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RPG・ロールプレイ  作者: 光露
8/12

魔的なお遊び


色々な意味で恥ずかしかった仕事を何とか気力で終わらせ、昼食をそのままご馳走になった後、俺は二人と別れて人気のない所まで来ていた。もちろん本を片手にだ。


やって来たのは昨日目覚めた場所、この村唯一の観光名所であろう『星剣の祠』の裏手だ。祠は洞窟をくり貫くようにして作られており、その中は全くといってもいいほど日の光が入らないが、その代わりに特殊な鉱石が常に明るく光っており、幻想的な空間を作り出している。その中心には例のごとく勇者の剣的な物、場所の名でもある『星剣』が突き刺さっているわけだが、これは今は置いておこう。後で、というかそれなりに早くに取りに来たいのだがな。とまあ、そんな不思議空間の裏手であるここの林はまぁ人が来ない。しかも、祠はまだ村の判定であるので魔物の類いが出る心配が無い…はずである。


「うへぇ、口のなかがジャリジャリするぜ…」


林の中に丁度良さそうな空間を見つけた俺は用意した水をもう一度飲んで、一息いれる。先程今後のためにと入手した粉末を飲んだのだが、思った以上に喉へ流れていかず、その違和感を盛大に口のなかへ残していたのである。


木々の間から空を仰ぎ見てみれば、既に大きく昇った燦々(さんさん)と輝く太陽は少しずつその高度を下げ始めていて、本を読みながらだとそんなにかけられる時間は多くない。


「さてさて、それじゃあ始めますかね」


暖かい風と陽気な陽射しがやんわりと眠気を運んで来るが、それに釣られてやることは出来ない。ゆっくりと首を振って眠気を払い、それなりに背の高い木の下、木陰で作られた気持ちの良さそうな場所に近づき、長めの草を尻に敷くように腰を下ろして、手に広げた本の内容に目を通していく。



そこから俺はただじっと本に視線を落とし、じっくりと本を読み始める。一定の感覚でハラリと微かにページが擦れる音がし、時折緩やかな風が木々を揺らして木の葉が揺れ会う。そんな時間がしばらく続き、やがて太陽はゆっくりと傾き、木陰がその長さをいくらか伸ばす。そして俺はパタッと音を立てて本を閉じた。


「ふむ、なるほど分からん」


木に体重を預け、疲れ目をグッと閉じてそう呟く。ただそれは何が何だか全く分からないというそういうお話では無い。前半は魔術とはどんな物かの解説に始まり、初級の呪文の詠唱やまるで読める気がしない文字の羅列などが並べられ、そこを軽く読んだ後、後半は中学校科学がほとんどで非常に親しみのある内容だった。問題は最初の最初、魔力そのものについてのお話だ。



この本曰く、


魔法とは、世界に切っ掛けを与えて結果を得る科学と肩を並べる人の道具である。


魔方式とは、長い年月をかけて人が編み出した世界に干渉する叡知の結晶である。


魔力とは、物理法則や世界すら繋ぐ裏の力である。



ふむふむ…、そうかそうか…、なるほどぉ………で?どーすればいいの?



結果何かと言うと、この本、魔力を一体どうすれば扱えるようになるのかが全くと言って良いほど書いてないのである。『物理法則の力は、裏で魔力さんが頑張っていたからあるんだよ!』って言われても、『へぇ~、そーなんだ』としか返せない。あれ創刊したのいつよ。


そもそも魔力が分かる人だけが読むということを前提に書かれているこの本では魔法の練習に移るどころか、最悪魔力の使い方すら知ることが出来ない。それ以外の詠唱内容がどう頭に変化を及ぼし、それをきっかけに魔法をこうして発動しているとかの方はまだ分かるんだけどな。


「はぁ~あ、一体どうしたもんかねぇ」


おそらくこの世界の人からしたら魔力が分かるのが当たり前で、分からない俺の方が不自然なのだろう、となるとこの前段階は自分で解消するしかない。そこまで思考が行き着いたところで、少し焦り始めた気分を落ち着かせようと、凝り固まってしまった筋肉をほぐすようにグッと体に力を入れて伸びをする。詰んでしまった現状に、血の流れが活性化される気持ちよさと、上がった視線に映るまだ高めの太陽で、いっそこのまま寝てしまおうかという考えが浮かぶ。


