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朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第二章 迷宮の奥へ
13/48

12:「ウロボロス」




 激しい閃光。爆発音。


 粉塵。舞い上がる。地面の土。石。木の破片。


 煙の向こう。フィノ・コールヴォの影が奥へと消えていく。


 見えない標的に向かって銃口を向ける。


 弾丸が切れるまで撃ちまくった。マガジンを交換。


 耳を澄ます。


 感覚を研ぎ澄ます。


 ヤツの足音。ヤツの気配。


 慎重な追跡。迅速な追跡。獲物を狩る。


 地面に血痕。負傷したフィノの痕跡。




 数秒の出来事。


 後ろに二つの気配。


 振り返る。


 黒髪の青年。黒髪の娘。


 眼が合う。


 殺しの現場。目撃者は消す。


 他に理由はない。何もいらない。


 素早く狙いを定める。


 銃声。


 銃弾は黒髪の青年の胸部を粉砕。


 飛び散る血。


 青年の驚愕の表情。固まった表情。


 銃口は黒髪の娘へ。


 黒髪。艶やかな美しい黒髪。


 引き金を引く。一瞬の想起。




 美季。




 頭の奥が抜けていく。


 脳味噌の裏側。


 何かが抜け落ちていった感覚。


 青年と娘の身体が地面に倒れる。


 地面に吸い込まれていく。


 赤。ロート。レッド。ロッソ。


 落ち葉も染まる。


 頬を何かが伝い落ちていく。


 無感情。


 不可思議な涙。




 フィノを追い詰める。


 ヤツの左腕を撃ち抜く。ヤツの呻き声。


 黒い拳銃。ヤツの得物が地面に落ちる。


 フィノ・コールヴォの焼け焦げた右腕。


 手榴弾の弾片が突き刺さっている。血が滴り落ちていく。


 崖を背にするフィノ。崖の下は激流の川。


 苦しげなフィノの笑顔。「上手い事、俺を殺さず勝つ事が出来たな」


 無言でヤツの眉間に狙いを定める。ヤツの笑顔が一瞬だけ凍った。


 乾いた笑い。「次はこう上手くはいかないぞ、リンクス」


 真っ直ぐな照準。


 「俺はウロボロスの庇護の下にある。またお前の前に現れるぞ」


 ウロボロス。ウロボロスの蛇。


 己の尾を噛み、円形を成す蛇。


 くぐもったフィノの声。最後の足掻き。「俺の目的を教えてやろうか?」


 引き金を引く。


 銃声と火薬の煌き。


 フィノ・コールヴォの見開かれた両眼。


 飛び散るフィノ。飛び立つ身体。


 真っ赤な血を撒き散らしながらヤツは崖下へと落ちていった。





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