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変わるという事~それは~

作者: トラシア

初投稿です。

 四月下旬、東京のとある住宅地、そこに住む未星一家は一見するとごく普通の一家であった。

そう、少なくとも一見では・・・

 

変わるという事~それは~

 

四月二十四日の朝、未星家の長女望は自室でゆっくりと目を開け「もうこんな時間・・・そろそろ起きないと」と呟き、手早く中学校の制服に着替えて一階へと降りる、そこでは母、遥が朝食の用意をしていた。

 遥かは望に「お早う、望」と声をかけるがそれに対し望は「・・・お早う」とまるで義務感の様な素っ気ない返答をしただけで洗面所に行ってしまう。その後父、未来、長男、歩も合流し、二人とも望とは対照的な明るい声で「お早う、お母さん。」と挨拶し、遥も「お早う」」と返答する。

その直後に朝食が完成し、家族四人は机に座り、朝食を取る。

すると歩は唐突に「お父さん、お母さん、僕ね、新しいクラスでもう友達が出来たんだ」と学校の近況を話し始める。未来が「そうか、それは良かったな。」と返答すると遥も「そうね。突然の天候だから歩も不安だっただろうし、どうなる事かと心配だったけど・・・」と続ける。歩は「急なお仕事だったんでしょ。だったら仕方ないよ。それに・・・あんな事があったら・・・」と言うがその直後望が「御馳走様」と言い、等々に椅子から立ち上がる。遥が「望、貴方は学校はどう?」と聞くと望は「まあ、それなりにやってる。」と足も止めずに素っ気なく返し、自分の部屋に向かって歩いていく。歩が「御免なさい、僕がうっかり・・・」と言うと未来は「仕方無いさ。父さんも未だに心のどこかであの事を受け入れられていないんだから」とフォローし、遥は「あの事は今話しても始まらないわ。それよりも今問題なのは望の今よ。あの様子じゃ、多分・・・」と現状に目を向けるよう促す。未来が「ああ、きっと・・・」と言うと歩がふと壁時計に目をやり「あっ!!お父さんお母さん、時間時間!!」と言う。その言葉に反応して未来と遥も壁時計に目をやり「ああっ、もうこんな時間、そろそろ行かないと!!」と言う。その直後、鞄を持った望が降りてきて「行ってきます」と言い、「い、行ってらっしゃい!!」と世話しなく準備する他の家族を横目に玄関から出て学校に向かう。


中学校の教室に着いた望は自分の席に座り、鞄を置く。するとクラスメイトの天野命が望に「望、おはよう」と挨拶してくる。望も「おはよう」と明快に挨拶すると命は「ねえ望、GWは何か予定あるの?」と聞き、望は「いえ、まだ引っ越してきて間もないし、周辺の地理とか覚えなきゃいけないから予定どころじゃないわ。」と言う。命は「そっか~望は引っ越して来たばかりだもんね。この学校って名門学校の付属中学だから小学からエスカレーター式に進学してくる生徒が多くて顔馴染みばっかりがそろってるからさ~外部からの望となら新しい場所に出かけられると思ったんだけど、引っ越して来たばかりじゃそれどころじゃないか。」と一寸残念そうに言い、望は「そうなんだ・・・」と困り顔を含めた笑顔で返答する。

その様子を見て居たクラスメイトの女子が「未星さんって優等生よね~」と言うと別の女子が「うん。誰もが羨む美少女なのにそれを鼻にかける事無く平等に接してるし、それでいて勉強も運動も出来る!!寝ん最初のテストの学年トップは未星さんかも知れないわね。あの末月佳子を抜いて」と続け、別の男子も「そうだな。末月も優等生だけど未星はその上に行くかもしれないな。それに末月って~」と言いかけるが最初のクラスメイトが「やめなよ。本人に聞かれたら睨まれるよ」と言う。二番目のクラスメイト女子が「そうだね。でも、未星さんって・・・」と言うと男子は「・・・ああ、お前も思っているのか?未星と・・・」と続け、最初のクラスメイトは「実は私も・・・どうしてなんだろう、誰からも好かれそうなタイプなのに、どこか距離がある様な、そんな感じ・・・やっぱり外から来た子だから緊張しているのかな?」と言い、会話していたクラスメイトの表情が少し曇る。その様子を見て居た望は「この長子・・・面倒だな。上手くやっていくには必要な事なんだろうが。」と内心で思いつつも表情に出さない様にしていた。そこに担任教諭の太陽明が入って来て「今よりHRを始める。起立、礼、着席。」と言い、HRを始める。

その途中明は「もう直ぐGWだが、それと前後して家庭訪問があるからな」と言い、望が「中学校でも家庭訪問ってあるんですか?」と聞くと明は「ああ、この学校では実施している。」と返答し、それを聞いた望は「そうなんですか」と返すもその内心では「何か厄介な事にならないといいがな」とどこか暗い言葉を返していた。

その日の昼休み、昼食の弁当箱を広げる望の元に命が来て「望、一緒に食べよ」と言い、二人は一緒に昼食を摂る事になる。その最中、命は「ねえ、ずっと思ってたんだけどさ~」と唐突にしゃべり出し、望が「何?」と聞くと命は「望のお弁当箱と御箸って、何だか男子っぽいよね。見た目すっごく可愛いんだからもっと女の子らしい物を持った方がいいのに。」と言うと望は「お父さんお母さんの考えなの。男だからこう、女だからこうって言う考えに囚われない様に色んな物、思考を持つ方がいいって。だから男っぽいのかも」と返答するがそれを聞いた命は「ふ~ん、でも女の子らしい物が欲しいって思った事無いの?」と更に聞き、望は「引っ越しのバタバタもあるし、暫くはこのままでいいかなって思ってる。只でさえ皆大変だもん」と返す。命は「そう、ま、望本人がそう言うならそれがいいか」と言う。

