11:「火薬の閃光」
一瞬。
お互いが拳銃を持ち上げる。
私が右手で構える拳銃。フィノが左手で構える拳銃。
同時。
銃口をヤツに向ける。ヤツの銃口もこちらを向いていた。
引き金を引く。
私の眼。フィノの拳銃が放つ火薬の閃光が映る。
素早く身を翻す。
二つの銃声。軽やかな銃声。馬鹿でかい銃声。
近くの樹木の陰へと飛び退く。
静かな林に銃声が鳴り響く。
フィノの姿は視界から消えている。
更に馬鹿でかい銃声が二つ。右前方の木陰から連続した閃光。
何かが破裂する音。
オープンカーのタイヤを撃ち抜いたか。若い娘の悲鳴が聞こえる。
青年の声。「何だ!」
フィノが身を隠している木陰に向け、三発続けて発砲する。
すぐさま、馬鹿でかい銃声と共にヤツの拳銃から放たれた銃弾がこちらへ向かってきた。
凄まじい衝撃音と共に樹木の皮や地面の土が大きく抉り取られる。
余裕のフィノ。「おい、青年。早いところその女を殺せよ。でないと、きちんとした再現にならないんだよ」
馬鹿でかい銃声。飛び散る火花。
銀色のヴァンダーファルケのボンネットに風穴が開く。
「早くしないとお前を先に始末するぞ」
左側からヤツの隠れている木陰に回り込む。
視界の端。車の中で身を屈めて震えている黒髪の娘。戸惑い。微かに震えながら頭を振っている黒髪の青年。
木々の間を素早く駆け抜けながら、ヤツのいる方向に向けて連射する。
ヤツの至近距離。砕け散る。木の枝。木の幹。
フィノの高らかな笑い声。馬鹿でかい銃声。火薬の閃光。
至近距離。足下の地面が抉られる。肩の傍をかすめていく。
「さっきライフルで狙撃しておけば良かったな、リンクス」
娘の震えた声。「何?一体何なの?」
青年の声。「わからない。わからない!」
フィノのお喋り。「俺と殺し屋リンクスとのゲームだ。お前達はゲームの駒さ。8年前の連続殺人事件を再現する為のな」
フィノ・コールヴォ。よく喋る男。何者か?
腕は立つ。連続殺人犯。模倣犯。目的は不明。
ヤツの目的。
殺してしまえば、それを知る事は出来ない。
手加減して勝てる相手だろうか。
頭の中でたくさんの声が響いている。
どうでもいい。
今はヤツを始末するだけ。
殺すだけ。
頭が軽くなったような感覚。
沈めていく。深い底へと沈めていく。
車の中から逃げ出そうとする青年と娘。
呆れたようなフィノの声。「忠実な再現にはならないが、まぁ、良いだろう」
二人を狙うフィノの銃口。
私の拳銃。銃口はヤツを狙う。牽制射撃。
ヤツのいる木陰に向け、左手で小型の手榴弾を放り投げる。
フィノが盾としている樹木の幹。
手榴弾が幹に当たり、地面に落ちて跳ねる。
気付いたフィノ・コールヴォ。
ヤツの驚きの表情。