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ポンコツヒロインシリーズ

騎士乙女の恋愛事情

作者: まあ

 手にした木剣を力いっぱい振り下ろしますが攻撃は簡単に弾き返されてしまいます。

 攻撃を弾き返した木剣の切っ先は私ののど元に向けられ、この勝負に決着が付いた事がわかります。


「……参りました」

「お嬢、いつまでこんな事をするんですか?」


 この光景は10年も前から毎日行われているこの家の日常であり、私の木剣を弾き返した『ルデミア』はため息を吐きます。


「もちろん、勝つまでです」

「別にそこまで剣の腕を磨かなくても、一応は侯爵家のご令嬢様なんですから」

「一応ではありませんが侯爵家とは言え、騎士の名門のバルティックス家ですので当然の事です」


 紹介が遅れました私、『キャロット=バルティックス』はこの国の騎士団長を何度も担っている騎士の名門です。

ですから、娘として生まれたとは言え剣の腕は重要なのです。それに1部から反対はされていますが私の目標は騎士になる事です。


「当然の事と言っても第1王子から婚約されてもいるんだから、騎士になる必要なんてないじゃないですか」

「何度も言いますが婚約などしていません」


 ルデミアは私が剣の腕を磨く事に反対している……もとい、すでに練習に付き合うのも嫌になっているようで私に普通の令嬢になるように言ってきます。

 彼の言う通り、国王様は国内の有力貴族との繋がりを強くしたいようでバルティックス家の娘である私に目を付けました。他家から嫁いできたお母様は当然、大賛成をしたのですがバルティックス家は騎士の名門です。このような事をされた時にバルティックス家の忠義を疑うのかとお父様や年の離れたお兄様は不快に思われたようです。

 それでも私の幸せを願えば悪くはないと思い直し、私が了承すればと国王様にお答えしたようです。当然、了承すると考えていた国王様とお母様ですがもちろん私の答えは笑顔で「お断りします」でした。

 場の空気が凍り付いたのは幼くとも理解できましたが当時、幼い娘だったとしてもバルティックス家の娘です。そのような忠義を疑われた婚約に頷けるわけがありません。それに私はバルティックス家の娘。自分より、弱い男の物になる気などはありません。

 ただ、第1王子の『メッツァー=ストラウス』様は自分より身分の低い娘に婚約を断られるなどとはまったく想像していなかったようで何かと付けて突っかかってくるのが鬱陶しいです。当然、返り討ちですけど。


「ですけど、この国の王妃様なら贅沢のし放題……申し訳ありません」

「……私達は贅沢をするためにいるのではありませんよ」

「お嬢、騎士じゃなくて宮廷魔術師になった方が良いと思いますよ」


 くだらない事を言い放ったルデミアに向かって魔法で火球を放ちます。私はバルティックス家の娘、この国の王や民のために剣となり、盾になる運命を持った者です。

 税を取り、贅沢をするのが貴族だと思っている方達と一緒にしないでいただきたい。


「何を言っているのですか? 私はバルティックス家の娘ですよ。騎士になるために生まれてきたのです」

「……だからと言って、どこを目指す気ですか? 女性初の騎士団長にでもなるつもりですか」

「もちろん、目指すべきところですね」

「……お嬢は自分より弱い男性と結婚したくないって言っているんですから、そんな事になったら嫁の貰い手がありませんよ」


 バルティックス家では何度も女性騎士を輩出していますが未だに女性で騎士団長になった者はいません。騎士団長は騎士としての最高峰、私も目指して行きたいと思ってはいます。

 ですが、私の考えにルデミアは大きく肩を落としてしまいます。どうやら、私の将来を不安に思っているようです。


「騎士はいつ、命を落とすかも知れない危険と隣り合わせで生きる者です。別に……」

「無理しない方が良いんじゃないですか? それにお嬢は剣を始めとした武芸だけじゃなく、魔法も得意なんですから、国のために優秀な血は残して行かないと」

「そうは言いましてもね……」

「せっかくの美人に生まれたんですから、どこかで良い男でも見つけてくださいよ。俺だって戦闘狂のお嬢の練習相手をいつまでもしているわけには行かないんですからね」


 確かにルデミアの言い分もわかりますが、現状、男性にはまったく興味がありません……だからと言って、女性にも興味があるわけではありません。

 それにどうも、メッツァー様が婚約を断られたり、勝負を挑んで何度も返り討ちをされたりしている腹いせに私の悪い噂を流しているようで私に新しい婚約の話はありません。


「……本当に小さな男ですね。あんなのが次の王で大丈夫なんでしょうか?」

「お嬢、鈍いって言われた事、ありませんか?」

「突然、どうしたのですか?」


 まあ、私も幼い頃と違い強さが剣だけではない事は重々、承知しているため、素晴らしい方と出会えれば剣を置く事もないとは言えませんが出会いがないのですから仕方ありません。

 メッツァー様を言い訳にしているわけではないと自分に言い聞かせていた時、ルデミアの大きなため息が聞こえました。彼へと視線を向けるとルデミアは呆れ顔であり、なぜ、彼がそのような表情をしているかがわかりません。


「……いえ、俺の口から言うのは少し気が引けるので」

「ルデミア、そこを退け。キャロ、今日こそはその高くなった鼻を叩き折ってやる」


 首を傾げる私を見て、ルデミアが大きく肩を落とした時、まるで自分の屋敷のようにずかずかとメッツァー様がお供の者を連れて歩いてきます。

 その手には使い慣れた木剣が握られており、私の顔を見るなり、その切っ先を私に向けてきます。


「鼻を高くしているのはメッツァー様ではございませんか? 剣も魔法も学業も私に及ばないくせに」

「……お嬢、あおらないでください。後、メッツァー様、頭に血が上りすぎると攻撃が単調に」

「傭兵崩れは黙っていろ!!」


 まるで自分がこの世で1番偉いとでも言いたげなその態度にため息が漏れてしまいます。

 まったく、いつも、いつも騒がしいです。それにルデミアの剣の腕に私が惚れてお師匠様になっていただいたのです。お師匠様である彼を侮辱する事は私やバルティックス家を侮辱していると同意であるのです。


「メッツァー様、今の言葉、取り消してください」

「なぜ、この私が傭兵崩れに頭を下げなければならない?」

「……そうですか。それでしたら、本日もその高くなった鼻をへし折って差し上げましょう」


 ルデミアへの侮辱を取り消してくださいとお願いするのですが、メッツァー様は鼻で笑う始末です。

 その考えを叩き直すためにも自分の未熟さを教えて差し上げようと木剣を構えます。

 木剣を構えるとメッツァー様はすぐに木剣を打ち込んでくるのですがその剣はルデミアに比べれば遅く、簡単に弾き返す事が出来ます。


「お、お嬢、俺は気にしていませんから、落ち着いて……ダメだ。聞きそうにない」

「ルデミア殿も大変ですね」

「いえ、あの素直ではない王子様の相手をするに比べれば俺はまだ楽だと思います」


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