その日の夕暮時、帰宅した望を歩の「お帰り~」と言う返答が向かえるが望はそれに全く反応せずに台所に向かい弁当箱、御箸、水筒を取り出して洗い始める。その途中「何が可愛んだかな、こんな物、只の道具でしかないのに」と呟く。

その夜、朝食と全く同じ構図で夕食を取る未星一家。すると同じ様に歩が唐突に口を開き「もう直ぐ連休だね、僕、新しいお友達とどこかお出かけしたいな」と言う。遥が「いいわね、どこに行こうか?」と返答すると歩は「毎年言ってる映画とかがいいかも」と返答し、遥が「じゃ、誘ってみる?」と言うと歩は「うん!!」と言う。未来が「望はどうだ?どこかに行きたい所とかあるか?」と聞くと望は「別に無い。テストに備えた勉強もしなきゃいけない、学習塾とか駅とか、そう言う施設の場所も調べておきたい。遊んでる時間は無い」と素っ気なく返答し、遥が「望、貴方は勉強も運動も出来るわ、だから・・・・」と言うと望は「だから歩みたいに友達作って遊べばいいって言いたいの?」と突っかかる様な返答をし、遥が「そうは言ってないけど・・・」とたじろぐと更に「そんなに連れ出したいなら旅行の予定でも入れればいい。最も、同行するかどうかは分からないけどね。」と続け、未来が「望!!母さんは!!」と激昂仕掛けると望は冷めた目で「御馳走様」と言い、朝食時と同様に自分の部屋に向かっていく。遥が「望・・・」と言うと歩も「お姉ちゃん・・・」と続け、未来は「これが・・・僕達に課せられた罰だというのか、望・・・」と呟く。先程までの楽しい会話は消え、重い空気が食卓を包み込む。

自室に戻った望はパソコンの電源を入れ、何かを調べ始める。


GW開けの五月上旬、遥と未来は自宅の前で誰かを待っていた。遥が「歩の家庭訪問は終わったわね、後は望だわ」と言うと未来は「うん。だけど望の家庭訪問は順番で一番最後だ、先生が少し長くいるかもしれないな」と言い、遥が「ええ、御免なさいね。折角のお休みなのに」と言うと未来は「構わないさ。望の事は僕達全員で考えなければいけない事だ。先生との会話で何かが出て来るかも知れないと思えば休みを取る位造作もないさ」と言うが、双方の言葉にはどこか不安が漂っていた。そして明が到着すると遥は「先生、お待ちしていました」と言った後に未来と共に略式の自己紹介をし、明を客間に通す。その後お茶とお菓子を明の前に出した後で対面に座ると未来は「改めまして。望の父の未来と申します」と、遥は「母の遥です」と、明はそれを聞いた後に「望さんの担任を務めさせて頂く太陽明と申します。どうかよろしくお願いします」と言う。明が「今望さんは?」と聞くと遥は「自室に居ます、中間テストが近いので勉強したいと。呼びましょうか?」と聞くがそれを聞いた明は「いえいえ、お勉強の邪魔をするのは申し訳ないですから。流石、優等生の望さんですね」と言う。だが実際は客間を隔てる扉の向こう側に聞き耳を立てながら英単語張を見つめる望がおり、その内心では「何か余計な事言わなきゃいいけど」とどこか不満げな心境を抱えていた。

明が「望さんは自宅ではどんな感じなのですか?」と聞くと遥は「自分の事は自分でやってくれる、そんな子ですね」と返答し、未来は「学校ではどんな風なのですか?先程優等生とおっしゃいましたが・・・」と逆に聞き返すと明は「ええ、それはそれは。勉強も運動も学年トップですからね。しかもそれを鼻にかけない。故に周囲との関係も良好です」と返答する。すると未来は「そうですか・・・」と懸念とも安堵とも取れる返答をする。その後暫くこうした会話が続き、明がお茶に口を付けて一瞬視界が遥と望の後ろに写った際、一枚の写真が視界に入って来る。明が「おや?あのお写真は?」と聞くと未来は「昔行った家族旅行の写真です。仕事が忙しくて中々こうした機会が取れないので数少ないその記念として」と言う。明は「そうですか、おや、もうこんな時間ですね。最後なのでつい長くお暇してしまいました」と言うと席を立ち、遥に「あ、私が御見送りいたします」と言われて玄関に向かう。玄関で明は「中学生活、色々あると思いますが望さんの中学生活が充実したものになります様に協力致します」と言い、遥は「此方も協力は惜しみません。どうか娘を宜しくお願いします」と言う。そして明が玄関から出ると客間に望が入って来る。未来が「望!?何時の間に?」と聞くが望は「この写真、まだ飾ってるの?」と未来の問いをはぐらかし、更に自分の問いで上書きする。未来が「片付けられる訳ないだろう、この写真は・・・」と返答しようとすると望は「ま、そうでしょうね」と勝手に納得して自分の部屋に戻っていく。未来は「望・・・」と意味ありげな視線で写真を見つめながら呟く。

帰宅途中の明は「未星さんの御両親は望さんが中学で優等生である事を知らなかった。つまりそれは望さんは中学での様子をご両親にお話していないという事だ。話すまでも無い事であると言ってしまえばそれまでだが・・・・それにあの写真、写っていたのは何の変哲も無い家族だが、何かが引っ掛かる。何だ、この違和感は・・・」と、どこかすっきりしない様子を見せていた。


