第47話(3-7) 魔法生体移植(インプラント)
「魔法生体移植ですと」
摂政プロイツェンの語気が強まった。
それもそうだろう、先日俺とアンジェラがエイトマウンテンズを踏破した際、魔法生体移植の問題が露見したばかりである。
人為的な改造による魔法術式の付与、それが魔法生体移植なのだが、帝国はそれらを禁術として認めていない。つまり、帝国領内でこれらが見つかるということは無断で何者かが研究を行っているか、敵国が技術介入している恐れがある、ということだ。
プロイツェンが聞きとがめるのも無理からぬことである。
「そうあせらずに、まず通常の魔法術式からお話しましょう。こちらはあなたがたもご存知の通り、修練と年月をかけてひたすら魔法を強化していく方法です。最初はささやかな灯火を発生させるところから、研鑽を重ねる、あるいは一族代々に受け継ぐ間に地獄の業火を呼び起こせる程になるといった具合です」
つまり、大規模魔法を発動させるにはそれに見合った魔法術式をかなりの年月をかけて開発する必要があるということらしい。
「ちょっと待ってくれ。俺が大規模魔法を発動させたのはどういう理屈になるんだ」
俺がこちらの世界に飛ばされてから魔法術式の開発などしていないはずだ。
「その際、本当にお一人で発動させたのですか」
「いや、確かにあの時はアンジェラに支えてもらって、つまりアンジェラが魔法術式を持っていたということか」
「ご明察。そしてあなたが持つ魔力タンクを魔力源として彼女が魔法術式を担当したのでしょう」
「……今気付いたんだが、魔法術式をアンジェラが持っているなら、魔力タンクさえ見つければ、彼女が単体でも大規模魔法を行使できるということにならないか」
「それは無理ですな」
意外にもプロイツェンが口を挟んできた。
「過去に大規模魔法を試みたことは記録にもございますが、発動の負荷に耐え切れず術者は例外なく絶命しております」
「……」
思わず絶句する。そんな危ない橋を渡っていたのか。
「つまり魔法術式をアンジェラ、魔力と発動の負荷を俺が分担して初めて成功したわけか」
「大正解。それでは最後に魔法生体移植についてお教えしましょう」
エルシレーヌの語りが終わりに近づいてきた。
「魔法生体移植とは先ほどの魔法術式が記録されたアイテム、ここでは便宜上魔石と呼びます、を用いることです。魔石を体内に埋め込むことで術者の魔力を直接送り込み、魔法を発動させることが出来ます。また習得に年月を費やす必要がない為、魔法の行使には非常に有効な手段と言えます」
「それならなぜ禁止されているんだ」
「それについては私から説明しましょう」
再びプロイツェンが割り込んでくる。
「移植の危険性が高すぎるからです。まず移植の成功率が5割、その後の拒絶反応でそのさらに5割しか生存できないとされています」
「つまり4分の1しか成功しないと」
「左様です。その成功率の低さから禁術として取り決められました」
エルシレーヌがプロイツェンの発言を受けて続ける。
「ただ、武器や装備品に魔石を埋め込むことで擬似的に再現が可能となっています。もちろん体内に埋め込む場合に比べて遥かに効率は落ちてしまいますが」
「とりあえず危急の案件として、なんとか魔力タンクを見つけなければいけませんな。しかしながら手がかりがございませんな」
プロイツェンがエルシレーヌに視線を向けながら回りくどく告げる。
「ふん、ずいぶんともったいぶった言い方をする。はなから私に魔力タンク探しの協力をさせるつもりだったのでしょう」
エルシレーヌは生理的嫌悪感を隠さずに非難する。
「話が早くて助かります。それではキリヤ殿とともに魔力タンクの探索に出ていただきましょう」
ニヤリと笑ってプロイツェンは席を立ったのだった。