7話 三嶋 蕾花との出会い
優華と共に入学式を終えた私たちは、
学校が終わったあと一緒に私の家でお昼ご飯を食べて、
カラオケに行った。
私たちは一緒のクラスになれた嬉しさもあって、
凄く盛り上がった。
それに、優華は私が勧めた曲を歌ってくれて
凄く感動しちゃった。
だってあの曲は優華の声にとても似合っていて、
ぜひ優華に歌ってほしかったから。
私は調子に乗りすぎて優華に注意されたにもかかわらず
喉を壊してしまった。
声が少し低くなってしまい凄く恥ずかしかった私は、
次の日から高校に行く時はマスクをして、
風邪を引いた振りをして登校した。
私が喋り難そうにしている時は、
優華の方からよく喋り掛けてくれた。
声が元に戻るまで一週間掛かってやっと喋れるようになった頃、
私にとって特別な人と出会った。
高校の職員用女子トイレで私はその人と出会った
_
私はトイレの鏡の前で自分の顔を見つめていた
「うーん、もう少し大人っぽくならないかな」
クラスメイトのみんなは可愛いと言ってくれるけど
綺麗とは言ってくれない。
親友の優華だって私のことを可愛い妹のように
思っていたりする。
私の方がしっかりしてると思うんだけどなぁ。
たぶん、私のこの身長とこの顔のせいだよね。
「この前だって近所のおばさんに小学生に間違われたし、制服を着ていなかったとはいえ、おばさん私の年齢知っているはずなのに何で間違えるのかな」
「はは、確かに小っちゃくて可愛いよね。
間違われても仕方がないんじゃない?」
私の後ろから誰かの声が聞こえた
「え・・・? あ、あの」
後ろに振り返った私は少し戸惑ってしまった。
だって後ろにいた人は私よりも背がずっと高くて、
顔立ちが凄く美形だったから____男性の様に
女子生徒の制服を着ているから、女の子だと思うんだけど。
なんか凄い人だなこの人、顔立ちが日本人じゃない。
外国の人なのかな?
顔も絵に書いた王子様のような感じだし、
___でも女の子なのかな?
それとも私と同じなのかな?
ここの職員用のトイレを使っているってことは、
私と同じく入学前に両親から先生に使用許可もらって
ここに来ているのかな?
でもいきなり私と同じ男の子ですか?って聞くのも失礼だよね。
___んーどうしよう(; ゜゜)
私が戸惑っていると、不思議そうな顔をして
美形の女の子は声を掛けてきた。
「ん? どうしたの?」
「あっ! ごめんなさい、ちょっとビックリしちゃって。私以外誰もいないと思ってたから」
「そうなんだ、何か驚かしたみたいだね。悪気は無かったんだ、ゴメンね」
「いえ、私の方こそごめんなさい」
「それにしても凄く可愛いよね。私も最初は、小学生かなって思ったよ」
「やっぱり私そんなに子供っぽいですか?」
「いや、後ろ姿だけだったらね。顔をちゃんと見たら綺麗で中学生に見えるよ」
「それでも中学生じゃないですか、は~、せめて身長があと10センチ高くなれたらなぁ」
「今は身長いくつなの?」
「142センチです」
「私より40センチ近くも低いんだ、でも今のままでも良いんじゃない? そのままでも綺麗で可愛いし、それに子供っぽいのは身長とかじゃないし」
「そうなのかな? 身長ではなかったら、この顔かな?」
「それも違うんじゃないかな?」
「じゃあどこが子供っぽいんですか?」
「___んー、雰囲気?」
「もう! それ致命的じゃないですか。雰囲気ってどうしたら変えれるんですか?」
「無理なんじゃない? それに無理して変えても上手くいかないもんさ。人間自然体が一番!」
「そうなんですかね」
「そうそう、私みたいにさ。ほら私の顔って日本人ぽくないし、顔立ちは男みたいだし。そんな私が無理に女の子っぽくしたって変なだけだよ」
「そんなことはないと思いますけど」