季節は流れて七月、一学期の終業式の日、指揮が終わり、望は命と共に廊下を歩いて教室に戻ろうとしていた。その途中命は「ねえ望、明日から夏休みだけどどうするの?」と聞いてくる。望が「取り敢えずまずは宿題を片付けるわ。それ以外の事はそれから考える」と返答すると命は「本当に真面目だね~望。ま、そうじゃなきゃ中間テストも期末テストも全教科一位なんて取れないか。」とちゃかすが望は「命は大丈夫なの?中間テストも期末テストも余り良くなかったみたいだけど?」と問う。命が「失礼だな~確かに望程じゃないけど、全教科中の上から中の中位の成績は取ってるよ~!!内はお姉ちゃんが優等生厄を引き受けてくれてるから私は割と自由に色々出来るんだよね~」と言う。望は「ま、命がいいならそれでいいんだけど。」と言う。だが子の時、この仲睦まじい会話風景を階段後ろで歯軋りをしながら見て居る女子が居た。その女子が「何が学年一位よ余所者が!!本来その座は・・・」と言うとその背後から別の女子が「あれ?末月さんこんなところで何してるの?貴方の教室はこの階段の上じゃなくて先でしょ?」と話しかける。その女子、末月佳子が「え?いや、あの子・・・」とあたふたしながら返すと女子は「ああ、未星さん。凄いわよね~全国でも屈指のレベルの高さを誇るこの学校で全教科学年トップなんて。でも末月さんが首位を陥落するなんて初めてよね。それで見てたの?」と聞き、佳子は「え、ええ、どんな小学校に通ってどんな教育を受けていたんだろうな~って、で、でも私達と肩を並べられるって事はきっとそこもレベルが高かったんでしょうね~」とまくし立てる様にしゃべる。女子生徒は「え!?う・・・うん、そうね・・・」と若干引き気味でその場から去っていく。その直後佳子は「今に見てなさい、未星望・・・」と内心で望への憎悪を募らせるのであった。その日の午後、何時もの様に望が下校していると黒い学ランに身を包んだ如何にも不良と言う外見の学生数人に取り囲まれる。その内の一人が「おい、未星望ってのはあんたか?」と聞くと望は「そうだけど、そう言う貴方達は何者?自分から名乗る事もしないでいきなり聞いてくるなんて非常識ね」と返答し、その学生が「一寸俺達と一緒に来てもらおうか」と言うと望は「お断りするわ。あんた達と一緒に行動して私に得があるとは思えないもの」と言う。メンバーの女子が「ちっ、聞いてた通りのいけすかねえ野郎だ」と言うと学生は「全くだな。よし、やっちまおう!!」と言い、取り囲んでいる男女は一斉に望に飛び掛かって来る。だが望は機敏な動きでその合間を潜り抜け、不良生徒の腹部や首を殴打して返り討ちにしていく。そして女子学生の一人が「ちっ、こうなりゃ・・・」と言うと金属バットを振り上げるが望はその手を蹴り上げ、そのまま顎に直撃させてその場に倒れ込ませる。一連の流れが終わった後、周囲には倒れ込む不良と「ふう、余計な時間を取られた。早く帰って挽回をしないとな」とぼやく望の姿があった。そして帰路へと戻ろうとしたその時、望は倒れている不良生徒の鞄から何かを見つけ「これは・・・」と呟く。

その日の夕食時、遥が「望、今日は何かあった?終業式だし、お友達と約束とかしてもいいんじゃない?」と聞くと望は「別に何もないわ。ただ何時も通りに学校に行っただけ」と返答する。未来は「そうか・・・ところで明日から夏休みだろう?今年は久し振りに父さんも御盆休みが取れたからどこかに行くか。引っ越してきてから色々あってまだ家族でのお出かけが出来てないからな。」と言う。歩が「そうだね、じゃ、僕帰省って言うのをやってみたい!!」と言うと遥が「歩、どこでそんな言葉を覚えてきたの?」と聞き、歩が「友達が言ってたんだよ。夏休みに帰省するって。で、意味を調べてみたら・・・」と明るく返答すると未来は「そうだな、御爺ちゃん御婆ちゃんにも元気な顔を見せてやった方がいいかもな」と言う。遥は「望はどこか行きたい所ある?」と聞くが望は「別に・・・」と相変わらず素っ気なく返答し、未来が少し沈んだ顔で「そうか・・・だが、御爺ちゃん御婆ちゃんの所には顔を出すんだぞ。きっと会いたいと思ってるからな」と言うと望は「・・・分かった」と表情一つ変える事無く空返事をし、箸を置いて席を立つ。その後自分の部屋に向かう途中「帰省か・・・なら、あの事を調べられるかもしれないな・・・」と内心で何かを考えるのであった。


御盆休み、未星一家は新幹線、電車を乗り継ぎ、郊外の駅へとやって来る。そこに一台の車が止まり、中から顔を出した老婆が「遥、未来君、歩、望!!」と活発な声を挙げると遥は「お母さん!!」と返答し、歩は「永久御婆ちゃん!!」と言って車に駆け寄る。そしてその老婆は車から降りると歩を抱きしめる。そこに運転席に座っている老人が「さあ、こんな所で立ち話をしていても落ち着いた話は出来ないだろう。どうぞ乗りなさい。話は家でじっくりする方がいいだろう」と言って乗車を促す。歩が「先手御爺ちゃん」と言うと未来は「お義父さん、そうですね。そうしましょう」と言う。そして未星一家は先手の車に乗り込み、遥の実家に向かって出発する。その途中の社内でも会話は続き、近況報告の傍ら楽しい笑い声が響いていた。だがただ一人、望はその会話に入る事無くただ窓の外を見つめていた。永久が「ほう、歩はもうそんなに友達が出来たのかい、望はどうだい?」と聞くと望は「別に小学校と変わらないわ。毎日それなりにやってる」と返答し、永久が「そうかい、それは良かった。あんな事が・・・」と言いかけると遥が「御母さん!!」と荒げた声で制止する。永久が「す、すまん、つい・・・」と言うと望は「別に気にしていないわ・・・」と言うがその声には明らかに苛立ちが混じっていた。先手が「永久・・・」と言うと永久は何とか話を繫げようとするが言葉が出てこず、先程までの楽しい空気が吹き飛んでしまう程の重苦しい空気に車内は包まれてしまう。そしてその空気は遥の実家に到着するまで変わる事は無かった。

