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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第三章 次元実験体
18/48

17:「空白」




 誰かの声が聞こえる。


 男の声。「気が付かれましたか?」


 目を開く。眩しさに目が眩む。


 白い壁。白い照明。白い部屋。白い服の男。


 私の声?「全て、白いな」


 微笑む白衣の男。「ええ。この施設はどこもかしこも白色なのです」


 私の声?「良いキャンバスだ。良い絵が描けるな」


 狭く白い部屋の中には私と白衣の男しかいない。白衣の男。私と同年齢ぐらいだろうか。ブラウンの髪。ブラウンの瞳。ブラウンの縁の眼鏡。


 戻ってくる感覚。私の声。「施設と言ったな?ここはどこだ」


 眼鏡の男。「ここは日本政府の科学研究所の一つです」


 身体の感覚が回復してくる。締め付けられた身体。ベッドに拘束されていた。


 ここは科学研究所というより病院に似た雰囲気を感じる。この男も科学者というよりも医者のように見える。


 白衣の男。「私はこの施設の医療主任のフラーゲンと申します。よろしく」


 戻ってきた嗅覚。白衣の男フラーゲンから感じる薬の匂い。


 私の声?「フラーゲン。お前、俺に薬を打ったな?」


 頭が痛む。頭の中のあちこちがぼんやりと白くなっているような感覚。


 フラーゲンの笑み。「ええ。あなたの感覚を元に戻す為の薬を投与しました。あなたにもこの施設での研究に参加してもらう事になりますので」


 私の声?「ふざけるな!お前らの研究なんぞ知るかよ!」


 医者の優しげな声。「それはまだ先の事です。今ではないですよ。今はゆっくりと体を休めて下さい」


 フラーゲンは話しながら、カルテにペンで何かを書き込んでいた。


 俺の声。「フラーゲン。俺を利用する事なんて出来はしないぞ」




 時間。


 時が過ぎていく。


 ゆっくりとした時間。何もない時間。


 考える。


 様々な事。今までの色々な出来事。体験。殺し。感情。夢。記憶。


 立宮堂一は尾田白蓮を射殺した。私を殺さなかったのは何故だ。私を犯人として扱わなかったのは何故だ。立宮堂一の目的は何だ。尾田白蓮。フィノ・コールヴォ。ヤツらの目的は何だ。


 フィノの残した言葉。ウロボロスとは何だ。


 死んでしまったヤツら。殺したヤツら。生き残ったヤツら。


 生と死。




 白い部屋。


 何もない時間。過ぎていく。


 何もなく。何も出来ず。


 考える事しか出来ない。


 考える。


 あの時、殺されていたらどうなったのだろうか。


 私という私はその時に終わるのだろうか。


 意識は消え、魂は消え、全て消えてしまうのだろう。


 私という私はいつからいるのだろうか。


 最初の記憶。三歳の頃。


 あの時から私はいる。それ以前の記憶はない。


 突然、周りを知覚した記憶。この世界の記憶。母親の記憶。


 この身体。この私。私という私がいない時、私はどこにいたのだろうか。


 私という私が消える時、私はどこに行くのだろうか。


 この私が消えてしまうとは思えない。私は私。


 私の意識。私とはなんだろうか。


 記憶。たくさんの記憶。


 私。たくさんの私。


 たくさんの感情。たくさんの心。





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