「気を使わなくてもいいよ、昔から家族や幼なじみや友人に男みたいって言われていたしね。それに、私この顔は自分でも気に入っているんだ」
「そうなの? 女の子なのに嫌じゃないの?」
「うん、全然嫌じゃないよ。心と体は正真正銘女だけど、顔や身長が男みたいって言われたからって嫌な気持ちには一度も無かったよ」
「ホントに?」
「うん、ほんとだよ。触って調べてみる? 男の子の印しが着いているか」
「触らなくても大丈夫です。質問の答えがほしいのはそっちじゃなくて、女の子なのに男の子みたいって言われるのが嫌じゃないってことのほうです」
「ああ、そっちね。ホントだよ、だって私自信男みたいな顔だって思うし。それに男みたいって言われるのは褒めてくれていると思っているよ。中には悪口のように言ってきた人がいるかもしれないけど、言われる側の言葉の捕らえ方でその意味は大きく変わるよ。私は自分の容姿をコンプレックスと思っていないし、むしろ他人に誇れる私の大切な特徴と思っているよ。それに女なのに男みたいって面白いじゃん、父さんと母さんがくれた大事なこの体、今の私にあたえてもらったもので楽しく幸せに生きていたい。だから、女なのに男みたいって言われて嫌な気持ちになるのはもったいない気がしているよ」
美形の女の子はそう言って無邪気な笑顔をした
彼女の真っ直ぐな言葉に私は胸を打たれた。
彼女はとても心が強いと感じたから。
自分のコンプレックスになりそうな容姿を一つも隠さなくて、
全て現実を受け止めている。
むしろそれを誇りに思っている。
私とは違って彼女は自分の人生に抗うことをしていない。
小学生に頃に弱い自分を変えたくて容姿と心が女の子になった私とは大違いだ。
私は自分が男の子だということを秘密にして女の子だと偽っている。
自分の弱さを隠すために親友の優華以外には女の子だと嘘をつき続けている。
私の心はなんて薄くて小さいのだろう。
そんなことを思っていると小学生の頃惨めだった自分を思い出して、
___涙が流れた。
「え? ど、どうしたの? 何か悪いことでも言ったのかな?」
「いえ、違うんです。なんか真っ直ぐで心が大きくて凄い人だなぁって思ったら、私が小さくて惨めに思えてきたから」
「私はそんな大袈裟な人間じゃないよ、ただ私はあまり考えるのが得意じゃないし、幼なじみにはいつも少しは考えて行動しろって注意されるし」
「やっぱり私にとっては凄い人だと思いますよ。その、もしよかったら名前を教えてもらっても良いですか?」
「ん? いいよ。私は三嶋 蕾花」
「三嶋さん名前教えてもらってありがとうございます。」
「蕾花でいいよ。君の名前も聞かせてもらっていいかな?」
「私は小橋 璃霧です。えと、あと私は一年生なんですけど。蕾花さんは何年生なんですか?」
「私も一年生だよ。だから、さんも、敬語もいらないよ」
「私と同じ一年生なんですか。じゃあ、遠慮なく敬語使わないようにしますね。蕾花凄く大人っぽいから上級生かと思ったよ」
「身長が無駄にあるからね、そう見えるだけだよ」
「そうなのかな、でも私は憧れちゃうな。私はこの身長だし、いつまでたっても子供みたいだし」
「身長高くてもいろいろ大変だよ。服のレディースはサイズがなかなか無いし、あと身長が高いと力がありそうに見えるらしんだけど、私はそんなことがなくて重たいものをよく持たされたりするんだけど、期待に応えられなかったりする」
「へぇー、身長が高すぎるのも大変なんだね、でも身長が低いのも大変だよ。高いところにある物とか取るの大変だし、それに服のサイズだって子供用の服ばっかりだし。それとこうやって身長の高い人と話をするときは、ずっと見上げて話さないといけないから大変だよ」
「はは、極端に身長が高くても低くても大変なんだね。お互い身長が極端だとそれなりに苦労するね」