遥の実家のガレージに車を止め、実家に入ると歩は靴を脱いだ後早速はしゃぎだす。永久が「歩は相変わらず活発だねえ。」と言うと歩は「そう?僕は普通だけど」と言う。

その日の夕食時、台所に立つ永久は同じく立っている遥に「車の中では済まなかったね、あの事件の事は・・・」と言うと遥は「望本人は何時もあの調子よ。だけどあの物言いは・・・」と言い、永久は「ああ・・・絶対に気にしているね・・・あの事件の事」と続ける。

そして夕食、入浴を終え、歩と望が一足先に就寝した後リビングの机の周りに先手と未来がグラスを片手に座っていた。

暫くの沈黙の後、先手が「望の様子はどうじゃ、未来君?」と口火を切ると未来は「相変わらずです、身も心も・・・新天地の生活であれば望にもいい刺激になると思ったのですが・・・ですが、それを強制する資格は僕には・・・」と弱弱しい声で返答し、先手が「君だけの責任ではないよ。望の件は遥の責任でも、そして儂等の責任でもある。だから一人で抱え込むのはよしなさい。儂等とてまだあの子の涙も、そして君の涙も受け止める事は出来る」と言う。その言葉を聞いた未来は「お義父・・・御父さん!!」と言い、その瞳から涙が溢れ出る。そこに通りかかった遥が「あなた・・・御父さん。」と言うと先手は「遥、聞いていたのか・・・」と言い、遥が「ええ」と返答すると先手は「遥、今の望や未来君には支えが必要だ。共に支え合う事の出来る存在が、それが一番出来るのは・・・」と言うと遥は「ええ、私なんでしょう。私は支えるわ。望も、未来さんも、歩も」と強い口調で言う。

翌日、望が見当たらない事に気付いた遥が「望~どこにいるの~」と聞くと永久は「望なら一寸出かけてくる、夕方には戻るといって外に出ていったよ」と返答し、それを聞いた遥は「そうなの?私達にも何も言わずに行くなんて・・・」と少し不安げな顔で呟く。その頃、望は遥の実家付近にあるとある神社の境内に立っていた。そして望は「ここが変身の神様が祭られているという伊邪神社か・・・神様なんて信じちゃいねえが、この際仕方ねえ!!」と呟き、柏手を打って鈴を鳴らし、お参りをしてお賽銭を投げ込むのであった。その帰りの石段の途中、ふと右を見た望はある風景を見つける。望は「あれは・・・立入禁止のテープ?」と呟く。すると神社の神主らしき男性がやってきて「あそこに近付かないで下さい」と言う。望が「あそこって、あの立入禁止のテープが張ってある?」と聞くと男性は「はい。半年位前にあそこで転落事故があって小学生が一人亡くなったんです」と言う。望が「と言う事は、その事故からずっと?」と聞くと男性は「はい。安全性が確保されるまでは立入禁止にすると。そしてその審査には少なくとも一年程費やす必要があるとの事です」と言う。望は「分かりました、近づかない様にします」と言ってそのまま下に降りていく。だがその内心では「半年も立入禁止、更に少なくともあと半年は安全性の確保の為に必要・・・だがそれなら全体を立入禁止にする筈じゃ・・・待て、俺は何故あの場所を気にしているんだ?幾らここが問題の神社だとは言っても・・・」と思うのであった。

一方、遥の実家では庭に面した廊下で望以外の一家が西瓜を堪能していた。切った西瓜を持ってきた永久が「それにしても時が経つのはやっぱり早いねえ。もうあれから五か月経つんだよ」と言うと歩は種を出しながら「うん、僕達が引っ越してから五か月だね。初めはどうなる事かと思ったけど、直ぐに馴染めて良かったよ」と言い、遥は「歩の懸念は取り越し苦労に終わってくれたわ。でも、望は・・・」と言う。未来が「望の方はまだこれからだ。まだ希望を捨てちゃいけない」と言うと遥は「・・・そうね」と静かに返答する。そこに「只今」と言う望の声が響いてくる。歩が「お姉ちゃん帰ってきたよ」と言うと遥は「そうね、迎えに行ってあげましょう」と言うがその直後「もう遅い」と言って望が現れる。


二学期の始業式が始まり、命は相変わらず望に話しかけてくる。命が「望は夏休みどこか行ったの?」と聞くと望は「うん。御母さんの実家に帰省してきた、はいコレ。」と言って遥の地元の名産品を渡す。命は「有難う!!」と言ってそれを受け取った後「ねえ、帰省するってどんな気持ちになるの?私達ってこの付近に住んでる子が多いから帰省って殆ど縁がないからさ、気になるの~」と言うと望は「どうって・・・どういったらいいんだろう?」と困惑してしまい、その内心では「だからそれを聞いてなんになるんだ!!相変わらず意味が分からない!!」と思うのであった。


それから二週間程経ち、授業も本格的に始まったある日の体育の授業中、望を見た明は「さあ、これから・・・ん?未星、帽子はどうした?」と言う。望が「え?」と言って頭の上に手をかざすと確かに帽子が無い。望が「すみません、教室に忘れてきてしまったみたいです」と言うと明は「仕方無い。今日は体力測定で未星の番まではまだ時間があるからな。今から取ってきなさい」と言い、命が「じゃ、一緒に行ってあげる。私は望の後だし」と言うと望は「有難う」と言って命と共に教室に向かう。だがその頃、誰も居ない筈の教室で蠢く影があった。その影の主は「ウフフフ・・・今なら誰も居ないわね・・・」と言うと鋏を取り出し、望の服に手を伸ばす。だがそこに望と命が入って来る。命が「末月さん!?ここで何をしているの!?」と言うとその影の主、佳子は「天野さん!?それに未星さん!?こ・・・これは・・・」と言うと動揺した声を挙げ、命が「それ、望の制服じゃない・・・」と言うと佳子は「こ、これは・・・あああっ!!」と言うとパニック状態になり、鋏を振り回す。そこに騒ぎを聞きつけた近隣のクラスの生徒や教諭も集まって来る。その中の一人が「末月さん、何をしているの!!」と呼びかけるが佳子は鋏を振り回し続け、その先端が望の腕を切って出血させる。だが望はそのまま佳子の腕を掴み、組み伏せて取り押さえて鋏を床に落とさせる。佳子が「あああっ・・・あああっ・・・」と言うと女性教諭が「末月さん、未星さん、天野さん、ゆっくりお話を聞かせてもらえる?」と聞くと命は「あ、はい。」と返答するが望の腕に血が滴っているのを見て「あ、でも先に望の怪我を何とかしてからでいいですか?」と付け加え、女性教諭は「そうね。それじゃ保健室でのケアが終わったら校長室まで来てくれる?」と言う。