「もうそれでもいいかもな~~、あふ」


自らの思いもよらないほどの前段階でつまずき、投げやりな気分でそう呟いてうららかな陽射しに込み上げた欠伸を噛み殺す。


その時、コロリと何かがポケットからこぼれ落ちた。


「ん、なんだぁ?これ」


ビー玉の様にツヤツヤとしたそれには見覚えがなく、つまみ上げてみれば固いなかにも妙な弾性がある物体だった。


「ふーむ、こんなのに覚えはないんだが…。いや、あったか」


指触りでようやく思い出した。これは初日に俺を殺しかけてくれたあのスライム君のなれの果てではないか。


「なんか思い出したら腹立ってきた、油性ペンは…無いな」


ラクガキでもしてやろうかと思ったが、残念なことに道具がない。さて、それじゃあどうしてやろうか。と、いうところで、不意に核がひび割れた。


「あん?」


パキイィィィン


核に入ったヒビは瞬く間に広がり、涼やかな音を立てて砕け散る。形を保つ力を失ったそれは薄い霧となって俺の体へ染み込んでいく。


「ん?」


アイツに乗っ取られていた時に一度は倒しているので、全く知らない感覚では無い…と思ったのだが、霧が染み込んだ後の体は妙に温かく、なんとも形容しがたい裏側がチリチリする感覚に襲われた。


「んお、ぉぉおお?なんだコレ!?スッゴいかゆい?かゆい、し、くすぐったい!」


乾ききった水路が急激に水で満たされるような染み渡る感覚に、立っていられなくなり、倒れるように寝転がって草原の上でゴロゴロと一人身悶えする。身体中に発生する強烈な刺激に、俺には一秒が何秒にも感じられた。しかし、数分もすれば徐々に身体中の違和感は消え去り、最後には妙に充実した体だけが残った。


「ふぅ。よ、ようやく収まったか」


未だに強く残る余韻はいかんともし難いが、足にしっかりと力を込めて立ち上がり、体に着いた土と草を落としていく。


「今が一人の時で本当に良かった…」


なかなかに酷い目に遭ったが、周りに誰もいなかったのが唯一救いだった。あんなところ誰にも見せられたもんじゃない。男があえぎ声を上げながらのたうち回るなど、どこに需要があるのか。


そんな中でも、得るものは確実にあった。


先程までとは体の中身が入れ替わったのではないかと錯覚するほどの充実感に溢れた体。その謎の存在を確かめるように体のなかを動かしてみれば、微かだが動いているのが感じられる。今までとは違う新しい感覚が自分のなかに生まれているのを確信して、思わず口角がつり上がる。ぷるぷるとした足取りで悪どい笑みを浮かべるよれよれの服の男など、端から見れば確実に変人だろうがそんなことを気にしていられるようなテンションでは無い。


「まずは基礎の基礎からだな」


期待ではやる気持ちを抑え、震えそうになる指で本のページをペラペラとめっくっていき、俺はお目当ての初級呪文が書いてあるページを見つけた。そのページを開いたまま本は左手で持ち、右手は人差し指を立てて虚空に持ち上げる。


今から試し撃ちをするのは初級手前の生活魔法。そのうちの一つ、雷魔法『電針ラティス』と名付けられた生き物を痺れさせる程度の魔法だ。俺は本のページに書かれた短い詠唱を読み上げる。


「流れるは傾きし雷『電針』」


先程分かるようになった魔法的感覚を指先に集めて詠唱を始めると、パチパチと音が鳴り始め、急激に音と光が高まっていく。そして詠唱が終わって一拍置き、バチッと宙を電撃が三メートルほど走った。


「~~ーーーー!!!!」


小さくとも確かに起こったあり得ない現象に、振りきってしまったテンションで声にならない声が漏れる。手を二、三度開閉してその感触が確かであることを確かめ、もう一度撃った。


