3.
連続投稿ラストです。
訂正 黒髪→茶髪
彼女が来なくなって1ヶ月と半月が経った日の夜、僕は夢を見た。とても懐かしい夢を。
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「ねえ、―ちゃん。とうきょうにいっちゃうって本当?」
「うん。パパがえいてんするんだってママが喜んでた」
幼い男の子と女の子が草原で花冠を作っている。女の子は色とりどりの花を綺麗に編んでいくが、男の子は不器用なのか苦戦しているようだ。
「さみしいなあ。ずっとここにいればいいのに」
「―も健君ともっと遊びたいよ。でも、仕方ないもの」
素直に不満を表す男の子に対し、女の子は大人びた口調で言うが、今にも泣きそうだ。
「あげる。あまりうまくできなかったけど」
「わあ、ありがとう。じゃあ、代わりに私のをあげる」
唇を噛んで俯く女の子の頭に男の子は自分の花冠をのせた。照れたように笑う男の子に女の子は嬉しそうに笑ってお返しに綺麗に作れた花冠を男の子にかぶらせた。
「あ、あのさ!僕が会いにいくよ。とうきょうでもおおさかでも、どこにいたって会いにいく。―ちゃんのことが大好きだから。だから―ちゃん、笑って」
頬を赤くして、拙い言葉で好きだと伝える。子供の言うことだ。そんな約束は大きくなったら忘れてしまうだろう。それでも女の子はびっくりしたようだけど引き結んだ口が弧を描いた。
女の子はスカートのポケットから小さい巾着を取り出して男の子にあげた。
「ママが教えてくれたの。だれかとお別れするときに花の種をあげると、いつかまた会えるんだって。―ね、健君とまた会いたいの。だから、これ持ってて。なくしちゃいやだよ」
「うん。わかった。時間はかかるかもしれないけど、絶対会いに行くから。―ちゃんのこと忘れないから。僕のことも忘れないで」
「うん。忘れない。やくそく」
ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんの~ます ゆびきった
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「ゆび、きった」
ゆびきりの形で手を前に差し出したところで目が覚めてはっとした。
忘れていた。
いつの間にか東京に出てくることが目的になって、少女と交わした幼い約束を記憶の彼方へ押しやっていた。
「種、どこやったっけ」
ごめんね。
約束の証。再会の道標。大切にしていたはずなのに。
そのありかも、わからないんだ。
それどころか、こんな時に浮かんでくるのは彼女の笑顔だけで、少女の顔も名前も思い出せない。
彼女と言葉を交わしたのは夏の盛りのころだった。
彼女が来なくなったのは残暑厳しいころ。
そして今はもう、秋も深まり紅葉の季節も終わりに近づいた、晩秋だ。
あの夢を見て僕は少女のことを両親に聞いてみた。
少女の名前は『小山かなみ』。漢字はわからなかったがくしくも彼女と同じ名前だった。
人見知りの大人しい子だったらしい。小学2年の時に転校してきて5年の夏に引っ越したようだ。家が隣で近くに近い年の子供がいなかったから2人で遊ぶことが多かったのだろう。
送ってくれた写真によるとくせっけの茶髪を2本に結んだ目鼻立ちがはっきりしたかわいい子だった。でも、あれから10年近く経っているので、あまり役には立たないかもしれない。
こうしてみると不思議なものでぽろぽろと少女との思い出が呼び覚まされた。
最初は口もきいてくれなかった。一緒に登下校していたけれどちゃんと話したのは一週間ぐらいした後だった。学年が上がるとクラスの子にからかわれて少しぎぐしゃくしたこともあった。ケンカして2週間も話さない時もあった。少女と過ごした期間は全てがキラキラして見えていた。
「会いたいな」
自然とこぼれ出た言葉。
あれが僕の初恋だった。
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