保健室での怪我の対処を終え、望と命が校長室の扉を開けるとそこには佳子と佳子を抱きしめるその母親、険しい顔で末月親子を見る校長、明、女性教諭が居た。佳子の母親が「この子達ね!!過去を陥れようとしているのは!!」と言うと命は「陥れるって何です!!望はその子が振り回した鋏で怪我をしたんですよ!!」と反論するが佳子の母親は「そんな物幾らでもつけられるわ。自作自演で。この子がそんな事するはずがない物!!大体、何の理由があってそんな事をするのよ!!」と言うと明は「ですから何度でも申し上げているでしょう。御宅のお子さんが鋏を振り回して未星さんに怪我を負わせたと」と言う。そこに遥と未来もやって来る。二人は「望!!大丈夫か」と聞くと望の腕を身、望が「ええ、もう血も止まっているし、何ともないわよ。」と言う。佳子の母親が「何でこの子の両親まで来るのよ!!そうまでして佳子を貶めたいの!!」と半切れ状態で言う。遥が「貶めたいって何です!!どうして現実から目を背けるんですか!!}と言うと佳子は「だってあり得ないもの!!この子が怪我を負わせるなんて!!だからあんた達皆グルでこの子を貶めたいんでしょう!!あんた達教師も、この二人も、この同級生も!!」と狂信的にいい、周囲と一触即発状態になる。だがその中、望は不意に「ルミノール」と呟く。佳子の母親が「え!?」と困惑すると望は「さっき教室で落ちたその子の鋏にルミノールを吹き付けてみればいいんじゃないですか?それで私の血液反応とその子の指紋だけが鋏が出れば動かぬ証拠になるでしょう。それを聞いた明は「確かにそれはそうだが・・・そんな簡単にルミノール検査は・・・」と困り顔で言うが遥は「そうね、なら専門機関にそれを依頼しましょう」と言う。佳子の母親が「な・・・何よ、何よ!!そこまでして・・・」と言うが佳子は「もういいわよ・・・」と呟き、もう一度「もういいわよ!!」と大声で叫ぶ。佳子の母親が「か・・・佳子・・・」と言うと佳子は「そうよ、私がやったのよ!!」と言う。佳子の叫びに校長室が水を打った様に静まり返り、只一人、佳子の母親だけが取り乱す。女性教諭が「どうしてこんな事をしたの!!」と佳子に詰め寄ると佳子は「だって悔しいじゃない!!私は何時だって一番になって注目されてきた、それを外から突然・・・」と言いかけると望はその言葉を遮り「だからその一番になった私に思い知らせようと思ってやったって訳?今日の事も、そして一学期の終業式の帰り道の事も」と言う。明が「一学期の終業式の帰り道だと?何があったんだ?」と聞くと望は「一学期の終業式の日、この近辺で不良生徒数人が倒れているのが発見されたニュースは知っていますか?」と問いかけ、女性教諭が「ええ、確かこの辺りでは有名な不良グループで誰かに襲い掛かろうとして返り討ちにあったとその生徒達は話していたけど・・・まさか!?」と返答すると望は「はい。その誰かとは私です。そして私は見ました、その不良生徒のリーダーらしき生徒の鞄から佳子の電話番号を記した手帳と不良が持つには相応しくない高級ブランドの財布が。調べてみたら貴方のお母様の会社から販売されてる財布でしたよ、佳子。それにあの生徒は明らかに誰かにけしかけられて私を狙っている様でした。私の事を聞いている素振りを見せていましたから。」と言う。遥が「どういう事なの!?」と聞くと佳子の母親は「し・・・しら・・・」と困惑するが佳子は「そうよ、その不良をけしかけたのも私よ。でも失敗した、だから今回こそはと思ったんだけどね。もういいわ、何もかも事実よ。好きにすればいい」と言うと椅子に腰かけ、俯いて何も話さなくなる。母親は「佳子!!佳子!!」と過去の体を揺するが反応は見られない。望が「さて、問題が片付いた所でそろそろ授業に戻りたいのですが・・・」と言うと明は「あ・・・ああ、先生はもう少し彼女と話があるから先に行ってなさい」と言い、望が「じゃ、遥、行こう」と言うと遥は「うん」と返答し、二人は校長室を後にする。それを確認した明は「未星さん、一寸・・・」と言うと遥と未来を進路指導室に移動させ、机越しに対面で座る。未来が「態々場所を変えてのお話・・・内容の想像はつきますが・・・」と言うと明は「はい。先程望さんが話していた不良生徒の一件、御両親は御存じは・・・」と言い、遥が「ありません・・・ニュースで見ただけです。望はあの日も何もなかったと・・・」と言うと明は「幾ら何でも可笑しすぎます。例え返り討ちにしたのだとしても不良生徒に絡まれた事を話さないと言うのは常識では考えられません。つまり望さんは何か常識から外れた考えを持っている・・・そういう事では無いのですか?」と言う。その後少しの沈黙が流れるが、それを破って未来が口を開き「・・・全てをお話します。私達の育児の問題点があの子を歪めてしまいました」と言う。明が「育児の問題点・・・」と聞くと未来は「はい。私達は第一子である望に過剰な期待を抱き、英才教育を施してきました。文武は勿論の事、経済や政治等、本来その年齢で覚えtるには相応しくない事まであの子の意思を無視して次々と・・・ですがその結果、あの子は過度に合理的な性格になってしまったんです」と言い、明が「学校での人付き合いに妙な違和感があったのはそのせいですか・・・」と言うと未来は「恐らくは。あの子は幼稚園の頃より人の輪に入らず、表面的な付き合いに終始してお互いに深く入り込まない、人に関心がない、そんな様子でした。そして私達がそれに気付いた時は既に手遅れです。既に早熟してしまった望の性格はどうにもなりませんでした」と言う。続けて遥が「そして歩が生まれ、私達は歩には人付き合いを重視し、それなりに必要な教育を付属させるという育児をしました。弟が出来る事、そして弟を見る事で望にも何らかの変化が起きてくれる事を期待して。ですがそれで起こった変化は私達の願った形とは真逆の方向でした。友達の輪を広げていく歩を見た望は益々人間関係を煩わしい物だと認識し、結果当初の考えである自分は人を信用しないという芯をより強める結果に終わってしまったのです、そしてあの日・・・遂に私達に天罰が下りました・・・」と言う。明が「天罰と言うのは?」と聞くと未来は「あれは・・・望が小学校を卒業した翌日、私は現在の住居に引っ越す為の転出届を提出する為に市役所に行ったのです、望と共に。そして私が手続きを終えたその時、待合ブースで待っていた望が突然意識を失って倒れ、その姿が女体化したのです・・・」と言う。その話を聞いた明は思わず表情を歪め「女体化!?では望さんは・・・」と言うと未来は「はい、望はあの時まで男子でした。ですがあの時、突如として女体化を起こしたのです。」と言う。遥が「直ぐに病院で検査を受けましたが原因は不明、身体、精神にも変化は見られず、あくまで姿だけが変わったというのが判明した検査結果です。それ故なのか、望はその事実についてもただ淡々と頷くだけでした。市役所内で起こったという事もあり、職員さんも目撃されていたので事後対応もスムーズに行きはしましたが・・・」と言うと明は「女体化した原因は未だわからず…と言う訳ですか」と言い、未来は「はい。既に引っ越しの準備が完了していたことに加え、これまでの望を知らない人の方が偏見を持たずに接してくれると思い、私達はそのまま現在の住居に引っ越し、そして現在に至るという訳です。だからこの女体化は私達に下された罰・・・そう考えてしまうのです・・・」と言う。明が「では、家庭訪問の時に見えた家族写真にどこか違和感があったのは・・・」と言うと遥は「この一件が原因・・・だと思います」と言う。明は「事情は分かりました。私も望さんの事については出来る限りの協力を致します。まだ中学一年生、諦めるのは早いです!!」と言って立ち上がり、それに呼応して未来と遥も「先生・・・有難う御座います」と言って立ち上がる。

