第32話(2-20) エイトマウンテンズ踏破編②
ソルティドギィ、旅館の一室でのこと。
「ここ、ソルティドギィから帝都にはエイトマウンテンズがある。そしてそこにカラ、オグニ、スリーツリーズ、マスザ、デンダイ、デン、ツリーヤ、この順で村落が点在している」
「なるほど」
「私達はこれらの村落に滞在しながら、出来るだけ最短距離で帝都を目指す。既に村々にはデンダイまでの村々には通信魔法によって伝えてある」
「?」
「それなら敵軍の侵攻や俺の事も直接その通信とやらで伝えればよくないか?」
アンジェラは首を横に振った。
「話はそう簡単ではない」
「というと?」
「まず通信には専用の魔法鉱石が使われる。これがきわめて希少なのがひとつ。さらにこれは一つの魔石を分割して送受信者が身につけることで通信が可能になるのだが、その通信距離は石の大きさによって比例するのだ。つまり細かく砕けば複数の人間で通信可能だがその分距離は短くなってしまう」
「なるほど」
その先を促す。
「最後に通信の精度と時間は術者の力量に依存する点だ。敵軍の進路となる可能性の低い辺境の山々に術者を配置すほど、帝国に人的リソースはない。しかも力量の優れた術者ほど、宮廷での政治を任される傾向にある。本当に重要な通信は閑職として軽んじられている」
アンジェラは苦い顔で言った。
「そしてデンダイとデンは距離がある為通信不能だ。この区間はどうしても踏破する必要があると言うことか」
俺はそのあとを引き継いだ。
「その通り、それでは町に装備品を揃えに行こう!」
アンジェラに促され装備品を買いに行くことになった。
まず、スノーシュー(雪靴)、発汗性の高い肌着、断熱性高い上着、寒さに対する耐性が魔力によって付与されたコートなどを買い求めた。
総額はとんでもない額になったが、支払いは全て公費扱いでアンジェラが行った。
さらに兎の毛で出来た耳あてや厚手の靴下多数も購入。
「唐辛子と油紙も頼む」
「アンジェラ、それは何に使うんだ?」
「唐辛子を油紙にまいてスノーシューのつま先に入れると凍傷を防げる」
アンジェラが得意げに解説した後、急に顔を赤らめた。
「今、私の事を田舎者臭いと思っただろう」
「いや、経験豊富な美人が案内人だと心強いと思っただけだ」
「馬鹿者、こんな時に世辞などよい」
ますます赤くなった横顔は満更でもなさそうだ。