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異世界転生アンチーレム  作者: MUR
第1部 旅立ち編
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第4話 狩りは後始末も大変な件

 旅立ち当日、天気は快晴、体調もすこぶる良好。

 いい日旅立ちだった。


「ねぇねぇ街にはどれぐらい人がいるのかな」


 隣を歩くアンリが聞いてくる。


「小さい街なら、一万人ぐらいだろうな」


「はぇー、すっごいねぇ」


 アンリの村の人口は百人弱、おそらくイメージ出来てないだろう。

 

「綺麗な服とか髪飾りとかもあるかな? 」


 目をキラキラさせるアンリ。


「まぁ、あるだろう」


 残念ながら、この世界の文明レベルでは、共通規格や大量生産が達成されている確率は低い。つまり、服飾関係は全て一点ものでべらぼうな値段がするはずだ。実際に街で確認しなければ、絶対とは言えないが。

 だが、それをいちいち伝えるのは止めておいた。

 いまだ夢見る少女に冷めた現実をつきつけるのは忍びない。

 もちろん、いつか現実を知る必要はあるし、その役回りは高確率で俺に回ってきそうなのだが。


「そろそろ隣村であってるのか」


 アンリに確認してみる。


「そうだよー、あそこの河見える?その近く」


 今、俺とアンリは小高い丘の頂上付近まで登ってきていた。

 そこから眺めると3キロほど先に確かに河が流れているのが見て取れた。川幅は50メートルと言ったところか。


「あそこまで行ったら休憩しようか」


「やったー!」


 俺が提案するとアンリは小走りで丘を下って行った。


「ペース配分考えんかい……」


 俺はタメ息をついた。


 朝、日の出とともに出発し、現在昼過ぎ。

 荷物が多いので、ここまで時速5キロくらいの速度で歩いてきた。

 途中小休止を何度か取り、大体六時間ほど歩いている。

 およそ30キロほど進んだ計算になるか。


(いいペースだ)


 俺はアンリの父親から聞いた地理の話を思い出しながら、旅の進捗を確認した。

 色々話を総合すると、一番近くの街、この付近一帯を統治している領主がいる、はアンリの村から約300キロ離れているらしい。

 そして、現在十日分の食料と銀貨5枚が俺とアンリの手持ち全てである。

 銀貨一枚で俺とアンリ、二人の一日分の食料は余裕で賄える。

 このまま上手くいけば、十日前後で街に到着し、銀貨も温存できる計算だ。

 当然天候が荒れたり、初めての長旅で不調になる可能性もあるので、まだまだ楽観視はできないのだが。

 

(その時はその時か)

 

 あまりアンリと離れすぎるのは良くない。

 俺も早足で丘を下ることにした。


 河原に着くと、アンリがかまどを組んでいた。

 かまどと言っても手ごろな石を組んだだけの簡単なものだったが。

 俺の到着を見越して準備していたようだ。


「まきを拾って来るから待っといてくれ」


 荷物を置いてそう告げるとアンリがさえぎってきた。


「私が準備するから休んでよー! 」


 どうやら世話を焼きたいらしい。


「わかった、頼んだ。火種作っとく」


 勢いよくうなずき、ダッシュでまきを拾いに行くアンリ。

 河原に転がっている枝の中から、よく乾いたやつを選りすぐっている。


 アンリが集めてきたそれらに慎重に種火をうつす。

 しばらくして、パチパチと燃えだし、炎が安定した。

 アンリは不格好な鉄鍋を取り出し、河の水を汲んでくる。

 そこにうすく切った干し肉と適当に切った芋を投入し、塩で味付けをする。

 いつ見ても素朴、悪く言えば味気ない料理だ。


「もう少しで出来るから、待っててねー」


 アンリが楽しげに鍋をかきまぜる。

 でもまあ、女の子に食事を作ってもらうこと自体は悪い気がしない。

 アンリはお嫁さんとしての適性は高いようだ。


 出来あがったスープを二つのおわんに入れ準備は整ったようだ。


「「いただきます」」


 この地域では別の食事の祈りがあるのだが、俺がついくせでやってしまうのをアンリが真似するようになってしまった。


 濃いめにつけた塩味はよく俺の好みを分かってくれていた。素直にうまい。


「残りも食べてねー」


 アンリは俺の器におかわりを盛り付ける。


 正直なところそんなにたくさんいらないのだが、無碍には出来ないので受け取る。


「ありがとさん」


 実は俺の肉体は極めてエネルギー効率の良いものに作り替えられていた。平均的な成人男性の半分の食事でもやっていける。

 おそらくこれもチート能力の一つなのだろう。

 地味で派手さはないが超有用なスキルであることは間違いない。

 