その頃望は教室に戻り、授業を受けつつもその内心では「さっきの母のどういう事なのと言う発言・・・あれは佳子の母親に向けられた物じゃ無い。私に向けられた物だ。だとすると、先生もその事に気付いて・・・余計な事を言ってなければいいんだけど。折角今後の邪魔になりそうな奴をその計画を逆に利用して排除出来たのにここで邪魔が入って欲しくないわね」と思うのであった。


それから月日は流れ、運動会、文化祭、マラソン大会と行事を重ねるが、どれも望やその周囲の関係性を変える事は無く、平穏、しかし変化の無い日々が過ぎていった。そしてその年の年末、未星家では大晦日から正月にかけてどの様に過ごすかを話し合っていた。未来が「御正月もやっぱり帰省するか?」と聞くと歩は「うん、今度は皆とも会いたいな。」と明るく返答するが望は特に興味が無さそうな素振りを見せる。遥は「じゃ、御正月までに日程を考えておきましょう。いきなり押しかけたら迷惑だものね。」と言う。その日の夜、望は眠っていると夢を見始める。夢の中で望は「ここは・・・あの神社の・・・?」と言い、伊邪神社の転落事故現場に居た。そこに薄暗い靄が立ち込め、女性とその女性に連れられた少女が現れる。

望が「貴方は・・・?それにここは・・・」と言いかけると女性はその言葉を遮り「この少女を探しなさい。この少女を探しだす事が出来た時、貴方の願いは叶うでしょう。」と言って去っていく。その直後に目を覚ました望は「夢か・・・しかし、縁も所縁も無い少女を探せ・・・か。どうやら神様ってのは無理難題を吹っかけてくる輩みたいだな。だが・・・」とこぼし、その直後窓から朝日が差し込んでくる。

大晦日の日、再び遥の実家に帰省した未星家は初詣に行くか行かないかを話し合っていた。歩が「初詣か~皆とこれからも仲良く出来ます様にってお祈りしたいな。」と言うと遥は「そうね。望はどうする?」と望に話を振る。望は「私は・・・」と言うと断ろうと言おうとするがその時先日の夢が脳裏を過ぎり「この少女を探しなさい、そしてあの夢の場所・・・もしかしたら・・・」と思い、「伊邪神社だったら行くわ」と言う。すると他の家族は少し驚いた表情を見せる。それを見た望が「何よ?行くって言ったのがそんなに以外?」と聞くと未来は「い、否・・・一寸な・・・」と言って誤魔化すが、その内心には何か不安を募らせるのであった。

