9:「怪物の色」
高架道路を駆ける銀色の隼。
ヴァンダーファルケ。ドイツ製のオープンカー。
車などどうでも良い。
私の中。直感が騒ぐ。
黒髪。青年。黒髪。娘。
いつかも感じた直感。
青年の瞳。暖かい優しさ。冷酷な狂気。
入り混じった色。
怪物の色。
サングラスをかける。
WiSとヴァンダーファルケの距離を取りながら、自動運転モードに切り替える。
サングラスのスコープ機能。
日本人の若い男女をズーム。ピントを合わせる。
日本人の娘は幸せに浸っている。
日本人の青年は幸せに浸っている。
食い違っている何か。
お互いの想い。お互いの感じ方。
八年前の記憶とダブる。
赤毛の青年の優しい手つき。
長い髪の女性。赤毛。ニット帽を被っていた。
赤毛の青年の瞳。瞳の色。怪物の色。
歪んだ愛情を持つ標的。
八年前の連続女性殺人犯。
可能性は低い。
ヤツが現れる可能性。
可能性はあくまで可能性だ。
ヤツもまた怪物の色をした殺人者を追いかけているのだろうか。
私の殺しを再現する為に。
銀色のヴァンダーファルケは高架道路から降りて行く。
東京郊外。緑の風景。心休まる色。
平凡な風景。平和なひととき。
銀色のオープンカー。平和な二人。
涼しげな林の中に車は停められた。
日差しが眩しい。深い緑を突き抜けて、車内の二人を照らす。
離れた場所から見ている私。
もしもの時の準備。サングラスのスコープからライフルのスコープへ。
私の殺しを忠実に再現するなら、ヤツの得物は拳銃だ。
車内の二人。口付けを交わす。
お互いを抱き締める。絡み合う身体。
聞こえない言葉。二人の言葉のやり取り。
黒髪。二人の黒髪。
眩しい日差し。林の中。木漏れ日の中。
スコープの中。現れた新たな人影。
灰色のジャケット。今日の空の色。
木漏れ日の中で輝く金髪。金髪の男。
二人に気付かれる事無く、ゆっくりと近付いていく男。
左手には拳銃。黒く鈍い光りを放っている。
夢を見ているような感覚。かつての自分を見ている気分。
金髪の男。横顔が見えた。
ヤツの眼。
狂気。狂喜。
怪物の色。