16:「白い牢獄」
ぼんやりとした意識。
ぼんやりとした視界。
身体の感覚が失われている。
あやふやな記憶。
黒いスーツの男。若い男。
白衣の男。白衣の女。
注射器が迫ってくる。腕に刺さる注射針。
全てが白くなった。
私は雲の中心だ。
「こいつも収容者か?」
「今度の収容者はこいつだけだ。例の連続殺人事件の目撃者らしいぜ」
「へぇ。どえらい現場を見て、気がふれちまったってか?」
俺の事。私の事。オレノコト。
目の前が暗い。ぼんやりとした白い明かり。
「それはどうかな。暴れないように薬を投与したって話を聞いたからな」
「ただの目撃者がなんだって暴れたりするんだ?」
「知らんよ。ただの目撃者ではないのかもしれないぞ」
「共犯者ってのも有り得るよな」
遠くの声。近くの声。
頭に響く音。頭に響く声。
白い壁。白く眩しい光。
「ほれ。例の事件、ニュースでやってるぞ」
「音量でっかくしてくれよ。聞こえねぇ」
急激に音量を増していく声。TVの声。
『…特別捜査班の立宮堂一警部の手によって、今回の連続殺人事件は解決されました。今回の事件と八年前の連続殺人事件は同一犯によって行われたものであるようです。殺人現場で射殺された尾田白蓮容疑者の他に共犯者がいる可能性もゼロではないようですが、尾田容疑者と共に現場にいた共犯の可能性がある人物もすでに確保していると立宮警部は語っています』
タチミヤ。タチミヤドウイチ。
ぼんやりとした怒り。ぼんやりとした恐怖。
「ほら見ろ。やっぱりこいつが共犯者なんじゃねぇの」
「こいつは目撃者だと俺は聞いたんだが。現場にいたっていうのは、こいつとはまた別の人間じゃないかな」
「だとしても…」
声が小さくなっていく。
暗くなっていく。
眠りの帳に包まれる。
目蓋の裏。
微かに揺れている小さな炎。
闇の中でゆっくりとその輪郭を現していく炎の蛇。
静かに燃える白い炎。心を食らう炎の花。
蛇は白色に輝く。蛇は牙を剥く。
頭は己の尾を食む。
ウロボロス。
激しく揺れる。激しく燃える。
ウロボロスの蛇。