第6話 旅は道連れ世は情け
「お前はあたしを知らないかもしれないけど、あたしはお前をずっと見ていた」
ナイフを構えた謎の女がニヤリと笑ってきた。
「俺は無駄な争いが大嫌いなんだが」
戦わずに済むかどうかダメ元で探りを入れてみる。
「大した自信じゃないか、田舎のクマを一頭倒したぐらいで」
油断なくナイフを構えたまま、謎の女が再び口を開いた。
こいつ、俺たちのことをホントに知ってやがる。一体いつから監視されていたのだろう。アンリの村を出発したときからか、それとももっと以前からなのか。
「思いつかないのなら、教えてあげる。私の名はエダ。盗賊団『黄昏のフクロウ』の元頭目さ」
俺の動揺を察したのか、エダと名乗った女はさらに畳みかける。
「およそ半年前、あんたらの村を襲った連中の元リーダーさ」
エダと名乗った女の話を聞いた瞬間、俺の記憶がフラッシュバックした。
降りしきる雨。襲い来る荒くれ者。首筋に突き立てたナイフ。痙攣し動かなくなる肉塊。
「あいつらの中に女はいなかったし、取り逃した奴は一人もいなかった」
俺は記憶を手繰り寄せながら反論した。
「だから、元、と言ったのさ。あの村の襲撃直前、私は、はやり病で寝込んでいた。そんなあたしを見限り、あいつらは自分たちだけで村を略奪に行ったのさ」
なるほど、俺の違和感が氷解した。あのとき、奴らはいまいち統率がとれていないかった。頭目不在のため連携が機能してなかったというわけだ。
「それで、頭目自ら仲間の仇打ちにきたのか」
俺はエダに確認した。
「そんなバカな、私の言うことを聞かずに無駄死にした連中なんて知らないさ」
可笑しそうに答えるエダ。
「じゃあ何故」
「お前に興味が湧いたんだよ。その力、私が推し量ってやる! 」
エダはそう言うや否や、恐ろしく鋭い突きを繰り出してきた。
くそったれが。
俺はその刃先をかろうじてかわす。
けれども、間髪入れずに第二撃が襲いかかってくる。
俺は力任せに腕を振るった。
「ガキィィィン」
かろうじてしのぐことには成功した。だが俺はそこで息をつくわけにはいかなかった。強引に相手の攻撃をはじいた為かなりの大ぶりになった、そのすきをエダが見逃すはずがないのだ。
俺の反撃を受け流すと、刺突の連続で攻め立ててくる。
俺にはそれをナイフで防ぎながら、後退するのがやっとだった。
パワーではこちらが圧倒的に勝っているが、一撃を入れる隙が見当たらない。
だが、その防戦にも転機が訪れた。
不安定な岩場でお互い戦っていたのだが、エダが足元をわずかに滑らしたのだ。
ここしかない!
俺は思いきりよく踏み出すと、その勢いをナイフに載せた。
「チェストオォ!!! 」
おそらく今まで俺が繰り出した刺突の中でもっとも速くもっとも重い一撃だった。
にも関わらずその攻撃は虚しく空を切ることとなる。
「!……」
エダは足を滑らしたのを踏ん張らずに、逆にすり足のように俺の懐へと入ってきていた。
終わった。この全力を乗せた勢いをいまさら殺すことは出来ない。俺には一瞬先の未来、喉元に深く突き刺さるエダの短刀が見えた。
「……どういうつもりだ」
短刀は俺の喉元寸前で止まっていた。わずかに触れた刃先から俺の血が滴となって落ちる。
「あたしの見込み違いだっただけ」
ナイフを突き付けたままエダがしゃべる。
「あいつらがやられたからどんな達人かと思ったら、力任せの、型も読み合いも出来ない素人とは、正直拍子抜け」
そういうと俺の喉元からナイフを離した。
「私が鍛えてあげる、食べごろにしてから殺してあげるわ」
意味不明なことを言い出した。しかもナイフに着いた血を舐めとってやがる。
「もし嫌だといったら?」
無駄とは知りながら聞いてみる。
「今すぐあそこの小娘を殺して、お前も殺すかしら」
ペチペチと自分の頬にナイフを当てながらエダは笑う。
突然話を振られたアンリは金縛りが解けたように俺の元へ駆け寄ってくる。
「しばらく一緒にいさせてもらうわ。お二人さん、名前を教えて」
こうして俺達の旅に、巨乳ボンテージ盗賊、エダが加わることになった。