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異世界転生アンチーレム  作者: MUR
第1部 旅立ち編
5/53

第5話 過去からの刺客、女盗賊エダ登場

 巨大グマを図らずも駆除した俺とアンリは隣村の村長の家で歓待を受けた。


 なんでもあいつは「隻眼の穴持たず」と呼ばれて恐れられていたらしい。

 その巨体故、冬眠用の穴倉を見つけることが出来ず、前の冬の間、村を襲いに来たそうだ。数人の村人が犠牲となり、一度は撃退したのだが、人の肉の味を覚えてしまい、村の外で一人でいる村人を狙って襲ってくるようになった、とのことだ。


 村人に出来ることと言えば、家の戸を固く閉ざすことぐらいで、ほとほと困り果てていたらしい。そこを俺たちが通りがかり、あっさり(実際にはきわどかったのだが)打倒したのだから、そりゃ喜ぶだろう。


 加えて俺は熊胆(ゆうたん)、クマの胆のう以外を格安で全て譲り渡した。

具体的には金貨一枚。通常これほどの大物なら金貨5~6枚は下らない。だが不自然な大金を持てばトラブルに巻き込まれる可能性が上がるし、何より痛手を負った村から多くを受け取るのは憚られた。


 その夜、村長宅では宴会が設けられた。村にとっての脅威が取り除かれたうえに、臨時収入がもたらされたのだ。騒ぎたくなるのも無理は無い。


 やがて宴もたけなわになると、俺とアンリは用意された客室へと引っ込んだ。あいにくベッドは一つしかなかったので、俺は床で毛布にくるまることにした。


 明かりを消して一時間ほど経っただろうか、布団がすれる音と誰かが立ち上がったはずみで床がきしむ音が聞こえた。


 俺の枕元に誰かの気配がした。


「アンリか、どうした」


 薄目を開けて尋ねてみる。


「怖くて眠れないの」


 真っ暗な中でアンリが返事をした。

 どうやら昼間の出来事が堪えているようだ。


 結婚適齢期の女子と同衾するのはいかがなものか。

 だがそのおびえた声を聞くと、正論を言う気は霧散してしまった。

 黙って、毛布に入り込むスペースを空けてやる。


「ありがと」


 礼を言いながら嬉しそうにもぐりこんでくるアンリ。

 当然二人で密着する形になる。


「今日のキリヤも格好良かった」


 俺の右腕に抱きついてくる。まだ成長途中の柔らかな感触がする。


「ごめんな、旅に連れてくるの、もう少し考えればよかった」


 怖い思いをさせてしまったことを詫びようとした。


「ううん、街に行けるのとっても楽しみ、それにキリヤと一緒なら後悔しない」


「そうか」


 俺は相槌をうった。


「明日も早い、今日はもう寝るんだ」


 そういうと俺はアンリの頭をゆっくりなでながら寝かしつけた。


 すぐにアンリは寝息をたてはじめた。



 その寝顔を眺めながら俺は考える。俺とアンリの二人が抜けたアンリの実家は、今年の冬を余裕を持って迎えられるだろう。加えて春から秋にかけて俺は普通の3倍は働いた。

 その甲斐あって今年の収穫は前年比2倍弱ほどだったらしい。余剰分を投資して、来年リターンの高い作物を育てれば次第に生活も楽になるだろう。

 だから、俺はアンリの父親を非難する気にはならなかった。

 

 一方で、この先アンリとの関係をどう続けるか決めあぐねていた。俺の目標はあくまで元の世界への帰還だ。そうであれば、アンリとはいつか別れなければならない。


「この世界で生きていく……か……」


 今判明しているスキルだけでも十分に戦えている。この調子で新しい能力に覚醒していけば、そう遠くない未来この世界で無敵になる姿も想像できた。


「それも一興か……」


 俺はそこで思考を打ち切り、明日に備えて眠りにつくことにした。



 翌日、俺とアンリは村を離れ、目的の街へと歩みを進めた。だが夕刻、ある岩場に差しかかったところで事件は起こった。

 ごつごつした岩場の途中、右手にあるひと際大きな岩塊を左からまわりこんだときだった。パラパラとほんのわずかの砂が上方から目の前に降ってきた。

 俺ははじかれたようにその岩塊を見上げた。そこには太陽を背にした黒い影が俺たちめがけていままさに躍りかかろうとしていた。

 とっさに俺はアンリを左手側に突き飛ばし、自身は後方へと飛びすさった。

 

「ハッ」


 何者かの掛け声とともに先ほどまで俺のいた空間を斬撃が通過する。

 あやうく脳天をかち割られるところだった。

 そこには刃渡り15センチほどのナイフを構えるガタイのいい女が着地した。

 皮製のスポーツブラとホットパンツを組み合わせたようないでたち。

 へそ出しのファッションだった。抑えつけられているがその胸部は豊満であり、それ以外は体のどの筋肉もしなやかに鍛え上げられていた。


「いきなり何のつもりだ、知らない奴に命を狙われる覚えはないぞ」


 謎の女に問いながら、腰のホルダーからナイフを引き抜き身構える。


「ずいぶんだね、あたしはお前を半年近く待っていたのに」





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