第10話 ロンリ―ウルフ、再び
今回、冒頭にキリヤ以外の視点が差し込まれます。
「どうやら間違いないようじゃの」
私は、自分の予想が的中したことにほくそ笑んだ。
あたりには争った形跡と血痕が残されていた。
血の乾き具合から察するに2~3時間ほど前の出来ごとのようだ。
「相手は三人、それに対して二人もしくは三人で相対というところか」
「もっとも、積極的に戦ったのはあの一人だけのようじゃが」
詳しく状況を推察してみる。
やはり相当腕を上げているようだ。
思わず笑みがこぼれてしまう。
「さて、どれぐらいで追いつけるじゃろうか」
少々急がなければならないようだ。
私は脇の茂みに自らの身を滑り込ませた。
【視点変更終わり】
俺たち一行は、山賊に襲われていた爺さんをなりゆきで助けた。
襲われて怪我をしていた爺さんには俺が止血を行い、アンリが応急処置を施した。
それにいたく感激した爺さんは俺たちに恩返しを申し出てきた。
爺さんには本格的な治療が必要なこともあり、怪我の経過を確認するついでにその申し出に甘えることにした。
俺たちは爺さんの馬車に乗り、目的の街まで移動することにしたのだ。
さっきからアンリははしゃぎっぱなしである。
「ねぇねぇ、すっごい楽チンだよ。しかも歩くより速ーい」
俺は一応注意する。
「あんまりはしゃぎすぎると落ちて大けがするぞ」
「ほほ、この具合だと今日中に森を抜けられるじゃろて」
爺さんは荷馬車の壁に背中を預けて言葉をつなげてくる。
いま馬の手綱を握っていつのは、エダだ。
流石、元頭目だけあって馬の扱いが上手い。
俺だとこうはいかないだろう。
俺は戦闘の緊張から解放された反動で心地よい疲労感が押し寄せてきた。
荷馬車は舗装されていない道を進んでいるのでお世辞にも快適とは言い難かった。
けれども、このスピードと便利さは何物にも代えがたかった。
街への到着は大幅に繰り上げ出来そうだ。
「少し眠らせてくれ、何かあったら起こしてくれ」
いつまでも飽きずに馬車から外を眺めるアンリに一言告げると、俺は睡魔に身を任せた。
……。
ガタンと音がして突然大きな揺れが俺を襲った。
「どうした?」
浅い眠りから呼び戻された俺は周囲をうかがった。
アンリと爺さんは馬車の前方に身を乗り出している。
手綱を握るエダの背中も心なしか緊張しているようだ。
「何があった?」
俺は三人の肩越しに前を覗き込んだ。
ひどく馬が怯えているようだ。
いつのまにか森を抜けており、夕焼けの逆光が目にしみる。
そいつはそこに夕日を浴びて佇んでいた。
まるで俺たちの行く手をさえぎるように。
そいつは白銀の毛に全身を覆われていた。
夕日を背にたたずむ光景は一種荘厳でさえあった。
鋭い瞳は並はずれた知性を予感させ、巨躯は野生そのものを体現していた。
わずかに見える牙は、研ぎ澄まされた力の象徴そのもの。
ライオンをも超える巨体を持つ、オオカミがそこにはいた。
「待っていたぞ、人間」
そいつは俺に向かって語りかけてきたのだ。