4話 璃霧のお節介
「はぁぁ、」
私は新しい制服を見つめて、
大きなため息を吐いていた。
今日は璃霧と一緒に
高校の入学式だというのに、
私はまだ制服を着れていなかった。
やっぱり、入学式に行くの嫌だなぁ。
璃霧と同じクラスなれると
決まってるわけじゃないし。
もし同じクラスになれなかったら
私は、どうなるんだろぅ。
さっきインターホンが鳴ったから
きっと璃霧が迎えに来たんだろうけど、
私は何も準備ができていない。
璃霧はきっとこんな私を見たら
呆れるだろうなぁ。
そんなことばかり考えていると、
何もする気が起こらなかった。
私がもう一度、大きなため息を吐いた時
部屋の外から璃霧が声を掛けてきた。
「優華ー? 迎えに来たよー」
「璃霧、私はもうダメ」
思い詰めていた私は、
ついそんなことを、口に出してしまった。
「もう! 何、死ぬ前の人みたいなこと、
言っているの!」
「ごめんなさい、璃霧!」
「別に謝らなくていいよ、それと
制服は、まだ着れていないんでしょ?」
「う、うん」
「準備手伝うから、部屋に入るよ?」
「うん」
私の返事と同時に、
璃霧が部屋に入ってきた。
私は不安になっていた気持ちを
抑え切れなくて、
璃霧に抱き付いた。
「璃霧ーーー!」
「優華!
ちょっとまっっ! んぐ! んーーー!」
私は、身長の低い璃霧の頭を
抱きしめていた為に
璃霧は私の胸の辺りで、
息苦しそうに手をバタバタとしていた。
それに、気付いた私は、
すぐに璃霧を放した。
「璃霧! ごめんなさい!
私、ずっと制服を見ているしかできなくて、
何も手につかなくて」
「優華、少し落ち着いて」
「はい」
「やっぱり今日学校行くの、嫌?」
「うん」
「私じゃ優華の助けにならない?」
「そんなことない! 璃霧はいつも、
私の事を助けてくれた。
たがら璃霧が一緒じゃなかったら、
私はダメなの」
「それは、同じクラスに
なれなかった場合のこと?」
「うん」
「優華、私達が
同じクラスになれなかっても、
優華と友達になってくれる子が
いるかもしれないよ。
それに私は、出来る限り休憩時間とか、
優華に会いに行くし。
それに、入学式を優華と
一緒に行けないのは、私嫌だよ。
優華が一緒じゃなきゃ私寂しいよ。」
璃霧が凄く寂しそうな顔をした。
そうよね、
親友が一緒に行かないって言ったら、
寂しいよね。
私は、璃霧に謝った
「ごめんなさい璃霧。
私、自分のことばかりで、
璃霧に寂しい思いを
させることなんて考えていなかった。」
「優華、一緒に学校行こ?
不安なら、一緒に手を繋いで行こう? ね?」
「うん」
私は制服に着替え始めた。
璃霧も色々と私を手伝ってくれて、
思ったより早く制服を着ることができた。
そして、制服を着終わったら
璃霧が残念そうな声で言ってきた。
「ねえ優華? その髪形で、学校に行くの?」
「うん」
私が返事をすると、
璃霧は無言で自分の鞄の中から
何かを取り出した。
手に持っていたのは、ヘアブラシだ。
そして璃霧は、私に襲いかかってきた。
「ちょっと! 何するの?璃霧?」
「せめて! 今日だけでも!
髪を整えて、綺麗にしようよ!」
「嫌! 絶対に嫌!」
私は力一杯、抵抗した。
璃霧も諦めなかった。
私達は5分くらい争って、
璃霧が手に持っていたヘアブラシを
私が取り上げることで、
私が勝利した。
璃霧がヘアブラシで私の髪を触ろうとしたことは
何回かあったけど、
今日の璃霧はとても強引だった。
璃霧のことだから、
私のためを思っての行動だと思うけど
何を考えているのか、わからなかった。
「ねぇ璃霧? ヘアブラシで私に何をしようと思ったの?」
「えっとね。この機会に優華を、
綺麗な女の子にイメチェンして、
私が小学生の時、変われたように
優華にも、
良いきっかけになればいいかなって思って」
やっぱり私のことを、
思っての行動だったんだ。
でも私にとっては、お節介だ。
それから璃霧は
綺麗なのにとか、もったいないとか、
色々言ってきたけど。
私は一度も、そんなこと思ったことなかった。
私の髪なんて、癖っ毛のせいでボサボサしてるし。
顔はお母さんと似ているけど。
私の目付きはお母さんと違っていた。
私の目付きは、凄く怖い。
この目付きのせいで、
友達に悪口を言われたりした。
私にとってはコンプレックスでしかなかった。
いったい璃霧の目に、私はどう映っているんだろう。
璃霧は、私が取り上げたはずの
ヘアブラシをまた手にとって、
また私に襲いかかろうとしていた。
もういい加減しつこいから私は、
もう学校行かないって言ったら
「もうしません、ごめんなさい」
璃霧は頭を下げて、素直に謝ってきた。
まあ、私はそこまで怒ってないんだけどね。
璃霧がしつこかったから、
ちょっと意地悪したかっただけなの。
「璃霧? 私、怒ってないからね。一緒に学校へ行こう?」
「ホントに? 私ちょっとやりすぎちゃったと思って、
後悔して謝ったのに」
「璃霧がしつこかったから、
意地悪しただけだよ」
「もう! 優華の意地悪!」
璃霧は、頬をぷぅっと膨らませて
拗ねた顔をしていた。
璃霧があんまりにも可愛いので、
私は思わず笑ってしまった。
「ごめんね璃霧。もう意地悪しないからね、
だから一緒に行こう?」
「うん!」
璃霧は満面の笑みで答えてくれた。
私はこの笑顔で何度も救われた。
中学の時、璃霧が転校してきて私と友達になってくれなかったら
私はあの時、死ぬことを選んだろうなぁ。
璃霧には、本当に感謝している。
今日だって私のことを思って
早めに迎えに来てくれたし、
それに今日不安だった私をいつの間にか元気にしてくれる。
「璃霧、いつもありがとう」
私は璃霧にそう言って手を繋ぎ、二人で部屋をあとにした