表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朧時 ~終わりない夢~  作者: 佐治道綱
第二章 迷宮の奥へ
11/48

10:「疑問符」




 ライフルのスコープがヤツを狙う。


 金色の髪。金色の髭。


 年齢、三十歳から四十歳といったところか。


 ヤツの冷たい眼差し。銀色のオープンカーの二人を狙っている。


 ヤツと二人の距離。約二十メートル。


 静かに獲物を狙う。ヤツ。私。


 考える。


 ヤツはあの青年があの娘を殺すのを待っている。ヤツはあの青年に目をつけていたのか。あの青年が連続女性殺しの犯人だと見抜いて。あの青年が他の女性を殺した証拠を確認したのだろうか。


 私の直感はあの青年が連続殺人犯だと告げている。


 いや。かつて私が始末した連続殺人犯と同じような瞳。同じような雰囲気。


 例え、同じような思考を持っていたとしても、それを実行するかどうかはわからない。


 ヤツが左手で拳銃を構える。


 銃口の先には黒髪の青年。


 一瞬の思考。


 今、ヤツを始末するか。今なら簡単だ。殺せ。


 しかし、ヤツの目的は何だ。私の事を知っているのか。私の何を。


 ヤツが構えた拳銃を降ろす。


 疑問符。


 そして、驚き。


 こちらを見ている。ヤツの両眼。ヤツの冷たい微笑み。


 知っている。ヤツはこちらがライフルで狙っている事を知っている。


 ヤツはゆっくりと唇を動かす。何かの言葉。


 唇の動きを読んだ。「フィノ…。コールヴォ…」


 優雅な動作。ヤツはこちらに向かって優雅にお辞儀をして見せた。


 フィノ・コールヴォ。ヤツの名前。


 笑っている。フィノは両手を広げた。右手をゆっくりと自分の胸元へ。右手の人差し指と中指。二本の指で自分の心臓の辺りをトントンと叩いている。


 ふざけたマネ。


 ライフルの引き金。指をかける。


 フィノは軽やかなステップでダンスを踊り始めた。おどけた笑顔を振り撒く。


 ヤツの足元の落ち葉が軽く舞い上がる。


 フィノ・コールヴォの手招き。


 どうぞこちらへ。




 私はライフルを置き、フィノと二人の日本人の近くへと歩いて行った。


 二人の日本人には気付かれていない。


 拳銃を抜く。


 フィノ・コールヴォはさきほどの場所から動かず、私が来るのを待っていた。


 対峙したヤツと私。


 暫しの沈黙。


 ヤツの低い声。「ゆっくりとした御登場だな」


 私の問いかけ。「あの青年があの娘を殺す所を見ていなくて良いのか」


 「俺はとても鋭い臭覚を持っているんだよ。優秀な猟犬のようにな」


 「その鼻であの青年を嗅ぎつけたという事か?」


 フィノの笑顔。自分の言葉を続ける。


 「猟犬と言うよりも死臭を嗅ぎつける烏のように」


 「いずれ私に見つけられる事は分かっていただろう」


 ヤツの嘲笑。「お前が俺を見つけたんじゃない。俺がお前を見つけたんだよ、リンクス。お前があの二人を張っていたから、俺がお前の視界の中に入って来てやったんだ」


 なんだと?


 フィノの表情。優越感。


 「お前は死臭を漂わせ過ぎだ。簡単に見つけられた。御粗末な殺し屋だな」


 「そんな事を言いたいが為に八年前の事件を模倣したのか」


 「俺の目的を知りたいのか?」


 ヤツの両眼を睨み付ける。私の中で何かが唸りを発する。


 フィノは眉間に皺を寄せながら小声で囁く。


 「俺に勝てたら教えてやるよ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