夜、伊邪神社に着くとやはり大晦日とあってか、参拝する人で大混雑していた。そして参拝の順番が回り、それぞれの願い事を告げて最後の歩が「来年も皆と仲良く出来ます様に」と言った直後、先手が「おや、望はどうした?」と聞く。遥が「え!?」と言って辺りを見渡すがそこに望の姿は無かった。永久が「まさか、この人混みの中で逸れたのか?」と言うと未来は「いえ、お祈りの声は聞こえて居ました。だとしたら・・・」と言い、歩は「とにかく探そうよ!!」と言う。先手は「そうじゃな。だがこの人混みの中では一人では危険じゃ、儂と永久、未来君と遥、歩で手分けして探そう」と言い、それぞれ望を探しに向かう。その頃望は神社内、転落事故現場に居た。望は「立入禁止のロープはまだ貼ってあるか・・・だが、もしあの少女を探せというのが俺の思っている通りだとしたら・・・」と言ってロープをくぐり、その先にある斜面を懐中電灯で照らしながら下っていく。その途中も常に左右に目を行き届かせ、何かが無いかを探しながら。そして斜面を下った先で一つのランドセルを見つける。望は「ランドセル・・・例の事故で死んだ少女が身に着けていた物だろうな。」と言って手に取り、その中身を取り出しながら「教科書、リコーダー、割烹着、名札・・・如何やら普段から忘れ物が多い子だったみたいだな。おっと、名札も入ってる。名前は天空彼方・・・か。だがこれといって・・・」と呟いて確認する。するとランドセルの奥に一通の手紙が入っているのを見つける。望は「これは・・・手紙?だが教科書が雨等で弱っているのにこの手紙は汚れ一つついていない・・・どういう事だ?」と手紙を手に取り、その内容を確認する。「望む君へ。ずっと同じクラスだったけど、結局あんまりしゃべれなかったね。望む君、遠くから見ている時も格好良かったし、

皆と一緒に居る時も何時も笑顔で居てくれたね。でも、どこか距離がある、そんな気がしてる。だからね、私、望む君の事、もっと知りたい。だから今度、一杯お話するね。天空彼方。」と書いてあった。その内容を見た望はどこか複雑な表情を浮かべ「転落事故の被害者は俺の同級生だったのか・・・だが名前も知らない子だな・・・如何やら俺はこの子の興味を惹いていたらしい。だが・・・」と呟く。するとその瞬間、手紙が光出し、そこに未来、遥、歩も現れる。遥が「望!!そこで何をしているの!?」と言うと望は「母さん!?それに父さんと歩も!!」と言うがその直後に手紙の光が増し、その場にいた全員を包み込む。


光が晴れてくると、そこは見た事も無い輝きに包まれた空間となっていた。歩が「ここは・・・周りに何も無い・・・あそこにいるのはお姉ちゃんと・・・」と言うと未来は「見た事も無い女性と少女だ・・・だが・・・」と続け、遥は「ええ、分かるわ。あの少女の見た目は・・・望と同じ」と言う。すると少女はその顔を上げ、望と瓜二つの顔、体を見せる。望が「貴方が天空彼方ね」と聞くと少女は「・・・うん。私が天空彼方。望君と親しくなりたいと思っていたのに声もかけられず、そのままあそこで事故で死んだ天空彼方」とか細い声で言う。未来が「事故で死んだ!?じゃ、あそこに立入禁止のテープが張ってあったのは・・・」と言うと望は「そう、彼女が事故死した事で危険だと判断されたから、そして、彼女の遺品を探す為にそのままにして置いてほしかったから。でしょう?」と続け、彼方の傍にいる女性は「はい。」と言う。遥が「貴方は・・・その子のお母さん何ですか?」と聞くとその女性は「いえ、私は・・・」と続けようとするが何故かその途中で言葉を詰まらせてしまう。遥が「私は・・・?」と再度聞くと望は「伊邪神社に祭られている変化の神様でしょう」と言う。すると女性は「・・・はい」と静かに返答する。

歩が「その神様と事故死した女の子がどうして一緒に出て来るのさ?それにお姉ちゃんと・・・」と言うと彼方は「私はあの日、ここにお参りに来たんです。どうしても望君に声を掛けられない、そんな自分の気持ちを変える為に神様の力を借りようと思ったんです。でもそのお参りに行く途中、石段で不審者に追いかけられてそのまま・・・」と言い、女性は「その様子の一部始終を見て居た私は彼女が不憫でなりませんでした。そしてせめて手紙だけでも読んで欲しいと思いました」と言う。望が「でも貴方は知ってしまった。私達・・・否、俺達がもう直ぐ引っ越してしまう事を」と言うと女性は「・・・はい。ですが私が直接手紙を渡す事は出来ませんでした。なので・・・」と言うと望は「俺を女体化させ、引っ越しを阻止しようとしたと言う事か。全く、超常現象は起こせるのに手紙は渡せないとは。神様と言うのは融通が利かない存在なのか?」と言い、女性は「はい・・・私達と人の世の理は似て非なる物ですので・・・」と言う。遥が「でもそれは結果的に寧ろ引っ越しを促進する結果になってしまった。私達が元々問題を抱えている一家だったから・・・」と言うと望は「でも何でお盆にここに来た時にこの事を示唆しなかったんだ?」と言うと女性は「貴方が神と言う存在を信じて居なかったからです・・・信仰のない物に干渉する事は出来ないのです・・・ですがあの日、貴方がここで参拝してくれたお陰である程度干渉する事が出来る様になりました。その後、貴方がこの転落事故の事を調べてくれた事も相まって」と言う。未来が「望・・・お盆にここに来たのか!?」と聞くと望は「ああ、ここが変化を司る神様を祀っている神社だと知って万に一つの思いで賭けてみたのさ。そしてここで起きた転落事故もこの神社を調べる過程で色々情報が出てきたのさ。最も、その事を知ったのは来た後だったけどな」と言う。

女性は「この子の願いは叶えられました。貴方が遺品の手紙を読んでくれた事によって。さあ、次は貴方の願いを叶える事が出来ます」と言う。歩が「お姉ちゃんの願いが叶う・・・」と言うと望は「願い・・・そんな物決まってるさ!!俺の・・・否、私の願いは・・・!!」と言う。


