第48話(3-8) 魔法封じの首輪
「さて、キリヤとやら私と旅に出る心の準備は出来たか」
エルシレーヌが悪戯っぽく笑いかけてくる。
「今すぐとかそんな無茶な」
思わず吐いてしまった弱音に退出しようとした摂政のプロイツェンが応えた。
「なるべく早く、かつ必要最低の人員で出立を願いますぞ。敵国にこちらの意図を見抜かれては困りますからな」
「そんな、エルシレーヌ様は仮にも人質なのだろう、俺一人では色々と大変だ」
言外に逃亡の恐れを示して考えなおすように促す。
「それに関してはこちらをお渡しいたします」
プロイツェンは引き返してなにやら小さな鍵らしきものを俺に握らせてきた。
「これは一体」
「エルシレーヌ様に施された魔法封じの首輪の鍵です。これを奪われぬよう気を付ければ大人しくこちらのことを聞いていただけるでしょう」
こそりと耳打ちするとさっさと出て行ってしまった。
(どうしよう)
部屋に取り残されたエルシレーヌと俺の間に気まずい空気が流れる。
とまどっている俺など眼中にないかのようにすまし顔でお茶をおかわりしている。
またも優雅な仕草でティータイムを楽しんでいるように見える。
(ええい、ままよ)
俺はテーブルを回り込み彼女の背後に立った。
流石にエルシレーヌが不思議そうに視線を向けてきたがお構いなしに俺は告げた。
「そのうっとうしい首輪を外します、動かないで」
彼女の長い銀髪を掻き分けると、白い首筋には不似合いな首輪が黒光りを放っていた。
さらによく観察すると小さな鍵穴が見受けられる。
プロイツェンから預かった鍵を差し込んでみるとカチリと音をたてて外れた。
やはり驚いたようだ。エルシレーヌは首輪のついていた場所をさすりながら尋ねてきた。
「よいのですか、枷を外してしまえば逃げ出すことなど造作も無いですよ」
「旅に出るなら一蓮托生だ。対等な立場で初めて背中を預けられる。それに弱みを握って言う事を聞かせるなんてのは性に合わない」
「あきれた馬鹿正直さですね。でもまぁよろしいでしょう。これは借りにしておきましょう」
悪戯っぽく笑う彼女はまるで少女のようだった。




