第7話 ハーレムは何人からですか?
旅を始めて、三日目、俺は何故かナイフの模擬戦を行っていた。
「セイヤッ」
全力の突きをエダめがけて繰り出す。
「ハッ」
しかしあべこべにその手をナイフで切りつけられてしまう。
もっとも正確には木の棒に布を巻き付けた模擬ナイフなのだが。
思わず手から模擬ナイフがこぼれおちる。
やられるっ。
俺は慌てて距離を取ろうとした。
しかしそれよりも速く、エダの切り裂きが俺の首筋を捉えていた。
もしこれが実践で本物のナイフであれば、俺の頸動脈は切断され、シャワーのように血が噴き出ていただろう。
「ホントにお前は駆け引きが下手だね」
あきれ気味にエダが告げた。
「攻撃の間が読まれやすいのさ、そんなんじゃすぐやられるよ」
既に俺の体はあちこち切りつけられており、中には痣の様になっているものもある。
それに対してエダの肌にはかすり傷一つ見当たらなかった。
観念して俺はその場に大の字で寝転ぶ。
「確かにお前の攻撃は強くて重い。だけどそれに頼りすぎなんだ。戦いはズルく勝つもんなんだよ」
俺を見下ろしながら指導してくる。
「ふん」
強がってみたが俺は内心動揺していた。
この世界に飛ばされてから、何度かピンチを切り抜けてきた。
しかし俺ははいつの間にか過信するようになっていたのではないだろか、「大丈夫、次もチート能力でなんとかなるだろう」と。
「だが全くみこみがないわけじゃあない」
エダの言葉に俺は引き戻された。
「どういうことだ」
俺は説明を求めた。
「お前は基本の型の習得に関してはピカイチさ。今まで教えた誰よりも早く、攻撃と防御、どちらの型も、ものにしつつある」
「そいつはどうも」
俺はむくりと体を起こした。
「多分、もっと大きな得物がむいているんだろうね。街に着いたらじきじきに見つくろってやろう」
……おいおい。さらっとナイフでは勝てない宣言をされたぞ。しかもどこまで俺たちと一緒にいる気なんだ。
「キリヤー、エダ―、ご飯出来たよ」
アンリが俺たちを呼ぶ。
俺とエダは訓練を切り上げ、食事の用意をするアンリの元へ向かった。
「おっ、キノコと芋、干し肉のスープかい。果物もあるじゃないか」
「運よく見つかったの!」
アンリとエダが談笑する。
おいおい、いつの間に二人仲好くなったんだ。
夕食後、あたりはすっかり暗くなったので、今日はこの場所で野営することにした。
荷物から大きいがゴワゴワの毛布を引っ張りだす。
いざ包まろうという時に、エダが気配を遮断して音もなく滑りこんでくる。
「どういうつもりだ」
俺は不機嫌に尋ねた。
「あんたにくっついて寝ればお互い手間が省けるだろう?」
バレていたのか。
実は昨日の夜、俺は一睡もせずにエダを見張っていたのだ。
逃げ出せる隙が無いのか、もしくは油断をついて無力化は可能か、と。
残念ながらどちらも答えはノーであり、ここへ来て睡魔も限界だった。
苦々しく思っていると、エダは俺の右腕に抱きついてきた。
なるほど、こうすれば俺の動きを封じれるし、不審な素振りを即座に感じられる。それは俺にとっても同様である。
あと大きい。
「じゃあ、私も!」
反対側にアンリが潜り込み、俺の左腕に抱きついてきた。一度甘えるのを許したばかりに面倒なことになった。
あと柔らかい。
先ほどまで寝落ち寸前だったのにギンギンに冴えてしまった。
二人の寝息を感じながら、かなり経った後、俺はようやく眠りに就いた。