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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第三章 次元実験体
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20:「ポッシビリティ」




 「何故、実現不可能だと言ったのかね?」


 長髪の男が質問している。白衣の男。漆黒の長髪。


 答える俺。「時間を逆行出来るなんて考えは馬鹿げている」


 討議の会場とは別の部屋。立派な机と立派な椅子が並ぶ。


 「何故、馬鹿げているなどと思うのかね?科学は常に進歩する。不可能だと思われていた事が可能となる」


 あの男と同じ台詞。思いつく台詞は皆同じか。


 俺の椅子。被告人席。灰色は俺一人。


 白は三人。長髪の男。白髪の男。医療主任フラーゲン。


 俺の声。「あんたもザウバー・ヴァンデルとやらの論文を読んだのか?」


 長髪の男の冷ややかな眼。「私がザウバー・ヴァンデルだよ」


 おどけた態度の俺。「おや。これは失敬。はじめまして、先生」


 白髪の男が口を開く。「ヴァンデル君にはこの研究所の技術主任をやってもらっているのだよ。私は所長のゾガールだ」


 所長。技術主任。医療主任。この三人と俺の他には黒い連中だけ。


 俺の声。「何故、実現不可能か言おう。それは可能性の問題だ」


 ザウバー。「時間を遡る事の出来る可能性は皆無だと言いたいのかね?」


 俺の返答。「もし、時間を遡れるとしたら、それによって生まれる可能性は無限だ。あんたはそれによって生じる無限の矛盾を多世界論とやらで片付ける論文を書いたのか?」


 「簡単に言えば、そうだと言える」


 「そうなりゃ、世界は無限だよな。時を遡る毎に世界が生まれる。タイムマシンがあるなら、時を遡る可能性は無限だ。無限の世界はどんなものでも現実としてしまう。どんなに僅かな可能性でも無限という数の中では実現する」


 ザウバー・ヴァンデルの口許がほころぶ。


 「実現してしまえば、その有り得ない可能性の世界もまた無限となる。別の世界が生まれる、別の世界が存在する可能性は無限なんだからな」


 ゾガールが眉間に皺を寄せる。「君の言葉は聞き取りにくい」


 笑う俺。「例えば、俺が子供の頃の時間に遡ったとする。俺は子供の頃の自分を殺す。これで大人の俺がまだその世界に存在していれば、別世界の出来上がり」


 頷くフラーゲン。


 「殺した後、俺が子供の頃の自分を殺す時間の1分前に遡る。そして、子供の頃の自分を殺そうとしている俺を殺す。また別世界の出来上がりだ。僅かな可能性でもある限り、実現する可能性は無限大。この行為を繰り返せば、自分を殺そうとする俺が一万人でも一億人でもいる世界が存在する事になる。馬鹿馬鹿しい話だろうが」


 ゾガールの言葉。「愚かしい。そんな行為は実現不可能だ」


 俺の言葉。「実現不可能だと?これは可能性の問題だ。実現する必要なんてねえんだよ」


 微笑むフラーゲン。「ゾガール所長。彼の話した行為を実現不可能だと言うのは、タイムトラベルを実現不可能と言っているのと大差ない事になるようですよ」


 頷くザウバー。「そう。可能性は無限だ」


 笑うゾガール所長。「なるほど。そういう事になるのか」


 こいつらは何故こんな話をしている。何故、聞きたがる?


 ザウバーの言葉。「リンクス。君の言った事を現実に行うには、今までの小説や映画の中などで創造されてきたタイムマシンでは役不足だ。かなりのスペックを持った自由度の高いマシンでなければならない」


 何を言っている?


 俺の言葉。「可能性の問題だと言っただろう。現実に存在するかどうかは問題じゃない」


 言葉を続けるザウバー。「そして、それを扱う人間もかなり厳しい条件をクリア出来る人間でなくてはならない」




 ザワメク。


 俺の中でたくさんの自分が騒ぎ始める。


 ヤカマシイ。


 俺の中。頭の中。騒がしく声が飛び交う。




 フラッシュバック。


 血のメッセージ。『俺は時を遡る事が出来る』




 技術主任。「リンクス。君は僅かな可能性を頭から否定する人間かね?」


 私の声。「いいや」




 フラッシュバック。


 壁に書かれた血文字。『俺は無限の存在だ』




 医療主任。「時間逆行を実現不可能と言ったのは、あなたの感情的な部分でしょう?」


 冷静な私の声。「その通りだ」




 フラッシュバック。


 フィノ・コールヴォ。『俺はウロボロスの庇護の下にある』




 科学研究所所長。「リンクス君。私と勝負をしたまえ」


 俺の僅かな好奇心。「何の勝負だ?」


 ザウバー・ヴァンデル。「どちらの言った『実現不可能』が正しいかどうか」


 挑むような俺の声が部屋の中に響き渡る。


 「良いだろう。それを確かめる事が本当に可能ならな」





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