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プロゴルファー礼子(笑?)

幸いなことに私は、ヤンキーに囲まれたことはなく、無事に学生時代を終えました(笑)


 今日は幸いなことに何も事件が起きなかったので、聡介は定時ですぐに帰宅した。

 和泉には体育祭が終わったらさくらと一緒に帰ってきて、夕飯を食べようと誘ってあったので、家に帰ったら二人が待っていると思っていたのだが。

 家には誰もいなかった。

 聡介の帰りを待ち構えていたかのように、電話が鳴る。

『聡さん? さくらちゃん……もう帰っていますか?』

「お前、今どこにいるんだ?」

『自宅です』

「さくらはどうしたんだ?」

『お友達と一緒に寄り道するからって、ふられちゃったんですよ』

 まさか。

「そんなはずは……さくらには今朝、彰彦と一緒に帰って来いって言っておいたんだぞ」

『……遅ればせ反抗期なんじゃないですか?』

「……まさかとは思うが、お前、さくらに何か余計なことを言ったりしなかったか?」

『何の話です? まぁ、いずれにしても心配ですから探しに行きます』

「待て、俺も一緒に行く!!」

『……すぐ迎えに行きますから、外に出ていてください』


 電信柱に書いてある住所表記は『久保2丁目』。

 細い路地の入り組んだ迷路のような街並み。

 今になってさくらは思い出した。この町で生まれ育った父から、絶対に出入りするなと言われた繁華街。

 あちこちの店からカラオケの音が漏れ聞こえてくる。

 さくらは我知らず、必死に優作の腕を掴んでいた。

 つい先ほど公衆電話は見つかった。細い路地を抜けて、海沿いの幹線道路に出たところにそれはあった。

 優作が電話している姿を見ながら、さくらは辺りを見回した。

 今はただただ、変な人に絡まれたらどうしよう、という不安しかない。

 その時だ。

「高岡さん?!」

 と、いきなり背後からさくらに声をかけてきた人物がいた。

 振り返ると、見知らぬ少女がすぐ近くに立っている。

 暗いのではっきりとは見えなかったが、シルエットや声の様子からなんとなく同年代の少女と思われた。

「どうしたの? こんなところで会うなんて……」

 クラスメートではないのは確かだ。優作と違って、さくらはクラスメートの顔と名前ぐらい覚えている。

 もしかしたら、梨恵と間違えられているのかもしれない。

 先日もそんなことがあった。

「……どちら様ですか……?」

 すると相手は目を丸くして、ケラケラと笑い出す。

「やだ、何か悪いものでも食べたの?! なに、その言葉遣い!!」

 間違いない。相手は自分を梨恵と勘違いしている。

「もしかして……梨恵のクラスメートですか?」

「え……?」

「私、梨恵の双子の姉です」

 相手は一瞬黙りこんだ。

 やがて、突然にぱっとライトが照らされる。

 眩しさにさくらは手で目元を覆う。何の光だろう?

 ライトのおかげでようやく相手の顔がはっきりと認識できた。

 長い黒髪に、白い肌。やや派手すぎる化粧。

 美少女には間違いないが、恰好からして明らかにヤンキーであった。

 誰だろう……?

「ああ、そう言えばそんな話を聞いたことあったわ……じゃあさ、お姉さん」

 少女は突然、腕まくりをしてみせた。

「この怪我、あんたの妹にやられた傷なの」

 見ると少女の腕には、刃物で傷をつけたのかというような真っ赤な線が走っていた。

 他にも青痣があちこちについており、せっかくの綺麗な肌を台無しにしている。

「え……?」

「治療費、割とかかるんだよね。それと慰謝料。あいつ、あたしにこんな怪我させておいて、ごめんの一言もないんだよ?」

 さくらはその少女の話を鵜呑みにし、疑うことはしなかった。

 実際、梨恵がクラスメートの少女とケンカ騒ぎを起こして停学処分を喰らったのは最近の話だからだ。

 あの時は父が学校に行って、相手の少女と示談交渉してくれたから、それ以降のことは把握していない。でも、梨恵のことだ。

 ごめんなさい、という基本的な一言だってちゃんと相手に伝えていない可能性は高い。

「……ごめんなさい……ほんとうに、申し訳ありません……妹に代わって私が謝ります、ほんとうにすみませんでした……」

 しばらく沈黙が降りた。

 やがて、大きな笑い声が耳に響く。

「あはは、お姉さんおもしろいね!!」

 時々そう言われる。

 何が面白いのかさくらにはまったく理解できないのだが。

「ねぇ、みんな聞いた?! この人、あの高岡梨恵のお姉さんだって!!」

 みんな……?

 さくらは驚いて周囲を見回した。

 するとそれに応えるかのように、一斉にバイクをふかすエンジン音が響く。

 何人いるのだろう?

 数人なんていうレベルではない。もしかしなくても、一クラス分の人数、つまり四十人程度はいるようだ。

 自分達は囲まれている。

 すーっ、と全身の血が冷たくなったような気がした。

「じゃあさ、とりあえず治療費だけ置いていってくれる?」

 さくらは財布に今、いくら入っているだろうかと考えた。

 急いでカバンに手を伸ばしかけた彼女の手を掴んだのは、優作だった。

「……わざわざ、自分から車の前に飛び出して行ってぶつかり、治療費を請求する詐欺行為をする人間のことを『当たり屋』というらしい」

 彼は淡々とそう話し出した。

 何を言い出すのだろう? さくらは息を飲んだ。

「梨恵が停学処分を喰らうほどの騒ぎを起こしたのは、もう半月近く前の話だ。今見たところ、あんたのその怪我は真新しい……いつ、どういう状況で梨恵に着けられた傷だと言うのか、証明してもらおうか」

「……」

「梨恵はここのところずっと、夜遅くまで働いている。学校にも真面目に行っている。他人とトラブルを起こすようなことを極力控えているという、証言もある」

 誰にそんなことを聞いたの?

 なんて、訊ねるまでもない。

 優作はきっと慧からその話を聞いているのだ。

 梨恵は彼の親友が経営している店で働いているのだから。

「あれだな。飲食店で、自前で持ち込んだゴキブリを料理の上に乗せて、イチャモンをつけた上で金を支払わない……あんたのやってることは、チンピラと変わりない」

 さくらはしかし、違う意味で青ざめた。

 それは確かに真実かもしれないが、よりにもよって相手はヤンキーである。

 まともな理屈が通じる相手ではない。わざわざ挑発するようなことを言って、相手を怒らせてどうするのだ。

 さくらは思わず優作の袖を引っ張った。

「とりあえず、金払っておけばいいんだよ!!」

 苛立った様子で少女が怒鳴る。

 怖い。

 助けて、お父さん!!

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