見した」


 悲しげな旋律。ナニかを懐かしく想う心。


 ロシア語の意味はわからない。歌声は悲しみを伝えてくる。


 ゾガール所長の声。「素晴らしい発見だ。多世界は実在すると言う証拠という訳だ」


 儚げな歌声。雪が降る景色が浮かぶ。


 言葉はわからない。しかし、込められた気持ちが伝わってくる。


 フラーゲン医療主任の声。「良い歌でしょう。私の好きな歌手なんですよ」


 良い歌だ。


 俺の声。「俺は波だとか観測だとか、小難しい事には興味はないぞ」




 ザウバー・ヴァンデルの語り。


 「今までの科学技術では多世界の存在を立証する事は不可能だった。だが、時が進みゆくように科学もまた進歩していくのだ。今、この世界のこの時間の『波』を測定する事が出来る。今、この世界のこの場所の数分前の『波』を観測し、記録する事も出来る」


 多世界と波。


 俺の質問。「波とやらを観測出来る事と多世界が実在する事に繋がりがあるのか?」


 ザウバーは自分の鼻を右手の親指と人差し指で触った。


 「この『波』は膨大な量のデータとなる。このデータから導き出した目標点に物質を転移させる事の出来る装置を開発した。この装置は、今まで成し得なかった時間の逆行を可能とする」


 俺の笑い声。「そりゃあ、凄いね。どこでも好きな所に行けるって訳かい」


 ゾガール所長。「今はまだテスト段階なのだよ。多世界がどのようなものか実際に少しずつ確かめている段階だ。これはね、世界の謎に迫る大変な研究だよ、リンクス君」


 日本政府の科学研究所。ここはタイムマシンを研究する為の施設か?


 フラーゲンはたくさんのカルテを見ている。右手にはペン。


 ザウバー。「過去に行き、その時点での『波』を観測する。その時点で観測した『波』は、すでに過去のその時間の『波』とは違った物だ。過去のその場所に存在していなかった物が存在した時、その時点で世界は分岐している」


 ゾガール。「分岐してしまった世界から元の世界に戻る事も可能なのだ。元の世界の『波』から導き出した目標点に転移するだけで良いのだからな」


 こいつらの声で歌が聞こえづらい。


 世界の謎。多世界の謎。時間の謎。


 ロシア語の歌。


 私は今、この美しい歌声を聴いていたい。


 俺の質問。「あんたらが開発したタイムマシンってのは高性能なのか?」


 ザウバーの自信に満ちた声。「現時点での科学技術の粋を結集した傑作だよ」


 ゾガール所長。「未来からもっと優れた技術を持ち込む事も出来るようになるだろうがね」


 ザウバーの微笑み。「今はまだ手探りの段階ですからね」


 私は思う。胡散臭い話。


 俺は勝負を受けた。こいつらの鼻をアカしてやろう。


 フラーゲンの声。「あなたにも我々の研究に協力して欲しいのです」


 曲が明るい調子のものに変わった。


 女性の歌声も楽しげな雰囲気となる。


 言葉もまた明るい意味のものなのだろうか。


 限りない多世界。世界の可能性。無限の可能性。


 終わりが始まりとなる。時。




 私の問い。「ウロボロスという言葉を知っているか?」


 ザウバーの返答。「知っている。我々の開発した装置にもその名を用いている」





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