そこから時間は流れ、三学期の始業式、教壇に立つ明が「今日から三学期だが、始業式の前に皆に転校生を紹介する、入ってきなさい」と言う。ざわつく生徒がその転校生に目を向けるとざわつきはどよめきに変わり、命は「ちょ・・・一寸!!あの子・・・」と言う。その少女はホワイトボードに自身の名前を書き「天空彼方です。宜しくお願いします」と言って一礼する。命が「望、あの子・・・」と言うと望は「ええ、私と瓜二つね。何でも遠方の親戚らしくて血縁関係があるからとか両親は言ってたわ。ま、そんな事はどうでもいいんだけど、重要なのはこれから仲良く出来るか否かよ」と言う。下校時、その姿を見た佳子は「何よ、あの外見・・・只でさえ・・・」と言いかけるが望の顔を見て踏みとどまる。


その日の帰り道、彼方が望と二人で下校している時に不意に「望君」と口にすると望は「その呼び方はやめてって言ってるでしょう。ま、仕方無いのかもしれないけど」と返答し、彼方は「ご、御免!!望ちゃん・・・これでいいのよね」と訂正し、望は「そう。ま、余り気にしては居ないけど外では周囲の目って物もあるからね」と言う。彼方が「これで・・・いいのかな?」と聞くと望は「ええ、これが最も合理的でベストな選択なのよ。色んな意味でね」と言う。彼方は「あの日・・・私は・・・」と思うと大晦日の事を回想し始める。


(「私の願いは・・・その子にもう一度人生を歩ませてあげてほしい!!これよ!!」と言う。その言葉を聞いたその場にいた全員が困惑した表情を浮かべる。女性が「!?それは!?」と戸惑いながら返答すると望は「私の願いが本当に叶うのであれば可能なのでしょう!!」と強い口調で迫る。女性は「確かに・・・それは可能ではあります。しかしその為にはこの子の魂を入れる入れ物が必要です。既に現世に彼女の肉体が存在していない以上、新たな肉体を作り出すには貴方の片方を切り取らなくてはなりません。歩が「片方を切り取るって・・・どういう事!?」と聞くと望は「私の片割れ・・・私は男から女に転換した。つまり現世で男の体と女の体、二つの体を持つ存在と言う事でしょう。そしてその片方と言うのはそのどちらかを私から切り離し、一方に固定する事」と言い、女性は「その通りです。」と肯定する。遥が「それじゃ、望は・・・」と一瞬顔を緩めかけるが女性は「しかし・・・それを行うとなると現在の貴方で固定化される事になります。それはつまり・・・」と続け、未来は「望は・・・もう男には戻れなくなるという事か・・・」と言う。女性が「はい」と静かに言うと望は「構わないわ、そんなの!!今ここで私が男になる事よりも彼方が新たな生命を得る方が遥かに世間的に見て合理的で有意義な筈よ11」と言う。未来が「でも、それじゃ・・・」と言うと望は「これが私の願いなのよ!!幼少から英才教育ばかりしておきながら今更自分の為に情をかけてもらおうなんて考えないで!!父さんと母さんが私が戻る事を願うなら私は寧ろ、このままで居る事を願うわ。中学生にありがちな反抗期って奴ね!!」と言う。歩が「お姉ちゃん・・・」と言うと望は「さあ、やって!!」と言う。女性は「分かりました・・・貴方の決意が揺るがない物であるという事も、そして貴方の願いも」と言うと望に手を翳し、その直後再び光が一行を包む。

そして光が晴れると再び伊邪神社、転落事故現場へと戻りそこには歩、未来、遥が立ち、望と彼方が気を失って倒れていた。そこに救急車が現れ、二人は病院に運ばれる。事故現場に物が落ちている事を不自然に思った神主が念の為に呼んでいたという。

病院での精密検査の結果、望は完全に女となり、彼方も特に生理機能に異常は無く、望と瓜二つなのも偶然で片付けられるレベルの話であるという事が医師の口から語られた。)


再び下校途中の彼方が「ねえ、どうして私望ちゃんの男の部分に入ったのに以前と同じ姿で居られたのかな?」と聞くと望は「あの神様がやったんだと思う。と言うよりそうとしか考えられないわね。状況から考えても。せめてもの心遣いだったんじゃない?」と言う。望が「ま、今更男に戻ったってそれはそれで問題が発生してくるだろうし、はっきり言うと私は本当に元に戻りたいと思っていたのかどうか、自分でも疑問なのよ。ただ謎を解きたかっただけなのかもしれないってね。女である事は既に受け入れて居て、それでも謎を解きたいからその原動力として男に戻りたいという思いを使っていただけなのかもしれないって。そして、だからこそあなたと肩を並べたいと思う事が出来た。」と言う。彼方が「肩を並べるって、大変だよ~」と言うと望は「ええ、まだまだこれからが重要ね。とりあえず今は授業についていける様に頑張らないとね」と言い、彼方は「うん。折角もう一度チャンスがもらえたんだもの!!今度こそ!!」と言い、その内心で「私はあの後、死んだ天空彼方とは同姓同名の別人として望ちゃんの家に引き取られる事になった。やっぱり死んだ人間が生き返ったなんて信じてもらえないだろうし。その後は大変。望ちゃんと同じ学校に通う為に勉強漬け!!しかも授業はまだこれからだから付いて行けるのかどうか心配!!でも、決してめげずに頑張りたい」と思う。

彼方が「そういえば望ちゃん、校門で明らかに私達を見てた子が居たけど・・・」と聞くと望は「末月佳子の事ね。以前学校で大きな問題を起こして、それに私も関わったから、睨まれてるのよ。最も、たっぷり油を絞られたみたいだけどね。」と言うがその内心では「彼方を佳子に関わらせる訳には行かないわね。あの日の計画、私が図書室で伊邪神社の資料が何かないか探して居た時に聞こえてきたものなのだから。そしてそれを利用して白日の下に曝す事が出来た。伊邪神社に興味を持たなければどうなっていたか分からないわね」と思う。

彼方が「さあ、早く帰ろう!!」と言うと望は「ええ、明日に向かって歩き出す為にもね!!」と言う。そして二人は家に向かって駆け出すのであった。

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