第31話(2-19) エイトマウンテンズ踏破編①
「よって私と死の寒獄、エイトマウンテンズを二人で秘密裏に越えてもらう」
「へ!?」
俺が間抜けに驚いていると、アンジェラの側近が補足を始めた。
「エイトマウンテンズとは、その名の通り、現在地のソルティドギィと帝都の間にそびえる8つの山々の総称でございます。通常、帝都に向かうにはこれらの山々を迂回せねばならない為、2~3ヶ月を要します」
「なるほど」
「しかし、この山々を通るルートであれば、大幅な短縮が可能となり、約2週間で到達出来ます」
「うむ、その通りだ」
しかし、側近は言葉を区切り、頷くアンジェラと戸惑う俺を交互にチラチラ見た。
「なにか問題があるんですか?」
「先ほどの話はあくまで夏季の話です。今の季節は冬の始まりです。これから行うとなると、厳寒期にさしかかります」
アンジェラの表情は動かない。
「エイトマウンテンズ周辺は我々が代々守護を任されてきた土地だ。私も父上に連れられて何度も踏破している」
「いくらアンジェラ様がこのルートを習熟されていても、真冬での決行はございません。それはあまりに無謀というもの」
それに重ねてアンジェラ。
「いいか、春先になれば敵軍は必ず再侵攻を開始する。それまでにキリヤの存在を敵軍に秘匿し帝都に報告しなければならない。なおかつ防衛線を再構築するには通常の方法では時間が足りないのだ」
「畏まりました。ですが我々も同時に出立致します。無理だと判断されたら、我々に託して、留まるか引き返すかを約束してくだされ」
「分かった、約束しよう」
どうやら結論が出たようだ。軍議が終了となり仮設テントからバラバラと人が散っていく。俺も退出するとしよう。
「キリヤー!」
ドーン!とテントから出るなりアンリが体当たりをかましてきた。
「お話終わった?」
「ああ、すまないがアンジェラと二人で先に帝都に向かうことになった。帝都には別々の道で向かうことになる」
「ええー!嫌だよー!」
案の定、ふくれるアンリ。
そこに後からアンジェラがテントから出てきた。
「キリヤ殿のお連れ方は私の配下とともに帝都へ向かってもらう。護衛に関しては問題ない」
メイドのヤシマもたしなめる。
「あまり、キリヤ様を困らせないように、アンリ様」
「しばらく別れるならレギにも挨拶させなよ。あたしが作った笛があるだろう」
鍛冶屋のベルに促されて、アンリは首からかけていたホイッスル?を手に取った。続けざまに吹くとあたり一帯にピィーという高音が響き渡る。
バサリッ
馬ほどの影が俺たちの頭上を横切ったと思うと、アンリのすぐ後ろに飛竜が舞い降りた。
レギだ。
ちょっと見ない間にものすごくでかくなっている。いや、ひょっとしたら最後に見てから結構時間が経っているのかもしれない。もうアンリぐらいなら乗せても飛べそうだ。
勢ぞろいした旅のメンバーに俺は告げた。
「先に帝都で待っている。必ずまた会おうぜ」