1.
宣言通り今月中に投稿できました!!!
とりあえず3話連続投稿です。
彼女との出会いは単なる偶然だった。
バイト先のカフェに来店したお客さん。この店が気に入ったのか、毎週土曜日の夕方、一番空いている時間に来て、店の裏にあるマスター自慢の庭が良く見える窓際に座る。頼むのはいつも同じでダージリンティー。そしていつも本を読んで、帰っていく。
彼女と話したことはない。でも、本を読んでいる時の、庭を眺めている時の、紅茶を飲んだ時の、彼女の優しい微笑みに惹きつけられた。
僕と彼女はただの店員と客。町で偶然会っても挨拶すらしない、そんな関係。それが変わったのもまた、単なる偶然だった。
「こ、コーヒー、は、いかがですか」
土曜日の夕方に訪れた彼女。特等席に座って、紅茶を頼んで、悲しそうに溜息をついた。ぼうっと窓の外を見て、また溜息をつく。
何とも言えない感情が心に広がる。気づいた時にはコーヒーを差し出していた。
頼んでもいないものを差し出されて怪訝そうに眉を寄せる彼女に慌てて弁明する。
「あ、その、マスターのコーヒーはすごくおいしくので、せっかく来ていただいているから飲んでみてほしくて。ほら、お客さん、いつも紅茶だから。きっといい気分転換になりますよ。僕の奢りです」
早口で言い切って、彼女の様子をうかがう。沈黙が重くて、心臓がばくばくと早鐘を打つ。
ぽつりと、初めて聞く彼女の声は、呆れたような声だった。
「真夏なのに、ホットコーヒー、ですか」
言われてやっと気づいた。彼女が頼んだものはアイスのダージリン。持ってきたのは湯気の立つ淹れたてのコーヒー。
「今すぐ冷たいのと取り換えてきます」
「おいしい」
彼女の手元には白いコーヒーカップ。
「おススメなだけありますね。なんだか、暖かいです」
顔を見ればほっとしたようないつもとは違う笑顔。
「砂糖2匙とミルクを少し」
「え?」
「砂糖2匙とミルクを少し、僕は、これが一番おいしいと思っています」
緊張でどうにかなりそうだ。
「じゃあ、これがそうなんですか。ブラックが好きそうなのに、意外ですね」
「ブラックもいいですけど、落ち込んだ時はこの配分が一番です。甘党、なので」
いつも見ているだけだった、
「私も甘党なんですよ。だからコーヒーが苦手で。でもこれはとてもおいしいです」
「マスターの入れるコーヒーは絶品ですから」
彼女と話している。
「おい、健太郎。そろそろ仕事に戻れ」
「うわ、はい。すみません。そろそろ戻ります。ごゆっくりしていってください」
マスターに言われて急いで仕事に戻ろうと彼女に背を向けた。
「あの、ケンタロウさん。コーヒー、ありがとうございました。元気が出ました」
彼女の声にもう一度彼女に向き直った。
一息吸って、
「いえ、良かったです。・・・・名前、聞いてもいいですか」
彼女は目を丸くした後、飛び切りの笑顔で教えてくれた。
「香波、菊池香波です。菊の池の香る波です」
「荻健太郎です。植物の荻に健康な太郎です」
僕と彼女が店員と客から知り合いになった瞬間だった。