第8話 街ってどんなところ?
さて、サンドイッチで盗賊と少女に挟まれて寝た次の日、俺たち三人は森の中を進んでいた。
ここを抜けると目的の街まで大分近くなるらしい。ようやく一区切りといったところだろうか。思えば遠くに来たもんだ。
「エダは街に行ったことあるの?」
アンリがエダに尋ねた。
「もちろんさ、これから行くポートスの街はそれなりに発展してるよ」
受けて答えるエダ。
「ねえねえ、綺麗なドレスや髪飾りも売ってるかな?」
エダの言葉を聞き、俄然食いついてくるアンリ。
「ああ、あるんじゃないの。ただ銀貨十枚は下らないから、今のあんたらの手持ちじゃ買うのは無理だね」
可哀そうに、エダによってせっかくのウキウキした気分に水を差されてしまうアンリ。
顔面にズガーンと縦線が入り、ショックで落ち込んでいるようだ。
こいつ、俺が気を使って言わなかったことを平然と言いやがって……。
だが、正直なところ、買えないこともない。アンリの父親からもらった旅費の銀貨には手をつけていないし、クマ退治で貰った金貨一枚もある。
可哀そうなので買ってあげるか、と俺が考えあぐねていると、
「やめときな、何でもかんでも欲しがるものを買い与えるものじゃないよ。ロクな大人にならねぇ」
と、エダが釘をさしてきた。
何なんだ、こいつ。読心術でも身につけているのか。あと、元盗賊団の親玉にロクな大人とか言われたくないぞ。
「それと金貨一枚と銀貨五枚しか手持ちがないのに、そんなことにつぎ込んでどうするんだよ」
あきれ顔で追い打ちをかけてくるエダ。
……ん? なんでこいつは俺たちの全財産を正確に把握しているんだ?
ふとエダの方を見ると、革の小袋を、放り投げてはキャッチ、放り投げてはキャッチを繰り返している。まるでお手玉の様だ。
そのたびにチャリチャリ音がしている。
……激しいデジャブに襲われる。
否、デジャブでは無い。
「それどう見ても俺のじゃねえか、返せ!」
財布をスられたと気づいた瞬間、俺はエダに掴みかかった。
ヒョイといともたやすくそれをかわすエダ。
「昼間から襲ってくるなんて風情がないねぇ。そういうイイことは夜にやるもんだよ」
エダはケラケラと笑いながら俺をからかってくる。
「イイことってなあに?」
アンリの頭は疑問でいっぱいだ。
「イイことってのはねぇ……」
「だぁ、黙れ。変なこと教えようとすんな!」
俺は必至で妨害した。
「あんたは脇が甘すぎるのさ、そんなんじゃいつか痛い目にあうよ。あとアンリがよその男にキズものにされる前にさっさと喰っちまいな」
なんつうことを口走るのかこのアマは。
「いいかげんにしろ!」
「ねぇ、イイことって何。キズものって?」
このあとアンリをごまかすのにかなり苦労した。
次回「佐藤キリヤ、覚醒」