 さて二人で食事を終えた時、俺は異変に気づいた。


 風にケモノのにおいがかすかに混じっていたのだ。

 慎重に風上を探ると500メートルほど上流にクマが現れていた。

 ここからでもはっきり見えるそれはかなりの巨体の様だ。


「アンリ」


 緊張をはらんだ俺の声を聞き、アンリは片づけの手を止めた。

 そして俺の視線をたどり、200メートルほどまで接近してきた巨大グマを見て青ざめた。


「俺の後ろに下がるんや、ただし離れすぎんように」


 俺は荷物の中から刃渡り20センチほどのナイフを取り出した。

 切れ味が心もとないが、この際ぜいたくを言ってられない。


「グルゥァ!!!」


 3メートル近い巨大グマが咆哮を上げた。

 同時に砂利を巻き上げてこちらに突進してくる。

 俺の眼前まで一気に距離を詰めると、立ち上がって牙をむき威嚇してきた。まるで小山が動いているような感覚だった。

 と、考える間もなくその巨腕が俺めがけて振り下ろされる。

 圧倒的な死を予感させる強烈な一撃。

 こんなものを喰らえば、俺の頭は地面に投げつけた水風船のようになるだろう。


 「ガギィィィン」


 果たしてそうはならなかった。

 ナイフで爪を受け止め、クロスさせた腕と体全体で巨腕を押しとどめる。

 刹那、相手に動揺が走った。

 非力な人間に抵抗されるとは思わなかったのだろう。


(ここしかない)


 その一瞬を突き、ナイフを使って爪を俺の後方へと捌いた。


 最大筋力を解放した俺の動きに引きずられ、相手は俺を押しつぶす形で倒れこんでくる。


「チェストオォォォォ!!!」


 その勢いを利用して俺はナイフを突きあげた。

 倒れ込む力と、繰り出す勢い、その双方のスピードを乗せてナイフは心臓を穿った。

 

 「ウグァッ……」


 おそらく苦しむ暇もなかっただろう。

 ナイフを通じて相手の生命が急速に失われていくのを感じた。

 

 なんとか、紙一重で勝つことが出来た。

 相手が俺の良く知る動物でよかった。もし心臓が別の場所だったり、魔法的な加護を受けていれば、転がっているのは俺の方だったろう。


「フンヌッ」


 俺は両腕をつっぱり、巨体をひっくり返した。


「ズドォォン」


 大の字のあおむけで、巨大グマが転がる。


「アンリ、ここから近くの村までどれくらいかかる? 」


 額の汗を拭いながら尋ねる。


「えっとね、走れば鍋のお湯が沸くぐらいの時間で着く」


 10分前後か。なら頼んだほうがいい。


 俺は返り血を被らないようナイフを引き抜く。

 傷口から絶え間なく血があふれる。


 次いでクマの犬歯を強引にえぐりだした。

 アンリにそれを渡しながら伝える。


「それを見せて応援を呼んできてくれ。20人ぐらいいれば楽に運べるはずだから」


 熟練の狩人が見れば獲物の巨大さに気が付いてくれるだろう。


「わかったー! 」


 次第に恐怖が引いてきたのだろう。

 いつもの調子に戻りつつある。


「少しでも危なかったら、すぐ戻ってくるんだ」


 駆けだした背中に一応注意する。


 流石の俺もこいつを村まで運ぶのは無理だ。アンリを残して俺が呼びに行くのは論外、血のにおいを嗅ぎつけたケモノが狙ってくる。

 二人で村に助けを呼びに行くのがもっとも安全だが、血抜きの問題や先述の通り他のケモノが荒らしにくる恐れがある。

 止むをえずとは言え、命を奪った以上大切に扱うのが俺の中でのルールとなりつつあった。

 あらかたの血が流れ出たのを確認すると、傷みやすい内臓を取り除くため、俺は慎重に腹をナイフで切開し始めた。






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