15:「声」
押し開いた扉。
部屋の中では太陽の光が眩しく踊っていた。
広々とした部屋。たくさんの観葉植物。太陽との光合成。
気配を探りながら部屋の中へ。
ここには七つの部屋がある。目的の部屋は一つ。
奥の部屋へとゆっくりと歩いていく。
超高層。大きな窓から差し込まれる日差し。青い。青い空。
奥の部屋の扉は僅かに開かれている。
扉の下から流れ出ている色。真紅。
右手で銃を構えながら扉の横へと回り込む。
扉の奥から漂ってくる血の香り。静かに深呼吸をする。
扉を蹴り開ける。
部屋の中に飛び込み、銃口の先で素早く視界の中を探る。靴に付いた血糊。
部屋の奥。窓の傍。
太陽の光を浴びている亡骸。血塗れの死体。
捻じ曲げられた身体。顔らしき物は太陽の方を向いている。
正体のわからないほど殴り潰された顔。折られた手足。
出来の悪い造花。
「ひどいものだろう」
突然の声。右側からの声。頭の中がざわめく。どこかで聞いた声。
銃口を向ける。部屋の椅子に腰掛けている若い男。
黒い背広。黒い髪。すっと伸びている背筋。落ち着いた態度。日本人。
私の質問。「お前がやったのか?」
聞き覚えのある声。「いいや。私ではない」
とても冷静な声。冷たい眼。
あの死体を目の前にして表情一つ変えていない。
誰だ?どこで聞いた声だ?
「私は警視庁の立宮堂一という者だ。八年前の連続殺人事件とここ一ヶ月に起こった連続殺人事件の捜査を担当している」
立宮は何気ない動作で警察手帳を懐から出す。私に向かって開いて見せる。縦開きの警察手帳。警察記章。立宮堂一の写真。名前。階級は警部。
とても若い警部だ。おそらく二十代。深く落ち着いた雰囲気。
私の質問。「どこかで会ったか?立宮警部」
立宮堂一。「いいや。貴方とは初対面だ」
警部の異様な圧迫感。異様な空気。コイツは何かが違う。
私の中から。私の奥底から恐怖が這い出してくる。滲み出る汗。
私の声。「誰なんだ、お前は?」
立宮警部に銃口を向けながら無意識の内に後ろに下がっていた。
壁にぶつかる。異質な壁。
固く大きく重い身体だ。
後頭部への激しい衝撃。視界が揺らぐ。
後ろから右腕と左腕を掴まれる。万力のような強い力。
拳銃を落とす。後ろのヤツに後ろ蹴りを食らわすが微動だにしない。
立宮警部の声。「尾田白蓮。日系中国人。連続殺人犯だ」
激しい目眩。後ろのヤツに組み伏される。
尾田白蓮。フィノ・コールヴォの後釜。
直感。黒幕は立宮堂一。
私の唸り。「全て、お前の仕業か…」
悪魔の声。「貴方の事件を利用させて貰う。私の為の地均しに」
再び後頭部への一撃。
意識が遠退いていく。視界が霞む。力が入らない。
尾田白蓮が立宮堂一の前に歩いていった。
立宮の声が聞こえる。「心配するな」
力が抜けていく。
立宮堂一の前で跪く尾田白蓮。
銃声。
頭部を撃ち抜かれた巨体。尾田白蓮。
頭の中に銃声が鳴り響いている。
消える意識。
全てが漆黒の闇に包まれた。