『雷針』


バチッ


「キターーーーーー!!!」


まるで子供が玩具をもらったかの様だが、そんな事は気にしない。今は一人だしな!浪漫の前では何事も意味を成さないのだよ‼


成功の喜びと覚めやらぬ興奮に満たされながら、とにかく他にも撃ってみようとページの上に視線を巡らせ、片っ端から詠唱していく。


「点けし火を震え咲かせよ『灯火ヘイル』」


「平に集まれ水の玉『飛水リギン』」


「包みし空よ留め凍てつけ『氷結クアイ』」


「握り固まるは堅き土『土礫マギア』」


「吹き流せからそら光風ティーニャ


手のひらの上に火を点け、それを水で消化し、更にそれを凍らせ、土の塊でそれを打ち砕き、最後に土の塊が崩れて出来た土くれを風が吹き流す。全ては昨日のスライムにすら大して効かないであろう生活レベルの魔法だが、次々と瞬くように出されていく魔法は自らのものながら強く心惹かれる。


「間を遮るは溢れだす魔『スレイ』」


一度自分を包むようにして影を生み出し。


「魔で満たせしは魔払いの光『イルム』」


今度は弱い光で打ち消す。


「クハー!やばいめっちゃ楽しい」


次々に成功していく魔法に俺は更に気を良くし、もっとやりたいとページを更にめくっていくと、あまり見覚えのない魔法が出てくる。


「ん?何コレ…ってああー。何だ、使い道がなかったクズ魔法じゃん」


そこにあったのはゲームの中でもまぁ使われることのなかった『シトネ』という糸を作るだけの魔法。敵の動きを遅くする効果があったのだが、MP消費は少なくとも効果は低く、更に中盤でもっといい魔法が出るため使われない筆頭となった魔法だ。ただし、本のなかに書かれていたそれは俺の知るそれと大きく違う意味を持つものだった。


「んん?呪文は何も書いてないけど……え、必要ないの?マジで?」


そのページは魔法を制御する練習法がまとめてあり、シトネはその一つとして存在していた。そこにあったのは詠唱を必要とせず、魔力を物質として扱う魔法。その強度はあまり高くは無いがより細かい制御を学ぶのに良いらしい。


しかしそんなこたぁどうでもいい、そこにおいて重要なのはただ一つ。


自由度が高いということだ‼


実用的には使えずとも、遊ぶ上ではそれは重要な要素である。糸や輪ゴムがあるだけで、下らない遊びのレパートリーがどれだけ増えることか。


しかし、それもちゃんと扱えていればの話だが。


「うん、まぁ…だよな」


ここまで出来たならばコレもできるだろう!と調子に乗り、さっそく適当に指へ魔力を集めて押し出してみたのだが…、出来上がったのは指にぶら下がる…糸?いや、練り消しの方が的確だろう。


プラプラとぶら下がるそれはとても糸と呼べるような代物ではなく、でこぼこと凹凸の多いそれはあまりにも不格好で不様だった。


それがしらずしらずに調子に乗っていた俺を表しているようで、冷や水を浴びせられた思考が今までの熱を忘れて一度冷静になる。


ここまでの魔法は正直魔法の習い始めでも人によれば1日で出来るような内容だ。一発で上手くいったのは確かによくできた方だろう。それでもあくまでそれだけだ。調子に乗って練習していては直近に迫った危険に対処できない。


苛立ち紛れに軽く頭をかき、振りきるように首を振るう。何でも出来るとさえ思いそうだった自分の思考を今一度戒め、深く息を吸って………そして吐く。


「すぅ……はーーー、…………よし」


足を緩く開き、人差し指を立てた右手は体の中心まで上げ、その先端をじっと見据える。そしてもう一度、今度は慎重に指先へ魔力を集め、今度は一定にゆっくりと押し出し続ける。本物の糸のように複数本をよじってみることも…してみたいが、それはもっと後の事だ。いきなり応用なんて今の俺がすることじゃない。


自分の思考で揺れかけた好奇心を抑え、ただひたすらに集中して作業を続ける。ゆったりと魔力を放出し続ける指先からは、するする、はたまたにゅるにゅると固めたものがどんどんと伸びていく。その後三十センチメートル伸びるまで一分ほどかけ、それはついに完成した!



茹でたそうめんがな。




「ちくしょう!」

スキル:魔法系統 が解放されました

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