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RPG・ロールプレイ  作者: 光露
6/12

現状把握

今まで見てきた中で比べ物にならないほど深い闇と瞬く星に覆われた空、その中心で薄い雲に覆われていた月が雲間からその姿を現し、その光が窓を通って暗闇の中の俺を淡く照らし出す。


「ううん……」


光から目をそらすように身じろぎするが、その途中で『ギチッ』と木製のベットが軋む音を上げ、その音で沈みかけていた意識が現実へと引き上げられる。


「……知らない天井…だな」


鈍い頭を持ち上げ、改めて周りを見渡せば見知らぬ…いや、知ってだけはいた部屋。


「はぁ、流石に夢落ちなんて事にはしてくれないか」


幾らかの本を乗せた机、クローゼットに本棚、窓際には観葉植物が少々。俺が見下ろしていた世界は、一人称視点ならこんな感じになっていたのだろう。


「簡素で普通の部屋だが、本の配置とか外の景色とか完全に主人公オレの部屋だ」


長時間寝すぎたせいか、それともスライムにやられたダメージが残ったのか、ぼやけた頭を軽く振ってしっかりと目覚め、ベットから起き上がる。窓を開け、そこから見えるのは港くらいしか取り柄のない割には栄えている村の姿と海。煌々と輝く満月は今頂点を過ぎ、これからその高度を下げるところであった。


「こっちに連れてこられて半日、我ながら大きくスタートダッシュに失敗したもんだ」


これが本当にあのゲームならば、この遅れはなかなかに致命的な遅れになるかも知れない。特にこの後の流れを考え、それに少しでも抗うためには。


「まぁ、ここがどこまでゲームに近いのかは分からないが備えあれば憂いなしって…うん?」


自らのゲーム知識を少しでも裏付けるため、机の上に置いてあった本に手を付けていく。タイトルとしては『輝石の魔女』やら『精霊の輝樹』と作中に出てくる話に関する物語が多い、がしかし、重なる本の一番下にやたらと厳重な金属のカバーがかけられ、更には鍵までかけられている本が出てきた。


「なんだこれ?分厚いし重いし、どんな本ならこんなに厳重に保管されるんだよ」


と、そこで再び訪れる体の不自由。しかし今度はまるでマリオネットのような、操り人形みたいな感覚。内心で「またアイツか」なんて思いながら身を委ねると、操られた手は机の引き出しから金属カバーと同色の濃紺の鍵を取り出し、カバーについた鍵を開けた。カチャッと滑らかに鍵が動き、パラパラとページを開いていくが、そこにあったのはただひたすらに白い紙。そのなにもない紙へ、俺の体は取り出したペンでスラスラと文字を連ねていく。


(なるほど、日記ね……)


膨大なぺーぎ数はこれからの冒険を書き記すため、これはプレイヤーが途中再開した時に目標を再確認するためのあらすじだ。メニュー画面から確認する、主人公がいつの間にか書いている物だが、どうやらそれを現実的に俺にやらせたいらしい。


まぁ黙ってるだけで勝手にやってくれるからいいけどな。しかし、ゲームっぽい世界にいきなり連れてこられたと思ったら、異様にゲームらしいことを俺に強いてくるなこの世界。


そう考えているうちに、あまり長くない日記が書きあがる。プツンと糸が切れたように強制力が無くなり、体の自由が戻ってくる。


「こう頻繁に操られるのはいい気分じゃ無いなぁ」


ゲームと違わぬ内容の日記を読み流し、ぺらぺらとページを流していくが、この日記、本当に何も書かれていないし無駄に分厚い。辞書かよと突っ込みたくなるほど分厚いそれは、最後の最後でようやく白くないページが見つかった。



「お?これは何だ…ってこれはステータス画面じゃないか!」


末端の数ページに渡る文字の羅列、それは『シグレ』の名と共に書かれたステータス画面だった。


「えっと何々、おっレベルが2に上がってるじゃん。ステータスは…どうやって振るんだ?」


レベルが上がっていたためか、少しだけステータスポイントとスキルポイントに振り分けが可能になっている。しかし、文字で書かれているこれを一体どうやって振り分ければいいのかと頭を捻るが、次のページにはそれの答えが親切に載っていた。


「おおっ、何か振り分けのためのページある。ってこれ一回書いたら終わりじゃ無いよな?」


机の上にある筆記用具はインクのツボとペンのみ、シャーペンや鉛筆などとは言わないのでせめて炭が欲しい所である。かと言ってここで振り分けないという手は無い。


「まぁ、やってみるしかねぇか。この世界の運営がポンコツで無い事を祈ろう」


ステータスには以前は無かった妙な表記が加わり、少し不安な所もあるが、合算値が低かったスピードと魔法を上げるように数値を書き込む。すると、文字のインクが紙に溶けていくように消えていき、代わりにステータス表示の数値が増えた。


「少しポイントが少なかったのも気がかりだけど、どうやら上手くいったみたいだな。心なしか体が軽くなった…気がする」



どちらかといえば、物事が上手くいった事での昂揚感の方が強い気もするが、それでも本当に自分に力が付いた感覚があるのだ。



「これなら、俺にも希望がある。この手でラスボスを…想定外の11週目も無事にクリアしてやるぜ!」


元主人公アイツがやってくれる可能性もあるしなっ‼)


なんて情けない心の声も若干漏れるが気にしない。



「さしあたっては負けイベントをどうするかなんだよな…、できればミルカの死ぬイベントもこうなったからには覆したいんだが…」



ぶつぶつと思考を声にして思い悩む、やるべき事、やりたい事、それを考えながら再び幾らか本を取り出して流し読んでいく。それは、満月が空から半分ほど降りてくるまで続いた。

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