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たのしいお勉強会:2

「……さくらの家に、か?」

 さくらの中では、優作の反応として予想される返答は以下3つ。

『なんで俺がお前の家に行って一緒に勉強しなきゃならないんだ?』

『一人でやらないと勉強にならない』

『俺はそれほど暇じゃない』

「うん、まぁその……そうね、無理しなくてもいいの。気が向いたらで」

「……行ってもいいのか?」

「もちろん、来て欲しいから言ってるんじゃない」

 予測を大きく外した気象予報士の気分だ。

 いっそ嬉しそうにさえ見える優作の表情に、さくらは大いに戸惑っていた。

「もれなくうちのお父さんと、梨恵が付いてくるけど。それでいいんなら……あ、梨恵は優作君の彼女だったもんね。むしろ私の方が余計な付録かしら?」

 さくらは自分の台詞に自分で落ち込んだ。

 すると、何故か優作は悲しそうな瞳をみせた。それでも、

「……今度の水曜日でいいんだな?」

 その日が聡介は非番の日だ。

「必ず行く、約束する」そう答えてくれた。

 思いがけない展開に、さくらは喜んでいいのか驚くべきなのかしばらく悩んだ。


 向かい合って座っている和泉はニコニコと笑っている。

「どうしたんです、聡さん? 急にお昼ご飯を奢ってくれるなんて」

「……何も聞かないで明日、定時になったら仕事が途中だろうが放り出して、まっすぐ俺の家に来てくれ」

「どうしてです?」

「何も聞くなって言っただろうが」

 そうでしたっけ? と、和泉はしらばっくれる。

 少し考えた末、聡介は思い切って事情を明かすことにした。

「娘が……男を家に連れてくるそうなんだ」

「へぇ……って、え?」

「どんな顔をして迎えたらいいのかわからん。だから、助けてくれ」

 和泉はしばらくポカンとしていたが、やがて笑い出した。

「何言ってるんですか、大げさですよ。お嬢さんってまだ16か17ぐらいでしょう?」

「年齢は関係ない」

 そうかもしれませんけど……と、和泉はイマイチ乗り気ではなさそうだ。

「俺の頼みを聞いてくれたら、寿司でも焼き肉でも、お前の望むものを好きなだけ食わせてやる」

「承知しました」即答。

「それに……」 聡介はこほん、と咳払いをしてから言った。「もしかしたら将来、お前の義理の弟になるかもしれんだろうが」

 すると和泉は謎の微笑みを浮かべた。

「……頼んだぞ? 明日だからな」

「そんなに念押ししなくてもわかってますよ、おとうさん」


 地に足がつかないというのは、こういうのを言うのだろう。

 優作が家を訪ねてくる。

 約束した水曜日の前の晩、さくらは危うく煮物を焦がしそうになった。

 どんな料理を作ってもてなそうかとあれこれ考えた結果、普段と変わらない惣菜が一番だという結論に達した。

「いい匂い~……ねぇ、これ私が作ったことにしてよ」

 きんぴらごぼうをつまみ食いしながら梨恵が言う。

「別にいいわよ」すぐバレると思うけどね。

 現金なもので、少し前までは食欲も失せるほど沈んでいた妹は、また優作に会えると分かった途端にいつもの調子を取り戻した。

「そんなことより、梨恵。少しは部屋のお掃除しなさいよ? いつもの部屋見られたら、嫌われちゃうわよ」

 何度掃除しても片付けても、梨恵の部屋は3日と置かず汚くなる。

「あたしの部屋は使わないからいいの」

「えっ? 何それ、どういう……」

 さくらの部屋を、自分の部屋だと言って優作に見せるつもりなのだ。

 落ち込んでいれば可哀想だと憐れに思うが、元気になったらなったでいちいち言動に腹が立つ。こんな妹とよく16年も一緒に暮らしてきたものだと思う。

 そんなことよりも、さくらにはもう一つ気になることがあった。

 聡介が和泉を連れてくるというのだ。

 なんでまた……と思ったが理解できなくもない。

 和泉は話が上手だし、父も一人では何かと心細いだろう。

 それに、人数が多い方が恐らく気まずい空気を回避できる率が高い。

 明日はどんな日になるのだろう?

 今夜は眠れそうになかった。


 放課後、一度自宅に帰ってからやってきた優作は、チェックの長袖シャツ、ジーパンにスニーカーというカジュアルな格好でやってきた。制服姿以外を見るのは初めてだ。

 さくらは思わず、上から下まで彼の全身を見つめてしまった。

 ちなみにさくらは普段家の中では、中学生の頃のジャージで過ごしているが、さすがに今日はやめてそれなりの格好にした。

「初めまして、有村と申します。今日はご招待いただいてありがとうございます。よろしかったら、ご家族の皆さんでお召し上がりください」

 如才なく挨拶し、優作は持参した菓子折りを差し出す。

 いつも学校で見せる表情や態度はなりを潜め、しっかりと立派な猫を被っている。

「ああ、これはどうも。娘達がいつも大変お世話になっております。さ、どうぞおあがりください」

 緊張している聡介は、高校生の少年相手に自分が敬語で話していることに気づいていないようだ。

「優ちゃん、来てくれてありがとう……」

 梨恵は嬉しそうに出迎え、優作をさくらの部屋に引っ張っていく。

 そして父と姉の前でパタン、とドアを閉めてしまった。


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