正夢
体の痛みで目が醒めた、どうやら熱があるようだった。
こんな日は、願う通りの夢を見る。ふふ、と意味も無く笑って布団に寝転がった。
久々に見る想い人は、記憶のそれより痩せていた。訪ねてきたその人を抱き締めると、微かに煙草の香りがする。
「お腹減ったな」
私が首肯を返すと、彼は少し嬉しそうに台所に向かった。彼は手際よく料理を始める、私は邪魔にならないように控えめにそれを手伝った。
「食べたら、散歩に行こうね」
食事中の彼の提案を私は喜んだ。
「はやくお散歩行こう」
「ちゃんと全部食べなさい」
他愛もない話をしながら、食事をした。彼の作る料理はどれもこれも美味しかった。
朧月夜、涼しい風にまかせて川沿いを歩いていると、彼が立ち止まった。
「むこうの高台に公園があるね、たしか」
辿り着いた公園には、私達の他に誰も居なかった。私は芝生に寝転んで月を眺め、彼は座って煙草を吸いながらぽつりぽつり何か話した。
「あまり僕を詮索しないのは、恋人と思わないからか」
「えっ」
驚いて飛び起き、私は慌てて否定した。
「そんなことはないよ」
「そうか、それならよかった」
彼の表情は煙に隠れて、窺い見ることが出来ない。
「好かれているのか、嫌われているのか分からないから」
「どうして」
私は自分でも理解できないまま、泣きはじめてしまった。彼は驚いて私の顔を覗き込んだ。
「何か気に触ったか」
「恋人じゃないと思うの?」
泣きながらそう訊ねる私に、目を細めて笑った。
「僕の好きと君の好きが、同じかと気になったんだ」
彼は私を抱きしめて子どもをあやすように背中を撫でた。
「行動もあれこれ制限していたんだけど、その必要もないわけだ」
そう言って耳元に口づけをした彼に、私は返す言葉もなくただ狼狽えているばかり。
「なに、やっぱり嫌なんじゃない」
「嫌とかじゃなくて」
彼は不思議な笑みをこぼして、今度は唇に口づける。嫌じゃないなら笑ってよ、と私の頬を撫でた。私はその手に指を絡ませて、その長い指に唇を触れた。
「好きよ」
「初耳だな」
どうして笑うの、と彼の顔を指でつついた。
「君は表情がこどもっぽいな、と思って」
例の笑顔を、今度はわざとらしく作ってみせる。
月で白く照らされた彼の肌に、私は初めて会った時のように照れくさくなって目をそらした。風が強く吹いて、彼の香りと夜の香りとが混ざって私を幸せな気持ちにした。
恋人になってくれるか、と問う声に返事をして夜風に肌を冷やしながら、それでもどこか熱の篭ったまま、私は恋人と手を繋いだ。
息を吐きながら目を覚ますと、見覚えのある顔が視界を遮っていた。心配そうなその瞳に視線を絡ませると、冷たい掌が頬に触れた。
「二人でお散歩した、夢の中で」
「熱が下がったら行こうか」
夢現に、彼の言葉を聞いて私はまた色付きの夢を見る。瞼を撫でる恋人の温度を散歩道の道標に、私は優しい微睡みに身を任せた。