「そうだよね。もうちょっと人並みの身長だと楽なんだけどね。で、蕾花? さっきから気になってたんだけど。その、首の辺りからぶら下がっているのはイヤホン?」
「ん? あ、これ? さっきまでこれで曲を聴いていたんだ、ここのトイレの方が静かだからね。今度バンドで練習するから集中したくてね」
「えっ? 蕾花ってバンドしてるんだ。凄いなぁ~、私音楽凄く好きでバンド練習とか興味あるんだ。ジャンルとかどんなのしたりするの?」
「私達は基本Rockが好きだからね、今流行りのRockバンドとかコピーしたりしてるよ。あとオリジナルも何曲か作ってるけど、それもRockかな」
「そうなんだ、私もRockが好きでよく聴くんだ。友達もRockが好きでよく一緒に聴いたり歌ったりするんだ。だからバンド活動してる人とか憧れちゃうなぁ」
「じゃあ、今度私達のバンドが練習スタジオに行くんだけど、一緒に行ってみる?」
「え? いいの?」
「うん、いいよ。次の練習はゴールデンウィーク辺りにすると思うんだけど、まだ予定が決まってなくてね。予定が決まり次第教えるね」
「はい、お願いします。凄く楽しみにしてるね。ねぇ蕾花? 練習するために聴いていた曲って何の曲なの?」
「たぶん、聴いたことあると思うんだけど。ほら、これ聴いてみて」
蕾花はそう言って、私の身長に合わせるように前屈みになって首から下げていたイヤホンを私に差し出してきた。蕾花の顔が近くてドキっと胸の辺りが跳ねた。
やっぱり蕾花は凄い美形だなぁ。気のせいかなぁ、蕾花の周りだけ空気がキラキラとしているように見える。えっと、こんな感じで現実離れしていることをなんて言ったっけ? ___浮き世離れしているだったかな?
私は蕾花の差し出してくれたイヤホンを耳に当て流れている曲を聴きはじめた。
流れていた曲は私がこの前優華に勧めて、カラオケで歌ってもらった曲だ。
「あっ! 私も知っているよこの曲、私大好きなんだ」
「良い曲だよね、最初聴いた時衝撃を受けたよ。歌詞とか斬新だし、歌メロとか伴奏とかセンス良いし」
「そうだよね。サビのところの、世界欺く揺るぎない正義って歌詞のところが凄く感動しちゃった」
「その部分が一番の泣きどころだよね」
「だよね、あとこのバンド他にも良い曲があるんだ。____」
私はそれから好きなバンドの話で盛り上がった。
「璃霧? ここで話すのもなんだし、教室に向かいながら話そう?」
「あっ! ごめんね。私話に夢中なっちゃって」
私たちは自分たちの教室へと向かって歩き出した。
歩きながら音楽の話をして盛り上がり、時には笑ったりして話し続けた。
蕾花と私は一緒のようでまるで正反対
私は男の子だけど、自分の弱さ隠すために心と容姿が女の子。
蕾花は容姿が男の子のようだけど、心と体は女の子。
自分を偽らない蕾花の強さは私にはないものだ。
私も蕾花のようになれるといいな。
でも今の私には自分が男の子だと明かす勇気がない。
優華の時は、私と同じ独りぼっちの辛さを知っていると思ったのと、
彼女の心を開きたかったから勇気を出して言えたけど。
___いや違うかな。
彼女なら自分が男の子だと告白しても、私が女の子になった理由を話したら、
気持ち悪いと思わず理解してくれると思ったから。
結局私は優華を自分の弱さを隠すために甘えてるだけだ。
だから私は優華にできる限りのことをしたい。
いつも私が男の子だって秘密を守って理解して、
私と一緒にいてくれる優華に恩返しがしたい。
優華自身が自分から友達を作れるようにしたい。
でも、今までうまくいかなかった。
蕾花ならきっと優華を変えてくれるかもしれない。
私とは違った強さを持った彼女なら出来るかもしれない。
今度、優華に蕾花を紹介してみよう。
でもごめんね蕾花。
私はまだ蕾花に自分が男の子だと告白する勇気がでない。
でもいつか必ず私が隠している秘密を教えるからね