グレゴリーの家
今、空飛ぶ絨毯は大海原を飛んでいた。そして昼食タイムでもあった。ライアン団長がみんなに紙に包まれた何かを配っている。
「よく分からないが美味しそうなので買ってきた。はいジム」
「フィッシュアンドチップスだよ」
とジムが言った。
「そうか。じゃあこのフニャッとしたのは?」
グレゴリーがフライドポテトをつまみ上げてしげしげと眺めている。
「ポテトだよ。じゃがいもだよ」
と言いながらジムは『じゃがいもを知らないのかな?』と思った。ジムは知ってる限りじゃがいものイメージを送ってみた。しかし、うまくいかなかったようだった。
「それは何?どこから取ってるの?」
とアルバートがたずねた。
「そんなことは僕も知らないよ」
ジムは戸惑った表情になった。
グレゴリーはフィッシュアンドチップスを一口食べると、微妙な顔になった。
「美味しくない?」
とジムが恐る恐る尋ねると、グレゴリーはあわてて首を横にふって
「そんなことないよ」
と言った。ジムは辺りを見回すと皆が似たような表情を浮かべていた。唯一アドルフという人物だけはむさぼるように食べていた。ジムはアドルフの狼のような目が怖かったので話しかけなかった。
「おじちゃんの家はね」
グレゴリーはようやく食べ終わるとそう言い出した。
「小高い丘の上に家があるんだ。小さな畑と大きなリンゴの木があってね。きっと気に入るよ。そこで私は母と暮らしているんだ」
「早く行ってみたいな」
とジムがワクワクしながら言った。
「そうだね。夕食までにはつけるかな」
「楽しみだな」
「そうだお前、早く仕事見つけろよ。こんな可愛い息子もいるんだ」
とアルバートが言った。
「おじちゃんはこういうのが仕事じゃないの?」
「この仕事はアルバイトだよ。団長を除くと民間人から作られている。いつもは違うみたいだけど。俺は恥ずかしいが何度も転職を繰り返している」
「こいつはやるときはやるんだけどな。成績もよかった方だし、実践の腕も悪くないのに」
とアルバートが言った。
「長続きしなくてな」
そう言いながらグレゴリーはうつむき加減だ。ジムはあくびをした。彼はだんだんと眠くなっていった。
ジムは気がつくとガタガタと揺れる中にいた。両側に座席があって、ジムから見て左側に扉があった。そこには人がまばらに座っていた。乗り合いバスのようだった。ジムは隣のグレゴリーを見ると寝息を立てていた。ジムはグレゴリーの顔をまじまじと見つめていた。髪は真っ黒で顔の形は少し面長だった。体型は痩せすぎても太ってもいなかった。これが新しい父親なのかとジムは思った。母親はよく新しいパパを連れてきた。しかし、いつもそのパパはジムに好意的でなかった。だが、今回は違う。ジムはようやく本当の父親に会った気分だった。
「あぁジム、起きてたのか?」
グレゴリーが起き出した。隣の女性客から何か聞くと
「次の停留所で降りるから」
と言った。
「ここはバスなの?」
とジムが聞いた。
「バス?これは乗り合い馬車だ」
とグレゴリーが言った。
「馬が引いてるの?」
「そうだよ。魔法で後押しをしてるけど」
その時、馬車が停止した。ここがグレゴリーの家の最寄りの停留所のようだった。ジムとグレゴリーは降り立った。外は真っ暗だった。グレゴリーは火の玉を出すと少し明るくなった。
「これで明るくなった。あっちのほうなんだ」
グレゴリーの指す方向には確かに民家があって、グレゴリーは家につくとドアを二回ノックした。扉が開くと彼によく似た60歳手前くらいのの女性が出てきた。その女性は初めジムに驚いたが、説明を聞くと納得したようだった。
「ジム、私はユリアよ。よろしくね」
「食事の量は足りる?何か買ってこようか?」
「今日はお父さんの命日じゃない?だからもう一人前余計に作ったのよ。こんなに可愛い子が来たのもきっとお父さんのおかげね」
玄関から入るとそこはリビングだった。奥にキッチンとダイニングがあった。右側にはドアが一つある。
「さあテーブルについて」
ジムはテーブルに着いたが取り皿を出されたばかりで、他は何にもなかった。どこから出てくるんだろうと思ったが、グレゴリーのお母さんがパチンと指を鳴らすと、食事がテーブルから出てきた。ステーキにパン、チーズ、貝の蒸し焼き、サラダ、リンゴが並んでいた。ジムは唾をのんだ。
「美味しかった」
ジムは久しぶりに満腹になったきがした。
「母さんのは美味しいから」
とグレゴリーが言った。
「ジムの寝巻はどうしようね?」
とユリア。
「俺のを小さくすればいいよ」
ジムはそう言って、魔法で小さくしたのを持ってきた。ベージュのワンピースだった。
「ここの国にはワンピースしかないの?」
とジムが聞く。グレゴリーはしばらく伝えられたイメージから考えて答えた。
「ジムのところでは女しか着ないのか?ここでは男も着るんだ。それに男だとチュニックって言うんだよ。ジムが着てるのよりはゆったりしてると思うけど」
そしてジムは生まれて初めてワンピース、いやチュニックを着た。なんとなくぎこちなかった。
その後、ハーブティーを飲みながらソファでくつろいでいた。
「明日はこのマギカ共和国を案内するよ。きっとびっくりする。保障するよ」
とグレゴリーが言った。