転入
一話は短く、不定期で上げていく予定です。それでも良い方はどうぞ。
大剣の振り下ろし―――バックステップの後、連撃。
周囲への中範囲・高ノックバックの衝撃波―――スーパーアーマー着きの剣スキルで対処。
魔法による高追尾弾――― 一度離れ、周りを走り回る事で回避。
体力半分切った時の特殊モーション―――一度下がって回復。
画面の中では、黒く豪奢な鎧に包まれた大男が激しく振るう大剣や魔法をスルスルと避け、時には受けながらも相手以上に激しく剣を振るう勇者然としたキャラがいる。戦闘は最終局面へ移り、敵の最期の執念を見せる攻撃で仲間から飛んでくる回復や補助の魔法が増え、少し魔力の残りが心配…なんてことは無い。
今回で十週目となるこのゲーム『星願の欠片』で俺が遅れをとるなんてことはまずあり得ない。ボスの攻撃パターンも、それを避けるタイミングも、予兆のモーションもすべて記憶しているし、最早体に染み付いている。
魔法に纏われ、当たれば確実にHPを削り取っていく広範囲への一振りを相手に飛び込むようにして避け、その大きな隙へ最大火力のスキルを叩き込む。通常攻撃を遥かに上回る高速の連撃は、大量にあったボスの残りHPをピッタリに削り取る。
『わ、私が…。この王たる私が負けるというのか!』
画面はムービーに切り替わり、ラスボスはその身をくの字に曲げ、巨大な剣を杖のように地面に突き立てて身を支えながら叫ぶ。
「王も何も、俺いてこれがゲームである限り、コイツには完全な勝利なんて訪れる筈がないんだよなぁ」
そんな当たり前で当然のことを呟く俺の視線は既にゲーム画面にはない、エンディング等は既に見飽きてしまった。今気にしているのは手元のストップウォッチ、つまりは俺がこれをクリアするまでの累計時間だ。
今回はRTAというものに挑戦してみたのだ。攻略サイトでバグ利用をした裏技を習得し、事前にルートも考えて行うほどには真剣にやってみた。…それを計測するのが手元のストップウォッチというのが最後の最後で面倒になってしまったのを表しているけれどな。
「でもまぁ、俺じゃこんなもんだよな」
手元に表示された時間はネットで見た凄い人たちには及びもつかない時間。やる前から分かっていたことではあるが、実際こうして数字として見せられると若干へこむ。結局、ボタン1つで無かったことにした時には、エンディングは終わり、一度画面はブラックアウトしてエピローグに移るところだった。
「うーん、何か今回のでやりつくした感じがあるし、そろそろ止め時かね。かなり好きだったけど…もういいかな」
その後も、いつもと同じエピローグが始まる。…はずだった。
「ん、あれ?こんなシーンあったか?っていうかここどこだよ」
真っ暗な空間のなかで鈍く光る幾何学模様と、それに手をついて魔力を送り込んでいる主人公の姿がある。
「攻略サイトにも記述は無し、十週したら何かある…とかでも無さそうだな。別にそれぐらいやってる俺みたいな奴もいるっぽいし」
未だ大きな動きがない画面をチラ見しながら、目はスマホに映し出された攻略情報をさらっていく。
「ん?」
スマホを見ていた目がぼやっと霞む。
「流石に疲れたか?」
首の後ろを手で揉みほぐして、血流促進に努めるが、目の霞はどんどん酷くなるばかり。
「あ、これは流石に…やばいやつか……も………」
ぼんやりとした視界の中、画面が一際大きく輝いたのを最後に―――俺は闇に落ちた。