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短いお話

正夢

作者: 眞木 雅
掲載日:2014/09/12

 体の痛みで目が醒めた、どうやら熱があるようだった。

 こんな日は、願う通りの夢を見る。ふふ、と意味も無く笑って布団に寝転がった。 


 久々に見る想い人は、記憶のそれより痩せていた。訪ねてきたその人を抱き締めると、微かに煙草の香りがする。

「お腹減ったな」

 私が首肯を返すと、彼は少し嬉しそうに台所に向かった。彼は手際よく料理を始める、私は邪魔にならないように控えめにそれを手伝った。

「食べたら、散歩に行こうね」

 食事中の彼の提案を私は喜んだ。

「はやくお散歩行こう」

「ちゃんと全部食べなさい」

 他愛もない話をしながら、食事をした。彼の作る料理はどれもこれも美味しかった。


 朧月夜、涼しい風にまかせて川沿いを歩いていると、彼が立ち止まった。

「むこうの高台に公園があるね、たしか」

 辿り着いた公園には、私達の他に誰も居なかった。私は芝生に寝転んで月を眺め、彼は座って煙草を吸いながらぽつりぽつり何か話した。

「あまり僕を詮索しないのは、恋人と思わないからか」

「えっ」

驚いて飛び起き、私は慌てて否定した。

「そんなことはないよ」

「そうか、それならよかった」

彼の表情は煙に隠れて、窺い見ることが出来ない。

「好かれているのか、嫌われているのか分からないから」

「どうして」

 私は自分でも理解できないまま、泣きはじめてしまった。彼は驚いて私の顔を覗き込んだ。

「何か気に触ったか」

「恋人じゃないと思うの?」

泣きながらそう訊ねる私に、目を細めて笑った。

「僕の好きと君の好きが、同じかと気になったんだ」

彼は私を抱きしめて子どもをあやすように背中を撫でた。

「行動もあれこれ制限していたんだけど、その必要もないわけだ」

 そう言って耳元に口づけをした彼に、私は返す言葉もなくただ狼狽えているばかり。

「なに、やっぱり嫌なんじゃない」

「嫌とかじゃなくて」

 彼は不思議な笑みをこぼして、今度は唇に口づける。嫌じゃないなら笑ってよ、と私の頬を撫でた。私はその手に指を絡ませて、その長い指に唇を触れた。

「好きよ」

「初耳だな」

 どうして笑うの、と彼の顔を指でつついた。

「君は表情がこどもっぽいな、と思って」 

 例の笑顔を、今度はわざとらしく作ってみせる。

 月で白く照らされた彼の肌に、私は初めて会った時のように照れくさくなって目をそらした。風が強く吹いて、彼の香りと夜の香りとが混ざって私を幸せな気持ちにした。

 恋人になってくれるか、と問う声に返事をして夜風に肌を冷やしながら、それでもどこか熱の篭ったまま、私は恋人と手を繋いだ。


 息を吐きながら目を覚ますと、見覚えのある顔が視界を遮っていた。心配そうなその瞳に視線を絡ませると、冷たい掌が頬に触れた。

「二人でお散歩した、夢の中で」

「熱が下がったら行こうか」

 夢現に、彼の言葉を聞いて私はまた色付きの夢を見る。瞼を撫でる恋人の温度を散歩道の道標に、私は優しい微睡みに身を任せた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 甘く優しい夢……そしてそれは正夢。 ほんのりと、不思議な気持ちにさせられるお話でした。
[良い点] 描写が良い。地の文もきれいで読みやすく、すらすらと読めました。 [一言] とても良い短編だと感じました。描写がきれいで、夜の公園で一組の男女が話をしている様子を容易に想像できましたし、それ…
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