行き詰まった末のこれ:1
心から尊敬するI様。『改善の努力をします』と声高らかに宣言したはいいものの、なんだかなぁ……って感じです(泣)
ちなみにサブタイトルに書いたように、行き詰まっています(汗)
一度最後まで書いたものの、どうしても気に入らなくて、書き直しているうちに段々と終点が見えなくなりつつあり……でもエタるぐらいなら、いっそこじつけでも何でも無理にでも完結させてやる!! と思っています。
しばらくは会わないと自分から言ったくせに、話があるから会いたいと優作が連絡してきた。家を訪ねてきた翌日のことだ。
アルバイトで忙しい、と梨恵はその申し出をかわした。
たぶん別れ話を切り出されるのだろう。
本当は以前からわかっていた。優作の気持ちが自分にないことに。
一緒にいて楽しいと思えないのはきっとお互い様だろう。
だけどそれを認めたくはない。
それに、梨恵は気付いてしまった。
優作が家に来てくれた時、あの日に。
彼は、きっとさくらのことが好きだ。
そしてさくらもまた、同じ気持ちなのだと。
許せない。
それからというもの、梨恵は小松屋にも姿を見せないことにした。
あそこに行けば優作と遭遇する可能性が高い。
「そうか、いないのか……」
あらかじめ約束が出来ないのなら、そう考えてある日曜日の朝、優作は直接高岡家を訪ねた。
しかし、梨恵は今日もアルバイトで不在だという。
「ごめんね、なんか私も心配になるぐらい働き詰めなの。もし良かったら、私から梨恵に伝言するけど?」
さくらはそう言ってくれたが、まさか、別れ話を伝言してもらう訳にはいかない。
「いや、俺が直接会って伝えないと意味がないんだ」
「そう……」
その時、
「おっ! また来てくれたのか?!」と、後ろで声が聞こえた。
振り返ると、夜勤明けで返ってきたらしい、さくらの父親が嬉しそうな顔で立っている。
「上がりなさい、こないだの続きをしよう」
「お父さん、寝なくていいの?」
「何を言ってる、こっちが先だ」
さぁさぁ、と聡介に背中を押されるまま優作は家に上がり込んだ。
結局本来の目的を果たせないまま、聡介と将棋盤を挟む羽目になる。
実のところを言うと、優作も久しぶりに将棋のできる相手が見つかって喜んでいた。
将棋を教えてくれる教室が閉鎖になり、その後中学に上がった優作は部活で将棋ができないかと期待していたが、将棋部は存在しなかった。
部活動として学校に認めてもらえるには、部員が3人以上という決まりがある。慧とは同じ中学だったが、彼以外に将棋をする生徒は他にいなかった。
その代わり、囲碁部は存在した。
優作も一応入部してみたが、クラブ活動はまるで定期性がなく、部室もなく、その内に幽霊部員となってしまった。
慧とは、向こうが店で忙しいのもあって久しく対局していない。
今度余裕がある時にでも久しぶりに一局誘ってみよう。
それにしても高岡聡介はなかなか手強い相手だった。
その上、ポーカーフェイスが板についている。
優作にとってこの上なく楽しい時間だった。
そうしている内に、別れ話はまた今度でもいいかなと思い始めた。
元々学校で勉強するつもりは毛頭ない梨恵だが、ここ連日長時間のバイトをしているため肉体がかなり疲労していて、眠気に耐えられず、授業中教師の前で堂々と何度も舟を漕いでいる。
「最近、全然うちに来ないんだな」
休憩時間、教室の隅っこで一人ぼんやりとしている梨恵の前の席に、慧が腰をおろしながら話し掛けた。そういえば彼の声を久しぶりに聞いたような気がする。
「うちの母親が寂しがってる。なんで来てくれないのかって。優作にもずっと会ってないだろ? どうしたんだよ? 前はあんなに好きで、会いたいって大騒ぎしてたくせに」
本当はわかっている。
優作は別れを切り出そうとしていて、自分は逃げている。
「……」
「お前さぁ、優作の何がそんなにいいわけ? 確かに顔と頭はいいかもしれんが、口を開けば憎たらしいし、いつも仏頂面だし。特に優しくもないだろ?」
確かに慧の言う通りだ。
優作から親切な言葉をかけてもらったことも、優しくしてもらったことなど今まで一度もない。覚えていることと言えば、訳のわからないことで叱られたことぐらい。
どこがそんなに好きなのか? と言われたら、答えられないのが現実である。
ただ好きという感情だけではダメなのか。
その時「ねぇ、今岡君」と、クラスメートの女の子が慧に声をかけてきた。
名前は確か、木内静子。さすがに入学して半年以上経過した今、梨恵もクラスメートの顔と名前ぐらい一致しだした。
いつも暗くてじめじめした、一人では何もできなそうな北川明奈という女の子とつるんでいる、気が強くて活発そうな、少しだけ年上で大柄な女性である。
そう言えば以前も、慧のことで何か聞いてきたことがあったのを思い出す。
気持ちがささくれ立っている梨恵は、思わず立ち上がって
「今あたしが慧ちゃんと話してるの、じゃましないでよ!」と叫んだ。
すると静子は一瞬怯んだが、
「何よ、そんな言い方しなくたっていいじゃない!」と言い返す。
一触即発。
慧は話しかけてきた静子の方に向こうへ行こう、と立ち上がる。
勝ち誇ったような顔で見返され、梨恵は腹立ち紛れに机の上にあった筆箱を手にとって投げつけた。
そしてそれは不幸にも、慧の後頭部を直撃する。
当たり前だが、彼はひどく怒った顔で戻ってくると、ぱん、と思い切り梨恵の頬を平手で叩いた。
「お前、家でもいつもそんな調子なんだろ? 家の中なら、お姉さんが我慢してくれるから許されるかもしれないが、外じゃ通用しないんだよ。いつも世の中が自分を中心に回ると思うな!!」
慧はそう言い残して教室を出て行く。
梨恵は痛む頬を手で押さえながら、椅子に座り直した。
どうしてこうなるのだろう?
その時だ。
クスクス、と梨恵の背後でせせら笑う声が聞こえてきた。振り返るとあの女だ。
いつも静子の後ろに隠れて、一人では他人とまともに口も聞けないと思っていた北川明奈が、肩を震わせて嘲笑している。
カーっ、と頭に血が昇る。
「何笑ってんのよ?」
「だって、ただおかしくて。あれ、静子に向けて投げたんでしょ?」
なんだ、一人でもちゃんとしゃべれるじゃないの。
「頭も悪いけど、コントロールも悪いのね」
頭に血が昇って、気がついたら、梨恵は拳でその子を殴りつけていた。
キャーと悲鳴が上がる。そのあとはもう惨劇だった。
髪の毛を引っ張り合い、爪で引っ掻き合い、手も足も出し合って、机も椅子も倒れ、女子プロレスラーでもここまでやるだろうかという取っ組み合いが繰り広げられた。
先生を呼んでくる、と誰かが言った。
騒ぎに気づいて戻ってきた慧と、教師が止めに入るまで、北川明奈は梨恵の上に馬乗りになって、往復ビンタを繰り返し、挙げ句に梨恵の首を絞めかけていた。