12:「ウロボロス」
激しい閃光。爆発音。
粉塵。舞い上がる。地面の土。石。木の破片。
煙の向こう。フィノ・コールヴォの影が奥へと消えていく。
見えない標的に向かって銃口を向ける。
弾丸が切れるまで撃ちまくった。マガジンを交換。
耳を澄ます。
感覚を研ぎ澄ます。
ヤツの足音。ヤツの気配。
慎重な追跡。迅速な追跡。獲物を狩る。
地面に血痕。負傷したフィノの痕跡。
数秒の出来事。
後ろに二つの気配。
振り返る。
黒髪の青年。黒髪の娘。
眼が合う。
殺しの現場。目撃者は消す。
他に理由はない。何もいらない。
素早く狙いを定める。
銃声。
銃弾は黒髪の青年の胸部を粉砕。
飛び散る血。
青年の驚愕の表情。固まった表情。
銃口は黒髪の娘へ。
黒髪。艶やかな美しい黒髪。
引き金を引く。一瞬の想起。
美季。
頭の奥が抜けていく。
脳味噌の裏側。
何かが抜け落ちていった感覚。
青年と娘の身体が地面に倒れる。
地面に吸い込まれていく。
赤。ロート。レッド。ロッソ。
落ち葉も染まる。
頬を何かが伝い落ちていく。
無感情。
不可思議な涙。
フィノを追い詰める。
ヤツの左腕を撃ち抜く。ヤツの呻き声。
黒い拳銃。ヤツの得物が地面に落ちる。
フィノ・コールヴォの焼け焦げた右腕。
手榴弾の弾片が突き刺さっている。血が滴り落ちていく。
崖を背にするフィノ。崖の下は激流の川。
苦しげなフィノの笑顔。「上手い事、俺を殺さず勝つ事が出来たな」
無言でヤツの眉間に狙いを定める。ヤツの笑顔が一瞬だけ凍った。
乾いた笑い。「次はこう上手くはいかないぞ、リンクス」
真っ直ぐな照準。
「俺はウロボロスの庇護の下にある。またお前の前に現れるぞ」
ウロボロス。ウロボロスの蛇。
己の尾を噛み、円形を成す蛇。
くぐもったフィノの声。最後の足掻き。「俺の目的を教えてやろうか?」
引き金を引く。
銃声と火薬の煌き。
フィノ・コールヴォの見開かれた両眼。
飛び散るフィノ。飛び立つ身体。
真っ赤な血を撒き散らしながらヤツは崖下へと落ちていった。