13:「ラビリンス」
超高層ビルの屋上。
蒼黒い夜。雲の隙間から燦燦と輝く満月が姿を見せる。
暗い世界を美しい輝きが照らす。
月明かりの下。古ぼけた揺り椅子に身体を預ける。
ゆったりとした寛ぎの時。
夜空を見上げる。
満月。フォルモーント。心騒ぐ美しさ。
ヤツの残した言葉。
声に出してみる。「ウロボロスの庇護の下」
ウロボロス。永遠回帰。永劫回帰。無限。
自らの尾を噛んで環となる蛇。竜。真理と知識。
終わりが始まりとなる。環になった川。
庇護の下?
ウロボロス。何かの組織か。或いは妄想から出た言葉か。
妄想狂の連続殺人犯。フィノ・コールヴォ。自分が殺される事を恐れていなかったようだ。または私が引き金を引くとは思っていなかったのかもしれない。他人の考えなど理解する事は出来ない。
ヤツは私の名を知っていた。どこで知ったのか。ヤツは私の事を見つけたと言っていた。どうやって見つけたのか。奇妙な感覚。ただの妄想狂とは思えない。自信に満ちたフィノ・コールヴォ。
満月の光。屋上を照らしている。
ラジオニュースの音声。
『…警察はここ一ヶ月間で起きた七件の不可解な殺人事件を連続殺人事件と断定しました』
七件の事件だと?
頭の中で照らし合わせる。長久保義弘の資料と最近の事件。
昨日の殺しを計算に入れても六件のはずだ。
『…情報によると、八年前に発生していた未解決の殺人事件七件と酷似した手口であるとの事です。警察は八年前の七件の殺人事件について、同一犯である可能性とその結び付きを断定しておりませんが、今回の連続殺人事件との関連性が非常に大きいと判断し、再捜査に踏み切る事を決定しました』
揺り椅子から離れ、コンピューターの前へ。
最近のニュースを検索する。
昨日の事件。東京郊外。私に射殺された男女。
フィノ・コールヴォの死体はまだ発見されていない。
『…六件目の被害者の男性の自宅から連続女性殺人に関係する証拠品が発見されました。警察はこの男性を連続女性殺人事件の容疑者として捜査を進める模様です』
死んでしまった容疑者。連続女性殺人犯。
昨日の事件。東京都心。控え室で殺された大物歌舞伎役者。密室殺人。
微妙な違い。
八年前の事件。東京都心。標的は大物歌舞伎役者。隣のビルからライフルで狙撃。
どちらの事件も被害者の頚部を後ろから銃弾が貫通している。
再現され続ける八年前の事件。
迷宮に入り込んだ感覚。
フィノの単独犯ではなかったか。
ヤツの仲間。複数犯。
長久保義弘。依頼主の要求。
呟き。「複数犯の場合はその全てを。依頼主にわかる方法で始末する」